必殺仕事人女子高生 第1章・体育倉庫マット事件

ロッドユール

第1話 目撃者

 世の中の

 善と悪を較ぶれば 

 恥ずかしながら 悪が勝つ

 金 金 金の世の中で 

 泣くのはいつも弱い者ばかり 

 尽きぬ恨みの数々を 

 はらす仕事の裏稼業



 善と悪が戦えば

 必ず悪が勝つこの汚れた世の中 

 こんな世に神も仏もないけれど、

 法で裁けぬ悪を切る。

 天が裁かぬ悪を切る。

 汚れ切った社会の闇を切る。

 必殺仕事人女子高生が、この世の悪を切る。



 どうせこの世は生き地獄。

 必殺仕事人女子高生が

 その恨み晴らして、御覧にいれましょう。




 少女の持つ名刀菊一文字が月光の光りを受け、きらりと光った。その刃先は薄っすらと怪しく濡れていた。

「ぐわっ」

 男の断末魔の悲鳴と共に、刀が一閃、闇を踊った。

「・・・」

 少女は、見事に一刀で倒した男を、何事もなかったように見つめ、懐から懐紙の束を取り出すと、それで、血のついた菊一文字を鍔側からゆっくりと上に向けて拭った。そして、それを、闇夜に投げた。

 赤く色づいた真っ白い懐紙の束が、大きな花吹雪のように、深淵の闇に舞った。

 菊一文字はやはり何事もなかったかの如く、怪しく濡れたその研ぎ澄まされた刃を、まるで男を食い漁る淫乱女のように艶めかしく光らせていた。


 食いしん坊の茉莉が、午前の授業を抜け出して、お菓子を食べようといつもの体育館裏にやって来た時だった。

「ん?」

 そこで、何やらうろうろと何かを探している少女がいるのが見えた。

「こんなとこで、何してんの?」

 茉莉は、体育館裏をうろうろするその不審げな少女に声をかけた。

「えっ、あ、あの、人を探しているんです」

 少し驚きその少女が答える。中等部の子らしい。高校生にしてはまだ体つきが幼く、中等部のブルーの制服を着ている。この桐生西城学園は中高一貫校で、中等部と高等部は建物自体は別れているものの、同じ敷地の中では繋がっていて、時々校内でもお互いを見かけることはあった。

「人?」 

 茉莉がその子の顔を見る。まん丸くかわいい顔をしているが、少し大人しそうな感じの子だった。

「はい・・」

「誰を探しているの?」

「・・・」

 少女はためらう。

「?」

 少女がなぜ黙るのか分からず、茉莉は首をかしげた。

「仕事人」

「ん?」

「仕事人です」

「・・・」

 茉莉はポカンとその子を見つめる。

「仕事人?」

 少女からやっと出てきた言葉がそれだった。

「依頼した人を殺してくれる人たちなんです」

 その子の目は真剣だった。

「・・・」

 しかし、茉莉は、困惑気味にその子を見る。

「その人たちに頼みたいことがあるんです」

「頼みたいこと?」

「殺して欲しい連中がいるんです」 

「・・・」 

 茉莉はその子を見つめた。 何か思いつめた顔をしている。

「そんなのは都市伝説だよ。実際にそんなのいはしないよ」

 そして、茉莉は諭すようにその子に言った。

「でも、いるんです」 

 しかし、少女の表情は揺らがない。

「えっ?」

 その様子に、茉莉は少し驚く。

「私、見たんです」

「見た?」

「はい、私見たんです。その人を・・」


 五人は、校舎の屋上のいつもの場所に集まっていた。屋上の端の機械室の上。ここはめったに他の生徒も先生たちも来ることがなかった。

「何!見られた」

 お京がまず声を上げる。

「はい、その子がそう言っていたんです」

 茉莉が言う。

「どうする?」

 お京が、隣りの夢乃を見る。

「やるか」

「落ち着きなさいよ」

 お京の向かいに座る静香が、せっかちなお京に向かって、落ち着いた声音で言う。

「これが落ち着いていられるかよ。現場見られてんだぜ」

 高等部二年生のお京は、軽音部所属でバンドのボーカル兼ギターをしている。名前は京川舞だが、みんなお京と呼んでいた。明るく人前に出るのが得意で、社交的な性格だが、短気でせっかちだった。対して、三年生の静香は、超お金持ちの令嬢で、頭もよく常に冷静で落ち着いていた。

「もう少し様子をみましょ」

 お京と同じ二年生の夢乃が言った。夢乃は、いつもその長い黒髪を長いかんざし一つで大きく後ろでアップにし、顔には大きな丸メガネをかけた地味な姿をしていた。

「お前そんな悠長なこと言って」

「夢乃の言う通りよ」

 そこで、今まで黙っていたリーダー格の夏希が、お京に被せるように言った。夏希は、全国でも優勝するほどの実力を持つ、桐生西城学園剣道部で、女だてらに主将をしていた。学年は静香と同じ三年生。

「でもよう、見られてんだぜ。もし、正体がばれたら・・」

 お京が言う。

「・・・」

 それには夏希も黙る。それは仕事人としての掟。もし正体がばれたら、殺されるか、自ら死ななければならない。逃げれば、全国の仕事人にその命を狙われ、地獄の果てまで追いかけられる。

「しかも、見られたのはお前だぜ」

 お京がさらに言う。夢乃も静香も夏希の反応を見る。

「・・・」

 夏希は少し難しい顔をしたが、しかし、リーダーとしての落着きはあった。

「茉莉」

 そして、夏希は茉莉の方を見た。

「はい」

「その子のこと、もう少し調べてくれる?」 

「はい、ガッテン承知」

 茉莉はいつものように調子よく答えた。五人の中で一番年下で高等部一年生の小柄な茉莉は、すばしっこく、人懐っこい性格で、情報を集めるのが得意だった。

「動くのはもう少し、情報を集めてからにしましょ」

 夏希がみんなの方に向き合い言うと、みんな納得し黙った。

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