わたしの転生一度目は、悪役令嬢になって婚約を破棄された後、処断された。 転生二度目は、浮気をされて心も体も壊れてしまった。 転生三度目の今度こそは、素敵な王太子殿下に溺愛され、結婚します。

のんびりとゆっくり

第1話 婚約を破棄されたわたしと新しい婚約者

 わたしはクラデンティーヌ。コルヴィシャルデ公爵家令嬢。


 コレットギュール王国のマクシノール王太子殿下の婚約者、


 今日は、王室主催の春の定例舞踏会が開催されていて、わたしもマクシノール殿下の婚約者として、出席をしていたのだけど……。


 マクシノール殿下は、舞踏会のあいさつの中で、会場の出席者たちに向かって、


「わたし、マクシノールは、クラデンティーヌとの婚約を破棄する!」


 と宣言した。


 いつもは誰に対しても、ていねいな言葉を使うマクシノール殿下。


 でも、今のわたしに対するこの言葉づかいは、いつもと違う。


 それだけでなく、その内容も厳しい。


 騒然とした雰囲気になる出席者たち。


 そして、


「新しい婚約者は、わたしのそばにいるコルネイテール侯爵家令嬢セリラーヌさんです」


 マクシノール殿下は、いつの間にかマクシノール殿下のそばにきていたセリラーヌさんの手をとり、そう宣言した。


 ていねいな言葉づかいに。すぐに戻ってはいる。


 でも、わたしに対する厳しい言葉には違いはない。


 微笑むセリラーヌさん。


 マクシノール殿下のそばにいたわたしは、その瞬間、いったい何を言われたのか、わからなかった。


 しかし、わたしは、その意味を把握すると、


「マクシノール殿下、それは冗談でおっしゃられているのですよね。マクシノール殿下もお人が悪い」


 と微笑みをもって応えた。


 わたしは、金髪碧眼。


 才色兼備で、マクシノール殿下の婚約者、そして、妃になっていくのにふさわしい女性だ。


 マクシノール殿下が他の女性を選ぶことはありえない。


「これが冗談で言っていると思うのでしょうか? わたしは本気で言っています」


 マクシノール殿下は、普段は穏やかな方。


 しかし、今は、だんだん怒ってきているようだ。


「もし、マクシノール殿下が本気でおっしゃられているとしたら、それはなぜでございましょう? わたしには検討もつかないですわ」


 わたしは、マクシノール殿下に対し、少しあざけり笑うような態度をとる。


 わたしは、名門コルヴィシャルデ公爵家の令嬢。


 政略結婚ではあるが、逆にそうであるからこそ、婚約破棄をする理由はないはずだ。


 そう思っていると、マクシノール殿下は、


「あなたは、わたしが婚約破棄などできるわけがない、と思っていると思います。そして、いきなり、新しい婚約者を紹介することなど、できるわけがない、と思っていると思います」


 と言う。


「当然のことでございます。王家とコルヴィシャルデ公爵家の婚約・結婚です。よほどのことがない限りは、婚約破棄などできるわけはありませんわ」


「クラデンティーヌさん、あなたはわたしに婚約破棄の理由を言ってほしいと思っているのですね」


「もちろんでございます」


「ならば申し上げましょう。王太子の婚約者になるものは、国民から尊敬され。愛される資質が必要です。心は穏やかで、やさしさにあふれていなければなりません。いずれは王妃として慕われる立場となるからです。しかし、あなたは、美しくて、頭がいいという、評価するべき点はありますが、国民に尊敬をされる為の条件は満たしていません。なんといっても傲慢です。人の悪口は言いまくっていますし、特に、わが愛するセリラーヌさんには酷い仕打ちをしていました。これだけならまだしも、わがままで贅沢のし放題。父の公爵家前当主は、病気に倒れ、あなたが当主になってしまった為、発言権を失ってしまいました。前当主が何も言うことができないので、あなたは贅沢の限りを尽くし、もともと財政が赤字になっていたコルヴィシャルデ公爵家の財政を、それでさらに傾かせてしまった。もともと財政赤字を補う為、増税をしていたところに、さらに税率を上げたので、領民の生活を苦しくなりました。今や、コルヴィシャルデ公爵家の領民たちは、反乱をする寸前にまで追い込まれています。あなたとの婚約破棄は、『反乱が発生しようになるまでの圧政をしていて、しかも、改善要請を断っている』という理由で十分です。わたしは、あなたに『贅沢は領民を苦しめるので抑えた方がいい。税率は上げない方がいい』と言ったことがありますが、全く聞く耳を持ってもらえませんでした。残念で仕方がありません」


「セリラーヌについては爵位の高い貴族というものがどういうものか、親切に教えて差し上げただけのことですわ。そして、領民など、われわれ貴族の為に存在しているだけの者たちではないですか? わたしたちが、贅沢の限り尽くす為に、存在をしているだけのものたちだとわたしは思っております。マクシノール殿下とあろうお方が、そんなこともお分かりではないとは……」


 マクシノール殿下の方こそ、いったい何を言っているのだろう?


 理解に苦しむ。

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