秋田剣・新

けいティー

本編

第1話

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。

「お前が何者かはさておき、俺とケントの融合変身があと3回しか使えないことを知っているとは驚いた。」

 どこからともなく聞こえる楽しげな声に言い返す青年、彼の名は上野大翔。普段着というラフな格好で秋田剣を持っている。

「ええ、知っていますとも。ワタクシが市町尊を邪悪なる神へと変えたのですから。」

 この声の主こそ、大翔とケントが倒すべき敵なのである。

「やはりお前の仕業だったのか…。市町尊の仲間をこんな目に遭わせるとは許さぬ!」

 そう言うのは秋田市の市町尊ケント。神であるが、見た目は人間と何ら変わらない。しかし目や髪の毛が黄緑色という奇抜な感じではあるが…。

「今の君たちではワタクシには勝てません。先程の戦いでまた1人、市町尊を元に戻したとはいえ、ここで融合変身の貴重な5回のうち2回を使っています。ワタクシを倒したければ融合変身の力は不可欠です。」

 その声は淡々と話す。

「ふん、お前、俺たちに自分自身の倒し方を教えるとは詰めが甘いな!お前、どこから俺たちのことを見て話しているかは知らんが、姿を現せ!ここで3回の融合変身を使ってお前を倒してやる!」

