3時間目 平和は次のバトルへの準備期間
「畜生! よくも! ぶっ殺してやる! 冬ぴーとあの女!」
(うるさいな……)
「はいはい。上田くん。あーん……」
「あ、あーん……」
(今だ。――喰らえ)
「眼鏡、眼鏡、俺の眼鏡……」
「あら? スプーンどこに……」
「熱っ!? 何するんすか、看護師さん……!」
「え」
「ふむ」
(眼鏡再装着)
(本当、うるさいガキだ。鬱陶しい)
(――バスケ部2年。
?????
(俺が眼鏡を外すと相手は手に持った物が見えなくなる。ったく退院はいつになる……)
(俺は全ての武器使いに特効! たとえば去年滅ぼした男子剣道部などにな)
(まあ、主将のように強いアタッカーと組めばの話だが)
(ゲーム的に言うならば、武器を持つ相手1体を混乱/足止めさせる)
(宮本武蔵だろうが――瞬殺!)
?????
「ふん」
「畜生畜生畜生!」
「ごめん……。今拭くわ……」
(やってろ)
(はん。バレー部との抗争でこれか。やはりサポート役はつらい)
「何でオレがこんな目に……!」
「ごめんね」
(ふん。女か)
(茶道部の
(女か。ふん……)
(
(【ウラノカマ】――50%で当たる占い)
(最初は「バレー部に行ってみなさい」と言われて酷い目に遭った。サメめ。
(
(何か首だけが未来を予言したとかいう伝承がある)
(面白いネーミングセンスだった。元気でいてくれているといい)
(ふむ。バレー部な……)
(中西は――強い。口が上手くて)
(ああ、そう言えば卒業前に「病院で生涯の親友が出来る」とも占ってくれてたな。5割か)
「覚えてやがれ! 冬ぴーとあの女!」
(ふーん)
(見舞いに来てくれた仲間に調べさせるか)
《バスケ部2年神平正信くん。やがて身に着ける第2能力は【センター・カウンター・ディフェンス】! チェスのオープニングの1つだよ》
(「今年に統一が果たされる」という占いは本当だろうか。5割か。部活バトル――)
?????
上田くんを倒した翌朝から、クラスは
「えー。今朝のホームルームは連絡事項が1つあります。1番の相坂だけでなく、2番の上田竜二もしばらく入院することになりました」
ざわざわ……ざわざわ……。
「はいはい、お前ら。落ち着け落ち着け」
「はーい、先生! それはどういうことなんでしょうか?」
「いい質問だね、31番の
そして先生がいなくなり――
「――おい。お前、どう思う?」
「上田のことかい?」
「他に何があるって言うんだよ。アイツが病院送りにされただって? おいおい、悪い冗談だろ」
「ふむ。つまり、お前はこう言いたいのだな? このクラスの誰かが、あの上田とバトルしてウィンしたと!」
「……ああ、うん。そうだけどよ」
「そして、お前はオレがやったのではないかと疑って、鎌をかけているな!」
「ちっ! いや、さっきまではそうだったけど、今は絶対無理だと確信したわ」
「ふっ。所詮、上田のような単細胞にクラスを制覇するなど出来なかったな……」
「奴が不在のこの隙に、我らの勢力を伸ばそうぞ……! しかし、問題は誰が奴を倒したか……?」
「ねえねえ。上田くんを倒したのって、やっぱりウチのクラスの誰かかな?」
「普通に考えて、よそのクラスの馬鹿に、ちょっかいかける人はいなくない? いるとしたら、あの馬鹿に代わって、ウチを支配したいと企んでるとか……」
「漫画にも、ヤクザに絡まれた人が別のヤクザに助けを求めて、結局そっちのヤクザに身ぐるみはがされるお話とかあったよねー」
「……原さん。あんた、どういう本読んでるの?」
「この中に、上田を倒した犯人がいる!」
「畜生! これ以上、こんなクラスにいられるか! 俺は次の犠牲者になるのが嫌だから、皆から距離を置かせてもらうぜ!」
「馬鹿、
今まで上田くんに抑えられていた反動で、クラスは一気に騒がしく――昼休み。
「困ったねー、冬林くん。皆がパニックでギシンアンキだよ……」
「……そうだね、水野さん。僕らが上田くんを倒したと知られたら、一斉に皆で襲いかかって来そうな感じ……」
僕は教室を出て、水野さんと2人で校庭の木陰で昼食を。
「悪いことなんてしてないのにー!」
「文句を言っても仕方ないよ。今は大人しくしていよう。クラスで仲間を探すのは、皆が落ち着いてからのほうがいい」
僕は手作りのお弁当。水野さんは登校する途中で買って来たらしい野菜サンド。
「うぅー! 平和への道のりは遠いよー」
「遠いねー……と言うか、そんなものが来る日があるのやら」
食事を終えて、教室に戻る途中の廊下で――
「よぉよぉ。冬林と、ついでに水野。お前、無事ウィル能力に目覚めたんだって?」
「先生、こんにちはー!」
腐れ教師に対しても、水野さんは元気一杯な笑顔を見せます。
「はい、こんにちは。冬林はそんなに私を邪険にせんでくれ」
「……昨日上田くんがあそこに来たのは、先生の差し金ではないのですか?」
「そういうのは私、むしろ規則で出来ない。ただの偶然だろ。偶然」
「……そうですか」
《いえーい》
「冬林には結構いい能力が出たみたいだし。この先どう生き残りの戦略を取って行くかは任せるよ。昨日のアレは水に流して適当に仲良くしないかね?」
妥協と和解を求めるような微妙な笑顔。
「……それはそれとして、私は仕事で報告書を出さないといけないの。お前のウィル能力の実験をしたいから、放課後、水野と生物準備室に来てくれる?」
「ねえねえ、冬林くん。放課後はどうするの?」
「……この学校は非常識なとこだけど、担任教師のお願いを無視するのも気が引ける」
「おお! 冬林くんってばツンデレだー」
「……どこで覚えたの、そういう言葉」
?????
