第19話 結婚式を要望するわたし
グレゴノール殿下とわたしのダンスは、舞踏会の参加者全員が拍手をしてくれた。
その中には、わたしに冷たい態度を取っている貴族令嬢たちも入っている。
ただ、複雑な表情をしている人も多い。
ダンスは良かったと評価しても、わたしのことを嫌に思う気持ちは残っているのだろう。
それは仕方のないことだと思っている。
時間をかけて、その人たちの心を溶かしていくしかなさそうだ。
しかし、一方で、貴族令嬢たちの執念というものはすごいものだと思った。
ダンスが終わった後。
「グレゴノール殿下、素敵です!」
「グレゴノール殿下、好きです!」
と口々に言いながら、グレゴノール殿下のところに集まってくる。
グレゴノール殿下も微笑みながら、応えている。
美しい女性たちに称賛されているのだ。
喜ぶのは仕方のないことだと思う。
多分、このまま婚約者のままの状態だと、舞踏会の度にこうした光景が繰り返されることになるのだろう。
グレゴノール殿下はそれだけ魅力のある人なのだ。
舞踏会という場ではなくても、グレゴノール殿下のことは貴族令嬢の間で持ち切りだ。
あこがれる女性はこれからも増えるだろう。
そして、このままだとグレゴノール殿下は、貴族令嬢の誰かに奪われてしまうかもしれない。
そういうことも心の中に浮かんでくる。
グレゴノール殿下とわたしが結婚式を挙げ、結婚生活に入らない限り、そうした人たちのグレゴノール殿下へのあこがれは抑えることができそうもない。
あこがれを抑えることができなければ、「第二夫人」になりたいという願望を持った女性が増え続けることになる。
結婚したからといっても、グレゴノール殿下にあこがれる人は残るだろう。
しかし、今の状況からは、かなり改善されてくると思う。
こうなったら、すぐにでも結婚したい!
わたしはそう強く思い始めるのだった。
そして、わたしはグレゴノール殿下に対して、二年以内に、結婚式を行ってほしいと要望するようになった。
激務に苦しんでいるグレゴノール殿下に、そういうことを言うのは、心苦しいものがあった。
グレゴノール殿下も、
「わたしもできれば二年以内に結婚式をしたいと思っている」
と言って、わたしの意見には賛成してくれていた。
しかし、そう言った後、グレゴノール殿下は、
「今の状況だと二年以内というのは難しい。もしかすると、もう少し待ってもらうことになるかもしれない」
と言う言葉はいつも付け加えていた。
結局のところ、なかなか決断をしようとしなかった。
グレゴノール殿下は、
「この王国は、わたしの想像以上に苦しい状況だ。せめて、今実行している対策の成果が、少しでも出てくれれば、結婚式の準備をすることができるのだが……」
ということも言っていた。
わたしは、グレゴノール殿下の対策が、少しでも王国の状況の改善につながるように、願っていた。
ただ願うだけではなく、わたしもグレゴノール殿下の役に立ちたいと思うようになった。
わたしは他に兄弟姉妹がいないので、キュヴィシャルデ公爵家の後継ぎになっていた。
その為、お父様の方針により、幼い頃から家庭教師に領地経営のことについて学んでいた。
王国と公爵家の違いはあるとはいっても、この領地経営についての知識は生かせると思っていた。
そこで、グレゴノール殿下に、
「わたしもこのプロジェクトチームの一員にしていただきたいと思います。ほんの少しになるかもしれませんが、グレゴノール殿下のお役に立ちたいと思っております」
と申し出た。
しかし、グレゴノール殿下は、
「あなたの申し出はうれしい。しかし、このプロジェクトは相当な激務になっている。あなたはこれから王太子妃になる身。わたしとしては無理をさせたくない」
と言って申し出を断ってきた。
それでもわたしは、
「グレゴノール殿下のお役に立ちたいと思っています」
と申し出を続けた。
その結果、わたしは。プロジェクトチームには入らないものの、
「グレゴノール殿下にプロジェクトについてのアドバイスをする」
という位置付けで、このプロジェクトに参画することになった。
わたしはグレゴノール殿下の許可を取った後、この王国の状況と問題点を把握していった。
そして、その問題点についての自分の対策案を立てていく。
グレゴノール殿下からアドバイスを求められた場合、すぐに対応ができるようにしていた。
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