 大翔は剣を鞘から引き抜く。

「大翔の言う通りだ、姿を見せろ卑怯者!」

 ケントは大声で言う。

「ワタクシのことを卑怯者呼ばわりとは、失礼ですねえ。それに君たち、ワタクシと雑談してても良いんですか?ワタクシの手駒となった市町尊が暴れているというのに。」

「くそっ…。」

 大翔は剣を鞘に納めた。

「来るべき時が来たら姿をお見せしましょう。では。」

「おい!待て!」

 ケントはその声に対して言うが反応は無い。

「逃げられたか。だが奴が黒幕だと分かった以上、奴を倒せば万事解決だ。」

 ケントは言う。

「そうだな。でも俺たちに出来ることは…。」

「全ての市町尊を元に戻すこと。だろ?」

「勿論だ、ケント。俺たちが元に戻したのは横手市、仙北市、そしてここ大仙市の市町尊だ。つまり残りはあと…。」

「21市町尊だ。」

「21もあるのか…。とにかくやるしかないか。」

「大翔ならそう言うと思っていた。」

 ケントは微笑む。

「バディとして頑張ろうぜ。早速だがケント、次はどこに行く?」

「次は由利本荘市に行こう。鳥海町に由利本荘市の市町尊ゴテンがいる筈だ。そこからかなり強いエネルギーを感じる。恐らく暴れていることだろう。」

「よし、決まりだな。頼むぜケント!」

 大翔はケントの肩に触れる。

「心得た!」

 ケントを始めとする市町尊には強いエネルギーを持つ市町尊を目的地に定め、そこ目掛けて瞬間移動する能力を持っている。大翔とケントの2人はゴテンの元へ向かった。


 瞬間移動により、由利本荘市鳥海町に降り立った2人。

「着いたは良いが、市町尊が見当たらないな。」

「大翔、これを見てみろ!」

 ケントが見つけたもの、それは木に付いた大きな傷痕だった。

「この感じ、市町尊がやったっぽいな。」

「大翔、あっちにもあるぞ!」

 傷が付いた木は複数存在し、それは山の奥の方へ続いていた。

「もしかしてこれを辿れば…。」

「ああ、行ってみよう。」

 大翔とケントは山の奥へと進んでいく。

「ケント、この先って何かあるのか?地図で見る限り何も無さそうなんだけど。」

「あくまでも噂なんだが、鳥海町には地図には載っていない村が存在するらしい。今思い出した。」

「その噂が本当だったら…。」

「その先にその村がある。」

「この先の木にも大きな傷痕がある。もしかしたら本当かもな…。」

 大翔とケントは信じて進む。すると、突如開けた場所に着いた。そこには十数軒の昔ながらの家があり、まさに『村』といった雰囲気だった。

「ケントの言う通りだ。やっぱり村があった!」

「この村にゴテンがいるみたいだ。」

 2人はゴテンを探そうとしたが、探すまでも無かった。突如として『ドーン』という衝撃音が響き渡る。

「何だ?」

 大翔はケントに聞く。

「あれは恐らくゴテンの仕業だ。早く行こう!」

 2人はその衝撃音がした方向に向かっていく。

「大翔、見つけたぞ!」

 ケントが指差す方向を大翔は見る。

「あれがゴテンか…。何かデカいな、随分とパワーがありそうだ。」

 大翔は言う。

「ゴテンは市町尊でも随一の巨体の持ち主だ。ここは融合変身を使うしか無さそうな気がする。」

「ケント、忘れたのか?俺たちはあと3回しか融合変身を使えないんだぞ!ここで使うのは惜しい。」

「そんなこと言っている場合か?奴に生身でやり合ったら死んでしまうぞ!」

「でも…。」

 その時、ゴテンは大翔とケントの方を見た。

「まずい、見つかった!大翔、ここは逃げよう!」

「そうだな。」

 ケントと大翔の方へ向かってくるゴテン。2人はゴテンの追跡を撒く為に全力で走る。しかしゴテンは思いの外速かった。

「パワーもあって速いなんて、もう反則でしょ!」

「大翔、ここは融合変身を使うしか…。」

「しょうがない。行くぞ、ケント!」

「心得た!」

「「融合変身!!」」

 融合変身をすることで、秋田剣を持った人間と市町尊の肉体を融合させることで驚異的な力を行使することが出来る。ケントが戦闘用のアーマーに変身し、それが大翔の体にくっついていく。