放課後――
「行け、水野! お前の【スプーン=スネイク】で、人体模型のひゃっはー君を破壊するのだ!」
「って、どういうネーミングですか!」
「何だよ。ひゃっはー君は私の大事な親友なんだぜ」
「親友を破壊しろとおっしゃるのですか、先生は」
「科学の発展に多少の犠牲はつきものさ」
「……その犠牲とやらに、僕ら生徒も含まれていそうなのが鬱なんですが」
「いいなー、冬林くん。先生と仲が良くて楽しそう」
「どこが……?」
実験を終える頃には、日がとっぷり暮れていて――
「んー。なるほど。色々と分かったな。冬林の能力で強化した能力は、2回目以降も同じ効果で変化しない。効果が出るのも一瞬だけ」
「ええ。他にも色々と……」
「でもよー。この能力は結構強力だけど、致命的とも言える弱点が2つねえ?」
「……ですね。1つは仲間がいないと戦えないこと。あと、もう1つの弱点が……」
「こっちは本当にマズイわな。お前が能力を使って戦うには、相当覚悟を決めてかからないといけないわけだ」
「ええ。昨日は上田くんだけだったから良かったですが……」
翌日。
「よおよお、冬林だったっけ? お前、上田の野郎を倒したのが誰か知らないか?」
「……全然まったく心当たりがナイヨ」
前の席の男子が話しかけて来たのですが、本当のことは言えません。
?????
「むぅ! 何かやりにくいー!」
「……仕方ないよ。僕らが上田くんを倒したと知られるわけにはいかなくなった」
「他の悪い人もやっつけろー、とか言われちゃうから?」
「そうだね。断ったら角も立つだろうし。でも、僕の能力は濫発出来ない」
他に人がいない中庭で、水野さんと内緒の相談をしています。
今まで実感がなかったですが、この学校の生徒は全員がウィル能力の持ち主です。僕や水野さんを除いたクラスメイトの顔と名前すら、まだ一致しません。
しかし、その全員が何らかの能力を持っていて、他のクラスや学年の人たちも同様。
皆が皆、上田くんのような人だとは思いたくないですが……
「うぅー! キミと私でコンビを組んで、この学校の悪い人たちをバッタバッタとやっつけて行きたかったのにー!」
「……水野さんが危ないことをしなくなってくれるのはプラスかな。と言うか、何でそんな好戦的になってるの? 上田くんのことは穏便に説得しようだったのに……」
「冬林くんが殴られたから!」
水野さんの三つ編みが、ピョコンと揺れます。
「え」
「上田くんにガツーンとやられた時、心臓が止まるかと思ったもん! あんな酷いことする人たちが一杯いるなら、全員やっつけちゃわないと!」
「うわー……」
彼女の安全に僕は責任を感じざるを得ませんでした。
?????
とは言え、しばらくは平和な日々が続きそう。
「いただきまーす! 今日も校庭でお昼だねー!」
「ちゃんと噛んで食べるんだよー……って、僕が言うのもおかしいか」
「いえいえ。キミのお兄ちゃん目線にも慣れました。何だかなーって感じはするけど、面白いし、まあいいよ」
そんなに変なこと言ったつもりはないんだけどな……。
「でも、今日も美味しそうだよねー。それ全部手作りなの?」
僕の弁当は、ミートボール、卵焼き、きんぴらなどの定番。水野さんは買って来たらしいコロッケサンド。
「……一応、全部作ってるけど。でも、残り物とか作り置きがほとんどだよ? 昨日ハンバーグだったから、残ったタネでミートボール作ってまとめて冷凍しておいた。おから入れて増量してあるけど」
「冬林さんってば、マジでぱねえっす!」
「口調が変わっちゃってるよ……。食べる?」
「むぅ。味に興味はあるけど、催促したみたいで恥ずかしいな……。よし! このコロッケのカケラと交換で!」
「ありがとう。……マスタード効いてて美味しいね」
穏やかな日々でした。
しかし、のんびりとばかりはしてられません。
?????
「入部試験がある」
「上等っす!」
「ま、完治したらだ」
「へいっす! 先輩」
?????
「……先生。この学校で身を守るには、どうするのがいいでしょうか?」
ある日の放課後。毎度おなじみの生物準備室を僕は1人で訪れます。
「おや、珍しい。今日は水野がいないのか?」
「用事があって先に帰っちゃいました。僕は今後の相談を……」
能力の効果を試す実験に協力して以来、担任の木嶋先生が、わずかに情報提供などをしてくれるようになりました。
水野さんとコンビを組んでから、何となく自分が先導役に。
(あの子が酷い目に遭うのは嫌だし、僕の能力は1人では戦えない……。上田くんだって、いずれ退院して来るだろうし)
だから、少しでも多くの情報を集め、今後の方針を誤らないようにしたいのです。
「そうねー。基本は強い能力を持った人たちがいる、どこかのグループに所属させてもらうこと。部活なんかに入るのもいいかもよ」
「……部活?」
「そう。この学校における部活動とは――一種の武力集団だ」
「何でじゃあああああああああああああああああああああ――っ!?」
「常識で考えれば分かるだろ?」
「……常識という言葉の意味が、一瞬で理解不能になりました」
?????
