第11話 恋に向かって前進するわたし
それからのわたしたちは、お互い、距離を置いていた。
あいさつとか、ちょっとしたおしゃべりはしている。
でもそれだけでは足りない。
今まで、グレゴノール殿下と一緒に過ごしてきた日々が、いかに大切なものだったかということが、よくわかってくる。
しかし、それは恋なのだろうか?
まだよくわからない。
グレゴノール殿下のことは好きだ。
でもそれ以上の存在かと言われると……。
そうこうしている内に夏休みに入った。
今までの夏休みだと、グレゴノール殿下と一緒に避暑地に行って、チェスをしたり、散策をしたり、お茶をしたりすることが多かった。
しかし、今年はそれができない。
今年は、より細かい王太子・王太子妃の教育が行われる始めての年だったので、余裕がないというのが大きい。
それでもせめて、時間を作って王宮に行ってグレゴノール殿下と過ごしたいと思っていた。
夏休みの間、ずっと忙しいわけではなく、休養する日を、少ないとはいうもののお互いに作っていたので、会うことのできる時間はあるはずだった。
しかし、お互いの距離を作ることがまだ続いているので、それも難しそうだった。
気分が落ち込んでいたわたしだが、そう言っているわけにもいかない。
王太子妃になる為、より一層努力をすることにした。
そして、休養日の内二日ほどは、仲の良い友達であるブルドンルンド公爵家令嬢ノディナーヌさんとささやかなお茶会を開いていた。
八月下旬のある日。
この地も夏は暑い。
ただ、湿度がそこまで高くはないので、日陰に入ればそこまで暑さは感じない。
この日、わたしたちは、わたしの屋敷の木陰で、お茶をしていた。
夏休みの中では二度目となる。
ノディナーヌさんとのおしゃべりは楽しく、いい気分転換になっていた。
その中でノディナーヌさんは、
「ノディナーヌさんは、グレゴノール殿下のことが好きなんだよね」
と言った。
「もちろんそうだけど」
「でも恋してはいないんだよね」
「うん。残念ながらまだ。でも、最近、グレゴノール殿下と距離を置いて、少しずつわかってきたことがあるんだ。わたしはグレゴノール殿下を大切に思っていて、離れてしまうと寂しく思ってしまう存在であることを」
「それは恋へ一歩前進したということね」
ノディナーヌさんは微笑みながら言う。
「それがわたしにはまだよくわからない、でも殿下のことは好きだし、もっと距離を縮めたいと思っているんだ」
「わたしもこの春から夏にかけて、婚約者とようやく幼馴染から恋人どうしになったところだから気持ちはよくわかる。まあ、あせらないことね。わたし、レデシアーヌさんを応援しているよ。レデシアーヌさんがグレゴノール殿下のことをもっと好きになっていけば、九月に入ったら、これだけ距離を置いたのだから、きっと、二人の仲は急接近すると思っている。後少し耐えればいい。だから、もっと元気を出していこう!」
そう言うとノディナーヌさんは微笑んだ。
「ありがとう。わたし、元気を出して、もっと努力していくね」
わたしもそう言った後、微笑んだ。
今日はノディナーヌさんに元気をもらったし、楽しい一日だった。
ただ、その夜、屋敷に帰ってからわたしが思ったのは、
「グレゴノール殿下とおしゃべりがしたいなあ……」
ということだった。
幼い頃からあたり前だと思っていたことができなくなるということが、これほどつらいものであったとは思わなかった。
でも、これは幼馴染から脱皮するチャンスかもしれない。
王太子妃になるということで、最近は特に身だしなみに気をつけるようになってきた。
服装にも気を使い、今日のお茶会では、今まで以上のおしゃれをしてみた。
ノディナーヌさんは、わたしの服装のセンスを褒めてくれた。
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