「「変身完了、パワードケント!」」

 東北三大祭りの1つ、秋田竿燈まつりのモチーフがあしらわれたアーマーとマスクが特徴的なパワードケントという姿に変身した。

「俺様に歯向かう者は、許さぬ!」

 ゴテンは強力なパンチをパワードケント目掛けて放つ。

「「はあ!」」

 パンチが当たる直前に回避するパワードケント。

「攻撃スピードはそうでも無いな。」

「ゴテンが攻撃した瞬間に飛び上がって、斬撃だ!」

「了解、ケント!」

 ゴテンは再びパンチを繰り出す。

「今だ、大翔!」

「はあ!おりゃああ!」

 パワードケントは秋田剣による攻撃でゴテンにダメージを与える。

「よし、ナイスだ大翔!」

 ケントは大翔を激励する。

「お前ら、その程度で俺様を倒せるとは思うな!」

 ゴテンはハムフライ型のエネルギー体を生成、パワードケントへ飛ばしてきた。

「大翔、剣で防げ!」

「了解!」

 剣で何とかエネルギー体に対応する。

「なかなかやるな、だがこれはどうだ?」

 ゴテンは両手を天に掲げると、巨大な毬を生成した。

「おいおい、これ大丈夫か…?」

 そんな大翔の心配は的中してしまった。パワードケントに巨大毬が迫ってくる。

「「うわああ!」」

 しかしその時、剣を持った男性が現れ、巨大毬を真っ二つにした。

「漸く会えた、秋田剣を持つ者に。これで3人目だ。」

「「あなたは一体…?」」

「私の名は越谷こしがや洲義人すぎと。君と同じ秋田剣の使い手さ。」

 洲義人は和装をしており、年恰好は大翔に近い。

「秋田剣って1本だけじゃないのか?」

 大翔は洲義人に聞く。

「4本あるみたいだよ。まあその話は後、先ずはゴテンを!」

「ああ、洲義人行くぞ!」

「ちょっと待って!私も戦う。」

 大翔や洲義人と同様に秋田剣を持った女性が現れた。学生服を着ており、既に成人である大翔より若いのは確かだ。

水瀬みなせ!来ていたのか!」

 洲義人は言う。

「私だって秋田剣の使い手!戦うに決まってんじゃん。で、スーツを着込んでいるあなたは誰?」

「そういえば、名前聞いてなかったな。」

「俺は上野大翔。」

「我は秋田市の市町尊ケントだ。」

「え?市町尊はどこ?」

 辺りをキョロキョロする水瀬。

「この戦闘用スーツが市町尊だよ。」

「え??どういう仕組み?」

 水瀬は物珍しそうにパワードケントのスーツを見る。

「水瀬、今はゴテンとの戦いに集中しろ!」

「はーい。」

 洲義人が言うと水瀬は剣を構えた。

「何をごちゃごちゃと…。」

 ゴテンは再びハムフライ型のエネルギー体を使った攻撃を始めた。

「はあ!」

 3人はその攻撃を次々に弾いていく。

「ぐぬぬ、ならば必殺技だ!鳥海フィスト!」

 秀麗無比なる鳥海山のエネルギーがゴテンの右腕に宿る。

「あれをまともに食らっては一溜まりもない!3人で同時に必殺技だ!」

 ケントの指示により、3人は剣にエネルギーを溜める。

「はあああ!」

 3人の剣がゴテンの拳を打ち破った。

「何だと…。」

 ゴテンは黒幕の支配から解放され、鍵になった。秋田剣には市町尊を邪悪な力から解き放つと同時に、鍵の姿にさせる能力を持つ。その鍵を何らかの手段で解放させることで完全に元の姿へと戻る。市町尊の鍵となったゴテンを大翔は拾い上げる。そして融合変身を解除し、大翔とケントに分離する。

「わ、分離した!?どうなってんの?」

 興味津々に水瀬は大翔とケントに聞いてくる。

「これは融合変身だ。秋田剣を持つ人間と市町尊の力を合わせて戦うことが出来る。だがこの融合変身が使えるのは残り2回。」

「へー、使用回数に制限があるんだー。あ、そういえばまだ名乗って無かったね。私の名前は横堀よこぼり水瀬。よろしく。」

「よろしく。ところで洲義人と水瀬はこの村の住人か?」

 大翔は2人に問う。

「私はこの村にいるゴテンを元に戻すために来ただけ。洲義人はこの村の住人よ。」

 水瀬は答える。

「ああ、私は生まれてからずっとこの村に住んでいる。」

「この村は地図に載っていない村何だが、一体どんな村なんだ?」

 ケントは洲義人に聞く。

「ここは市町尊の村、25市町尊生誕の地です。つまりケントさん、あなたが生まれた地です。」

「我はここで生まれたのか?」

「生まれたといっても厳密には市町尊の鍵を作っている村なんですけどね。」

「ということは、この村に市町尊の鍵から元の市町尊の姿に戻すアイテムがあるということか?」

 今度は大翔が質問をする。

「あるけど今は使うべきでは無いね。使うとしたら全ての市町尊を元に戻してからだ。」

「そういえば…。」

 ケントは市町尊が邪悪なる神となった黒幕がいることについて話し始めた。

「なるほど、では最終目標はその黒幕を倒すことという訳ですね。」

 洲義人は言う。

「大翔はさ、市町尊の鍵何本持ってる?」

 水瀬は唐突に大翔に聞く。

「俺とケントで4本集めたよ。」

 大翔は今まで集めた市町尊の鍵を水瀬に見せる。

「ほー、でもまだまだですねえ。」

「そういう水瀬は何本持ってるんだよ?」

「じゃーん!」

 水瀬も市町尊の鍵を大翔とケントに見せる。

「1、2、3、…10本!」

 大翔は驚いた。

「なかなかやるでは無いか。」

 市町尊のケントも認めるレベルである。

「水瀬、そんなに集めてたのか…。私はまだ1本…。」

 しょんぼりする洲義人。

「ま、まあまだ9市町尊あるからさ…。」

 水瀬は洲義人の肩を叩く。

「そろそろ日暮れだな。」

 大翔の呟きに洲義人は反応する。

「皆さん、今晩泊まっていきませんか?」

「洲義人、良いのか?」

 大翔は言う。

「少しは遠慮しなよ…。」

 水瀬の小言を大翔は聞き逃さなかった。

「これは洲義人の善意なの!」

「その通り、親睦を深めるという意味でも泊まらせてもらおう。」

 大翔の言ったことに便乗するケント。

(この2人、ヤバイ奴?)

 水瀬は密かにそう思っていた。

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