「えーと。エレンちゃん?」
「えぐえぐえぐ! 世界中の人間の黒歴史を公開してやる……!」
「あー。またですですよ」
?????
翌日早朝。
「えーと。つまりだね。水野さん。僕らのウィル能力は1人1個で、一度発現したら固定で変化しない。だから、強い能力の子はずっと強くて、弱い能力の子はずっと弱い。それが3年間続くのが嫌で、この学校を辞めちゃう生徒が多いらしいんだ……」
登校しているクラスメイトがまばらな教室で、昨日聞いた話を水野さんに伝えます。
「上田くんみたいな子が、沢山いるってことだね! 許せない!」
「いや、強くても悪いことしない生徒もいるらしいから……。それと、強い部類の能力者でも無敵と言うには程遠い。だから自然と生徒同士が集まって、グループを作ることになるんだってさ」
「なるほど。まさに私と冬林くんみたいな感じだね」
「そうそう。ウチのクラスでも、小さなグループがいくつか出来てる気配があるし」
「それで、それと部活がどうしたの?」
「先生に言わせると、最初はここの部活も普通のサークル活動だったらしいんだ。でも、いつの時代も上田くんみたいな子は必ずいる。そんな子に部活の仲間が倒されたら……」
――許せねえ! 仕返しだ!
――これからは部員同士で協力して身を守りましょう。
「そこで部活の内容に興味はなくても、少しでも戦力になってくれそうな生徒はどんどん採用していったとか……」
《ぐんかくきょーそー》
「なるほどー。でも、あれれ?」
「何?」
「それだと最後の最後には、部活同士のバトルになっちゃわない?」
「……木嶋先生に聞いて来る」
聞きました。
?????
「要らねえかな……このレベル」
(【スプーン=マゲール】は間違いなく要らん。冬林も……)
?????
「……なってるらしい。先生に言わせると今は真面目に部活動をやってる所の方が少なくて、強い仲間をかき集めて少しでも自分たちの勢力を伸ばそうと、戦国時代の国盗りバトルみたいな有り様になってるだとか……」
「酷い! 何で、そんなの誰も止めないの!」
「止められるの……? どこの部活にどんな人がいるとかは教えてもらえなかったけど」
「むぅ! 酷いね……!」
水野さんが怒りに奮えた様子で、ぷっくり頬を膨らませてます。
「そうだね、酷いねー」
この時の僕はどこか他人事で、「何を言ってるんだ、先生は……」みたいな感じだったと思います。
しかし、後日――
「ヒャッハー! 野球部様のお通りだぜ!」
「おらおら、雑魚ども! 消毒されたくなかったらどきやがれ!」
などと言いながら校内を
周りの生徒たちは僕も含めて、目を合わせないようこそこそしてます。
?????
「……木嶋先生。何なんですか、あの人たちは」
「野球部だよ。だから、バットを持っててもおかしくない」
「釘バット。改造。凶器。野球不可」
「部費で買ったバットをどう使おうと、基本アイツらの自由だし」
「注意しましょうよ! 嫌ですよ、こんな無法地帯!」
「うるさい! お前がここの教師だったら、そんなことが出来るのか? アイツらこの学校でも1・2を争う勢力で、関わりになるのはヤバイんだよ!」
さらに後日。
これは僕が直接見聞きしたわけではないですが――
「ヒャッハー! 中庭にある畑を荒らしてやるぜ!」
「ひいっ! わたしたち園芸部が必死で耕した菜園がぁあああああああっ!」
「畜生! 野菜も買うと高いから、1人暮らしの食費を節約出来ると思ってたのに!」
「ヒャーッハッハッハッハッハッ! 他人の仕事を台無しにするのは楽しいぜ!」
「ひぃっ! おやめください! それは来年使う予定の
「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」
「てめえら園芸部は消毒だ――っ!」
「そこまでだ! 外道ども!」
「……部長!?」
「ヒャッハー! 誰だ、てめえは?」
「3年園芸部部長、
どかーん! ずかーん! げしゃーん!
「ぐはっ! こ、コイツ強え!」
「農作業で鍛えた肉体と打撃系のウィル能力の相乗作用……弱小勢力だと思っていたが、部長クラスともなると侮れねえ! ヒャッハー! 誰かキャプテンを呼んで来い!」
ずしーん……ずしーん……ずしーん……ずっぎゃーん!
「な……! 貴様は!」
「やい、てめえら! オレの名前を言ってみろ!」
「ヒャッハー! あなた様こそ我ら野球部のキャプテンにしてリーダー、3年の
「ヒャッハー! シャギ様が来られたからには、てめえの負けだぜ!」
「くっくっく。ウチの部員を可愛がってくれたようじゃねえか! たかが園芸部ごときに、オレ様が負けるはずがない!」
「おのれ……! おれは最後まで諦めん!」
「野球部より優れた園芸部など存在しねぇえええええええええええ――っ!」
?????
