第二十六話.大蛇はいらないじゃ

視線が痛い。なぜこうなったのか、昨日の今日で、また同じ酒場で昼から飲んだくれているわけなのだが。


「めちゃくちゃ見てくる人居るんですけど」

「あー?気にすんなって。そんなことより、この酢味噌美味いぞ!」

「うまい」


はっはっはとキツネが笑う。酒場には昨日博打場で出会った人たちもいて、事あるごとに視線を送ってくる。針のむしろだ。そりゃ賭場を荒らしておいて、昨日の今日で同じ酒場に出入りしていたらそうもなる。直接毟った小太りの男なんかは、眉間にシワを寄せてすごい表現だ。


「めちゃくちゃ睨んできてますよ?」

「気にすんなって」

「はぁ」


冒険者風の男は、ナイフを二本両手に持って舌なめずりしている。しかもなぜか頭の髪の毛を全剃りして、スキンヘッドになっていた。そこまで行くとちょっと行き過ぎな感じもある。威嚇しているつもりがちょっと面白い方向へいってしまっている。


「あの人なんかスキンヘッドで、チェーンとか首からぶら下げてますけど」

「新しいファッションに目覚めたか。扉を開いてしまったようだな」


そう言いながらキツネはビールを一気に飲み干した。このチームを取材してきてわかったけど、とにかく酒を飲みすぎだ。ひょっとしてとんでもない人達に取材を申し込んでしまったのではないだろうか。


「あんた達、博打の腕は確かなようだが、腕っぷしの方はどうなんだい?」


そう言いながら酒場の主人がドン、とテーブルに追加のビールを置いた。


「そうだなあ」


キツネが酒場中を見渡してから言った。


「この中じゃ俺が一番強いかな」

「いや、いちばんはわたし」


間髪入れずにマヤが訂正する。その頬は少し赤みがかっている。だいぶ酔っておられるようだ。しかしその発言で、酒場中の腕自慢達の視線がこのテーブルに注がれた。


「ははは……」


乾いた笑みを見せて、ルシアは目立たないように小さくなる。酒場の主人は続ける。


「実はこの村にはある風習があってな。年に一度、大蛇に貢物を捧げるというものなんだが」

「へぇ」

「聞きたいんだが、冒険者というのは大蛇を倒せるくらい強いのか」

「それは大蛇を殺せってことか?」

「簡単にいうとそうだな。やっつけてくれると助かるんだが」


そう言いながら主人は店内を見回す。さっきまで眼光鋭く睨んでいた男達がみんな目をそらした。どうやら大蛇というのはそれほど有名な蛇らしい。


「報酬にもよるな」


キツネが値踏みするように言う。酒場の主人は少し考えるフリをした後に口を開いた。


「ビール一週間無料券を出そう」

「のった」


マヤが立ち上がり、主人と握手を交わした。

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