翌朝。
「えー、今日のホームルームでは連絡しておくことが1つあります。昨日の放課後、野球部と園芸部の間で部活バトルが起きて、後者が敗北。部長以下全員が退学し部活も解散。部費予算は全額野球部に奪われました」
そこまで事務的な口調でおっしゃってから先生は――
「まあ、ウチのクラスには園芸部がいなくて良かったよ」
と。
僕の後ろの女の子は、ぷりぷりと怒ってました。
「むぅ! やっぱりこの学校は酷いね、冬林くん」
「……そうだね、水野さん。控えめに言っても最悪だね……」
「良し、冬林くん! やっぱり私たちの力で全ての悪い人たちをやっつけて、この学校に平和と統一をもたらそう!」
「出来るかああああああああああああああああっ!」
クラスがざわざわしてたので、このやり取りを聞く人は少なかったと思います。
……誰だよ、穏やかな日々なんて言ったのは。
《しゅりょー民族 VS のーこー民族。いやー、文明発展シミュレーション》
?????
その日の放課後。
「……水野さーん。まだ気は変わらない?」
「変わりません! こんな酷い学校で、皆3年間も生活するなんて可哀想!」
「……それは僕も同感だけど」
僕のウィル能力は、弱いウィル能力を強化する能力です。
弱点の1つが仲間がいないと戦えないこと。
「でも、無理して付き合ってくれなくてもいいよ。危険な戦いになるのは間違いないし。私のことは気にしなくていいから、冬林くんは自分の安全を第1に考えて!」
「ああああああああああ…………!」
だけど、たった1人の仲間が単独行動しそうな勢いで、彼女が倒されでもしたら僕自身の身すら危ういです。
「ねえ、水野さん。無理するのは良くないよ。千里の道も一歩からと言うじゃない? 今は地道に力をつけることを優先すべきかと思うんだ」
「具体的にどうするの?」
「……作戦会議だったら、よそでやって欲しいんだけどなー」
放課後の生物準備室でした。
パソコンでお仕事をしてらっしゃる先生に申し訳なく思いながらも、他に行く所がありません。
「とりあえず、キミ以外にも仲間を増やしたいと思うんだ。それも、なるべく弱いウィル能力の持ち主を」
「キミの【ずぎゃーん=ボム】が使える相手ってこと?」
「……ちょっと待って。何それは?」
「キミのウィル能力の名前だよ。肩に触られた途端、ずぎゃーんとエネルギーが流れてきて、それがボーンと爆発する感じだから【ずぎゃーん=ボム】!」
「……えーと」
《却下♪》
「思い付きでつけただけだから、もっと格好いいのがあったら変えてもいいよ」
「……とりあえず仮名ということで」
《よしよしよし》
1年B組35番 冬林要
ウィル能力名 【ずぎゃーん=ボム】(仮)
効果 弱くて戦闘に向かない能力を強化する。ただし……
「……色々実験したけれど、僕の能力は使い勝手が今イチだよね。弱点の1つが同じ相手には同じ効果しか出ないこと」
【スプーン=マゲール】→【スプーン=スネイク】(効果は固定)
「僕らのグループにキミしかいないと、敵の能力次第では絶対に勝てない可能性もあるんだよ」
「私のスプーン攻撃を、正面から受け止められるみたいな?」
「正面からとは限らないけど」
「んー。でもさ、冬林くん。私たちが声をかけたとして、その人は素直に仲間になってくれるかな? 思ったんだけど……」
――やあ! 僕は冬林要。僕は弱くてカスなウィル能力を、強くできる能力を持っているぜ、ずっぎゃーん!
弱い能力者(本当かよ……?)
――だから、もしキミの能力が全然戦闘に向かない能力だったら、僕らの仲間になっておくれよ!
弱くて疑い深い能力者(これ、騙される可能性もなくないか? 「ぎゃははー! バッカでえ! 僕の能力はそんなのじゃ全然ねーよ! てめえの能力がカスだってのを確かめるために嘘をついただけなのさー!」みたいになる可能性も……)
――さあ! 僕らの仲間になってくれる?
――やなこった。
「なんてなっちゃう可能性もなくはない?」
「確かにね……。ずっぎゃーんはさておいて」
「あと逆にね、上田くんみたいな人だったら……」
――こんにちは。僕は冬林要です。弱い能力を強くする能力を持っていて、ただいま仲間募集中!
強くて悪い能力者(オレには関係のない話だな……。いや、待てよ? これが本当ならコイツは仲間がいないと戦えない? 1人でいる所を狙えば楽勝で……!)
「みたいになっちゃわない?」
「……そうだね。やっぱり自分の能力をバラすのはリスクが大きい……。わざと嘘の能力を教えて勝負を有利にする人もいるだろうし」
「どうしよっか?」
「でも、幸い僕らには1人だけ心当たりがある」
「誰それ?」
「……茶渋くん」
「もしかして相坂くんの名前を忘れてる?」
1年B組1番 相坂祐一
ウィル能力名 【ホーリー=フィンガー】
効果 指で触れることで、湯飲みなどについた茶渋を落とす?
「……そ。そのアイサカくん。とりあえず彼は強いとは言えないタイプの能力者だと思うんダ」
「ぶっちゃけ雑魚だって言いたいの?」
「……入学式の日から恐れを知らず果敢に上田くんに立ち向かい、自らの能力さえも披露してくれたヨネ」
「初日から信じられないほどアホなことを仕出かしてる?」
「……全然学校に出て来てないから頼れる仲間や友達もいないハズ」
「退院してからもハブられそう? 上田くんが調子に乗っちゃったのは相坂くんのせいだとも言えるわけだし」
「……彼も病院で1人っきりで心細いだろうし。僕らがお見舞いに行ってあげれば少しは喜んでくれるカナーと」
「怪我で心身共に弱ってる所に、つけ込もうという作戦かな?」
「……水野さん。オブラート、オブラート、オブラート!」
全部図星。
「あのさ、お前ら。病院に行くのはやめておけ」
パソコンから目を離さずに僕らのやり取りを聞いていた白衣姿の先生が、ぼそりとアドバイスしてくださいます。
「……木嶋先生。どうしてですか?」
「今のあそこは危険だから。バスケ部とバレー部の怪我人が入院してて、双方負傷者に手出しをされないよう兵隊を出し合って牽制してる」
「何をおっしゃっているのか、まったく理解が不能です……!」
「実はお前らが入学する少し前、バスケ部とバレー部の間で中規模な武力衝突が起きてたんだ。その時の怪我人が今も病院に入院してる」
「どうして学校の部活動で、武力衝突なんて単語が出て来るんじゃ――っ!」
《それがここ異能力高校のクォリティー♪》
?????
「……【道連れ眼鏡】っすか」
「スプーン使いか」
(違和感があるな……? 分からんが)
「バスケ部かよ……」
「まだ入れるとは言っておらん」
?????
「あ……。何だかスポンサー様が、ご機嫌っぽい……」
「誰ですか、スポンサーって」
「秘密。ざっと説明すると、バスケ部とバレー部の間でバトルがあったの。今は休戦して怪我人には手出ししないと約束したが、そんなの当てになるか分からねえ」
「……協定破りをされないよう、お互いがお互いの仲間を守ってる?」
「そ。今のお前らが病院に乗り込むのは、紛争してる国の国境地帯に素手で観光に行くようなものだから」
「……迷惑な人たちだ。相坂くんや上田くんは大丈夫でしょうか?」
クラスメイトなので。一応は。
「……じゃあ相坂くんと接触するのは、彼が退院してからの方が安全ですね」
「見舞いに行った方が、心証は断然良くなると思うがね」
「……水野さんの安全には代えられないです。どうしても仲間にしなくちゃならないわけでもないですし」
「まあ、お前みたいな能力持ちでもない限り、アイツを欲しがる奴なんていないだろ。ちなみに【ホーリー=フィンガー】の使い手は、あと1日か2日で退院だ」
?????
(上田もだけどよ)
?????
「それは貴重な情報です……。いいんですか、そんなの教えてくれて?」
「んー。バレるとヤバイから内密で」
?????
(まあ、しゃべったら口の軽い野郎だって評判流すけどな。教え子に)
?????
「ねえねえ、冬林くん。いいことを思いつきました!」
「……水野さん。何?」
「私たちも部活を作って、他の勢力に対抗しない?」
「却下! 僕らみたいな弱小勢力が旗揚げしたって、あっという間に潰される!」
「むぅ。いいアイディアだと思うのにー!」
「冬林が正解だろうよ。今は大人しくしてた方がいい。この時期は各部も新入生を勧誘するのに忙しくって、どちらかと言えば平和だし」
これで?
?????
(はっはっは。9年前と何も変わらねえ。任期1年。空白7年あって、2代目も1年)
(私の仕事はトーナメントバトルのルールを決めただけさ)
?????
「つまり戦力になる生徒を集めてから、戦いが本格化するということですか?」
「そ。どこにも入れてもらえなかった帰宅部たちが次々と消えていくのも風物詩」
「……最悪だー、この学校」
しかし、そうなると今後の方針は限定されます。
「じゃあ、水野さん。これからの僕らはこんな感じで――」
①相坂祐一くんが退院したら交渉して仲間に入れる。
②自分たちと気の合いそうな、あるいは実力を買ってくれそうな部活を見つけて、入部させてもらう。
「むぅ。相坂くんはともかくとして、部活に入るってどういうこと? 既存の勢力なんかに取り込まれたら学校制覇の目標が遠のいちゃいます!」
「女の子が危ないことしちゃいけないの!」
「むぅ!」
「……水野さん。物は考えようだって。この学校の人だって、皆が極悪人なわけないじゃない。弱い子を助けてあげたいとか、学校を平和にしたいだとか、そう考える人たちだっていなくはないハズ……」
「なるほど! そういう人たちと仲間になればいいんだね!」
「そうそうそうそう……」
《口先三寸》
風物詩じゃねーよ……。
?????
(相坂なあ。茶渋なあ。茶道部の松川なあ。あの最初将棋部で、囲碁部、ボードゲーム同好会、オセロ倶楽部、麻雀同好会を合併させてゲーム部を作ったけれど、仲間全員を裏切って倒して退学させて、1人だけ茶道部に投降した松川か)
(部員は
(夏村は良く知ってるけど、新山は知らね)
(公平で不公平な競技と偶然。マクベスはともかく、ロジェ・カイヨワ「遊びと人間」なんて15歳が読んでるんじゃねえよ)
?????
彼が退院して来たのは、その翌日でした。
「やあっ! 皆、元気にしてたかい! 1のBのスターにしてアイドル相坂祐一が、今日から皆と一緒の時間を過ごせるようになったぜ! はっはっはー!」
「ぶっ!」
朝。入学式以来で教室に姿を見せた相坂くんは、とても元気で朗らかでハンサムで素敵な笑顔で登場でした。
「……誰だ、アイツ」
「ほら。上田に倒されてた野郎だよ」
「ああ! 思い出した、あのクソ雑魚!」
しかし、それがかえってですね……
「……あの野郎。何をへらへらしてるんだ。てめえが余計なことしたせいで、俺らがどんな思いをしたと思ってやがる……!」
クラスでの反感を買ってると言いますか。
「フ。あのような雑魚が、のこのこ舞い戻って来るとはな……」
「あ奴を血祭りに上げ、我らが野望の足がかりにしてくれようぞ……!」
誰だ、コイツら。
「んー。何だい、皆怖い顔して。俺たちはこれから3年間を過ごす仲間じゃないか。皆スマイルで仲良くしようぜ! ん? ミスター上田はお休みかい?」
――オマエヲコロス、オマエヲコロス、オマエヲコロス……
「良し! 冬林くん。早速相坂くんを仲間にするよ!」
「空気読もうよ! 水野さん!」
「あー。お前ら、席に着けー。今日から相坂が登校なので欠席は上田1人だけな」
木嶋先生が教室に入って来て、朝のホームルームが始まりました。
?????
「合格だ」
「うす!」
?????
「オッケー! 俺はキミらの仲間になるぜ! 一緒に楽しい3年間を過ごそうな!」
「よろしくね! 相坂くん!」
「俺のことはジョニーでいいぜ!」
「私のことは水野でいいよ。やったね、冬林くん! 相坂くんが仲間になった」
「……僕にとっては、気苦労が倍になっただけのような」
ホームルーム終了後。水野さんを説得するのは無理そうなので、殺気に満ちた教室から相坂くんを廊下に連れ出し、「嫌なら断ってくれてもいいよ」というニュアンスを滲ませつつ、彼を仲間に入れる交渉を。
しかし、成功。
(……何だって、僕がこんな苦労を)
仲間は増えたが、脳内ではファンファーレでなく、呪いのアイテム装備時の効果音が鳴っています。
「む。何だか、微妙に扱いが悪い気がするぜ。ジョニーとも呼んでくれないみたいだし。仕方ない、ミスター冬林。代わりに俺がキミのことをジョニーと呼ぶぜ!」
「やめてよ!?」
しかし、確定。
?????
(バスケ部主将ウェルキンゲトリクスこと
(能力は、私も知らん)
(野球部渋谷にサッカー部
(あー)
(対抗馬は料理部
(文芸部の
?????
「それで、ジョニー。これからどうするんだい?」
「……そうだねー。僕らじゃ戦力が足りないからさ。どこかの部活に入れてもらうしかないと思ってる。……誰かさんがクラスで嫌われているから大至急!」
「どこに入部するとかは決めてるかい?」
「いや、全然……」
「だったら、俺のアイディアを聞いてくれるか? 俺の能力を知ったら、絶対に歓迎してくれそうな部活が1つだけあるんだよ!」
「……へ? どこ?」
「うむ。聞いて驚くなよ! ――茶道部さ!」
「……さどうぶ?」
?????
茶と聞いて少し
?????
(やっぱり茶道部か)
(あー、うん。草枕は面白いな。次点で「
(インテリが肉体労働出来なくて泣きそうだったんだけど、帳簿係にしてもらって、おっちゃんたちが前借りさせてくれって、ぺこぺこ頭下げて来るようになったって、ただそれだけの話なんだが)
(
?????
「……茶道部がどうして、キミを歓迎してくれるわけ?」
「フ。ジョニーともあろうものが察しが悪い。茶道部といったらお茶を飲むだろ? 湯飲みが汚れる。それを俺の【ホーリー=フィンガー】で浄化する……!」
「凄い! ナイスアイディアだよ、相坂くん!」
「……どこが?」
「はっはっは! 俺のことはスティーヴと呼んでくれたまえ!」
?????
(――さて。どうするかな)
?????
昼に生物準備室を訪れるのは、恒例になりつつありました。
「……申し訳ございません、木嶋先生。放課後にお邪魔したいので、茶道部の部室がどこか教えていただけませんでしょうか?」
「え? マジで行く気なの? 『そんなの歓迎されるわけねーだろ』とか『学校制覇の目標はどうなった』とかツッコんだ?」
「言いましたよ! でも、2人とも聞く耳を全然持ってくれないし……!」
?????
(知ってる。聞いた。【召眼目フィールド】で)
?????
「【ホーリー=フィンガー】を強化したらどうなった?」
「……試してる暇がなかったです。それで、先生」
?????
(ふん。温いな。だが、あの阿呆に能力教える方が、もっと温い)
?????
「んー。どうするかな……。前に調査に付き合ってもらった分は、すでに返したような気もするんだが……」
木嶋先生は机に座ったまま、難しそうにブツブツ呟き始めます。
《ほほーう。茶道部さどーぶ茶道部ねー。ユミノちゃんの所に、この子の能力が加わったら……いいね! 面白いことになりそうじゃん!》
《言っていいよ。葵ちゃん》
?????
(そう来ますか。【フォルトゥーナ】。ふん。まあ、いいや)
「……分かった。どうせ押し問答になるだろうしな。茶道部の部室を教えてやろう」
?????
こうして放課後に茶道部へ。
?????
「さて――」
《何するの?》
黙れ。
「もしもし。取引だ。松川。おだまき+誕生花で調べろ。その代わり、もう来るな」
《あうち!》
『は? 何ですの? 先生……』
「おだまき+誕生花。やれ――」
?????
「帰れ帰れ! 帰りなさい! 部長は今大変な時期なんです! あなたたちのような、どこの馬の骨とも知れないアンポンタンどもに構ってるヒマはないのですです!」
「そうだね。ご迷惑おかけしました。ごめんなさい。それじゃあ、水野さん。相坂くん。帰ろうか」
「ちょっと待った! 冬林くん」
「へい、ジョニー! ここで引き下がっては男がすたるぜ!」
放課後。
文化系の部室が集まるという、プレハブ棟の一室を教えられておりました。
「しかしノックして出て来た女の子に、すげなく『帰れ!』と言われたので、僕ら3人は茶道部入部を諦めたのでした……」
「早過ぎだよ! 冬林くん」
「ネバーギブアップだぜ、ジョニー!」
「……いきなり押しかけるのって、そもそも失礼だったかも知れないし」
詳細は省きますが、今日だけでエネルギーと気力を使い果たしておりました。
そこに茶道部の部室前で口の悪い女の子に出くわして、僕はグロッキー寸前に。
?????
「冬林ジョニーくんとおっしゃるのですか? 後ろの2人に比べて、キミはマトモな感じですですね。でも存在自体が目障りなので、やっぱりどこかに消えてください」
「ジョニーじゃないよ! 要と言います」
「はん! 勘違いするんじゃねーですよ! あなたのファーストネームなど、茶道部には何の価値もないクズ情報。というか、てめえ様の人生で、下の名前で呼んでくれる女の子なんて、身内やご家族以外に現れませんですからね!」
「酷い……!」
現れたのは、警戒心の強い猫のような目で、こちらを見上げる女の子でした。とても小柄な体格で制服姿が中学生に見えます。私服だと、もっと幼くなるかも知れません。肩くらいまでの黒髪を黄色のゴムで2つに分けて縛っています。素朴な日本人形を思わせる顔立ちで、可愛らしいと言えばらしいのですが、少し目付きがキツくて口が悪い……。
何となく同じ1年生の感じはするのですが……
「あのですね、茶道部の部員さん」
「何ですか? このゲロ野郎」
「……………………帰ります」
「帰っちゃ駄目だよ! 冬林くん!」
「へい、ジョニー! そこは粘る所だぜ」
「あんたら3人とも、はよ帰れ!」
?????
「仕方ない。ジョニーに代わって、俺が交渉させてもらうぜ!」
「相坂くん。頑張ってー!」
「ああ、うん。頑張って……」
「へーい! 美しいお嬢さん!」
「何です。見てて鬱になるブ男さん」
「俺と結婚しようじゃないか!」
「ぶっ!」
「嫌です」
「ミーとマリッジしませんですかー?」
「……いっぺん死ぬがよろしいかと。鏡でしたら手洗いに。それとも何ですか? あなたみたいなブ男に配慮して、ウチの学校の男子トイレには鏡を置かないことにしてるのでしょうか?」
「瞳に映るお互いの姿を見つめ合えば、俺たちにそんなの必要ナッシング!」
「キモイ! うざい! 死ね! 鬱陶しい!」
「ちょっ! 相坂くん。マジギレされてる!」
「おお! 相坂くんが茶道部の子を口説き落としてる!」
「……水野さん。僕の目には好感度が、がんがん低下しているようにしか……」
「そのままマイナスを極めてオーバーフロウだ!」
「難しい言葉を知ってるね……!」
?????
(アンダーフロウだっつーの……)
(今時ねえよ。そんな対策もしてないプログラムつーか言語自体が)
(…………)
(あるのかな)
?????
「ああもう! 本っ当に、クソ鬱陶しいですね! あんたらは!」
「仲間を代表してごめんナサイ……」
「新山さーん。さっきから何を騒いでますの?」
部室のドア越しに柔らかい女性の声が。
「はうっ! な、何でもありません! 部長!」
「あ! 馬鹿……!」
「誰が馬鹿ですか! このジョニー!」
「ごめん! でも、そういうことを言っちゃうと……」
「おお! 今ここの部長さんがいらっしゃるのが明らかになったよ! 相坂くん」
「ああ! 何としてでも新山ちゃんを口説き落として、俺らを仲間に入れてもらうぜ! ミス水野!」
「あぎゃーっ!?」
「こうなるじゃん……」
?????
「うぐぐぐぐぐ……! よ、余計なことを言ってしまいました。不覚ですです」
「……僕の仲間がご迷惑をおかけして申し訳ありません。えーと……新山さん?」
「マジで迷惑ですから、とっとと帰れ」
「帰りたいのは山々だけど……」
「新山ちゃんと言うんだね。同じ部員同士の仲間として俺と愛を語ろうぜ!」
「一緒に頑張って、この学校を平和にしよう!」
「……この2人を、キミならどうにか出来る?」
「山に埋めるか、海に沈めちゃっていいのでしたら」
「この学校で洒落にならない冗談はやめようよ!」
そんな風に騒いでいますと……
「うーるーさーいー! 何なんですの、さっきから!」
「はううっ! も、申し訳ございません、部長! 実は変な連中が来てまして……」
新山さんが一度部室の中に入ります。
?????
「敵ですの?」
「いえ。口では入部希望だと言ってますです。でも、信用していいものか……」
「ということは1年生? 何組ですの?」
「3人ともB組だと言ってます」
「木嶋先生のクラスですわね……。んー。では、新山さん」
「は……はい!」
「戦力をまったく補充しないというわけにもいかないです。何となくの直感で運を天に任せちゃいましょ。あのですわね、新山さん。【バナナ=カウント】を使ってください」
「何ですとー! 封印していた、わたしの能力を使えとおっしゃるのですですか!」
「ええ。例のアレの回数が3人合計で奇数だったらお招きする。偶数だったら、お引き取りを」
「はい!」
その頃、僕らは部室の外で――
「……相坂くん。女の子に軽々しく結婚するなんて言っちゃ駄目だよ」
「何を言ってるんだい、ジョニー! 俺は本気でプロポーズしたんだぜ。――俺、この学校を卒業したら一目惚れしたあの子と結婚するんだ……!」
「やめてよ! キミに死亡フラグを立てられると、僕と水野さんまで巻き添えだ!」
「こら、2人とも! 喧嘩なんてしちゃ駄目! 私たちは一緒に学校を平和にする仲間でしょ! めっ!」
「……水野さんに怒られるとは」
「娘は父親の背中を見て育つものだぜ?」
「……娘じゃない。せいぜい手のかかる妹が、もう1人増えたって感じだよ」
「むぅ。すっごく失礼だー!」
かなり騒がしくしてました。
「あんたら、やかましいですですよ! ウチの部室の前でクソったれどもに騒がれると、近くの部活から茶道部が悪く言われてしまうのですです!」
「……この学校でも普通のご近所トラブルとかあるんだね。いや、むしろそういう小さなトラブルが、皆が超能力なんか持ってるせいで……?」
「何を感心したように言ってるのです? このジョニー!」
「新山さん。実は僕をジョニーと呼ぶのは、キミと相坂くんの2人っきりだけなんだ」
「失礼しました。冬林さん」
「いいけども。それで新山さん。キミたちの部長さんは一体何て……?」
「……あなたたち3人を、お招きしろとおっしゃいました」
?????
「え……?」
僕。
「おおっ」
水野さん。
「やったぜ!」
茶渋くん。
「追い払えともおっしゃいました」
「どっちなのさ……?」
「さあ? どっちになるかは、あなたたち全員の過去の行動次第です」
「……過去の行動?」
その瞬間。
「――【バナナ=カウント】」
新山さんの両の瞳が淡く淡く輝きます。
?????
「じー――――……っ」
「あの……? 新山さん?」
その目でじっと食い入るように、僕の顔を見上げてきます。
「冬林さんは――『0回』ですね」
「……何が?」
「質問には答えません。続いて水野さん」
「はいはーい! 何かな?」
「じー――――……っ」
「おお! 何だろ何だろ! じー――っ!」
「……! あんたは見なくていいんですよ! 水野さんも0回と……」
「あの、新山さん。さっきから一体何を……?」
「質問には答えません。説明も一切いたしません。ところで冬林さん。0+0は、いくつですです?」
「……引っかけ問題でないのなら、0以外にないと思うよ」
「0は奇数ですか? 偶数ですか?」
「偶数」
「そうですか。では、どっちになっても恨まないでくださいね!」
「~~~~?」
?????
(私もコイツの能力知らねえな。あの松川がゴミを仲間に入れる訳ねえんだが……データベース照合。いったん音声カット。ん? おい! ――ひっでえな! 何だこのアホみたいな能力は――! 【女神ウィル】、お前ぶっ殺すぞ!? 【封印を破るもの】の方が千倍強え! 水野と、どっちがマシだこれ!?)
?????
「……最後に。そこのアホ」
「何だい、ハニー。俺のことはダーリンと呼んでくれてもいいんだぜ?」
「うるさい。この脳たーりん! とにかく、最後はあんた次第で決まります。わたしの【バナナ=カウント】で、あなたの顔に浮かんで見える数字はと……」
「おおーう! 情熱的なまなざしだ!」
「キモイ! 黙っとれ!」
「おお! 相坂くんと新山ちゃんが見つめ合ってる! けっこうお似合いのカップルに見えなくない?」
「……水野さん。僕、ハリセンとか常備した方がいいのかな?」
「質問を質問で返された!? しかも、よりにもよって何それは!」
「……いや。相坂くんが抱きついたり、ちゅーしようとしたら止めないと……」
「あははー。大丈夫だよ。相坂くんも、そこまで馬鹿じゃないってば」
「……彼がどの程度の馬鹿かを見極めるのは、僕にはすっごく難しい」
「さらりと、酷いこと言ってるよー? あ。新山ちゃんのお仕事が終わったみたい」
「ぬぐぐぐぐ……!」
「おーう? もう俺を見つめてくれないのかい? 照・れ・屋・さ・ん♪」
「……遠くにいるお父さんお母さん。そして兄弟姉妹たちよ、ごめんナサイ。あなたたちの娘は、自分の家族を犯罪者の身内にしてしまうかも知れません……!」
?????
「……あの、新山さん。拳をプルプル振るわせてるのは、もしかして『助けてください』のサインかな……?」
「冬林さん……。あなたの特徴のない凡庸なツラを見てますと、ささくれだった神経が、わずかながら癒されていくのを感じますです……」
「……僕なんかの顔が精神安定のお役に立てるなら何よりで」
「それで、新山ちゃん。相坂くんは何回だったー?」
「水野さんは、もうちょっと空気を読んでくれようか!」
茶道部部員の新山さんは、ぷるぷると悔しそうに拳を震わせながら、
「……1回です」
と言いました。0+0+1=1。
合計――奇数。
「……それでは、茶道部にお招きします。くれぐれも部長に失礼のないように!」
「はっはー。俺が愛するハニーのお世話をしてくれてる人に、失礼なんてすると思うのかい?」
「主に、てめえに言ってるのですよ! ブタ野郎!」
?????
「茶道部……死ぬ……」
《いや? これね。ある能力者特効。だからあのユミノちゃんが……》
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