第25話:タイマーンを申し込まれた
翌日。学院に登校するとマリンは既に教室にいて、目が合った。
「おはよう!」
俺を見るなり、キラキラした満面の笑みでマリンは声をかけてきた。
今朝のマリンはいつにも増して綺麗に見えて、ドキリとした。
一瞬、なんと呼べばいいのか戸惑ったけど、さすがに教室でフー君、マーちゃん呼びはしない方がいいよな。
そう思って、名前は呼ばずに挨拶だけ返した。
「えっと……あ、おはよう」
昨日二人で会ったのも、学校ではみんなに内緒にしておいた方がいい。
三大貴族のマリンが平民の俺と一緒に出かけただなんて、彼女の名誉のためにも周りに知られない方がいいからな。
「ねえフー君。昨日はありがとう。楽しかったわね!」
「……へ?」
ちょっと待って! 俺と一緒に居たって匂わせるようなことを言っていいのか?
しかもマリンがかなり親しげにするから、クラスのみんながどうしたんだって顔でこっち見てるよ。
みんな、すっごいジト目なんですけど……
心苦しくて仕方ない。
「やあマリン、おはよう」
俺をチラと横目で見てから、マリンに声をかけてきたのはツバルだった。
領主様の次男で女好きで有名なイケメン男子。
「あらツバル、おはよう」
「昨日は、って。フウマと何があったんだい?」
「うふふ、内緒よ」
「内緒?」
こめかみがピクリと震えて、きつい目つきになるツバル。バッと俺を振り向いて、睨まれた。
「どういうことだフウマ?」
どういうことだと聞かれても……
マリンが内緒って言う以上、俺が言うわけにはいかない。
「だから内緒よ。ね、フーちゃん」
「あ……うん」
俺とツバルの間に割って入ったマリンが、俺に微笑みかける。
ちょっと待って。助け舟を出してくれたのは嬉しいんだけど、ツバルの顔がさらに歪んでる。めっちゃ悔しそうな顔してるぞ。マズいだろコレ。
「ほらほらツバル。そんな顔しないの。私が誰と何をしようと私の自由でしょ?」
「そりゃまあ、そうだが……」
マリンの真っ当な意見に、さすがのツバルも首を縦に降らざるを得ない。
だけど顔は苦虫を噛み潰したような、ってヤツ。
クラスメイト達はみんな遠巻きにして、見ないふりをしてる。
だけどみんなコチラが気になって仕方がない様子だし、教室内は緊迫した空気が覆っている。
ツバルはまだ納得いかない感じだし、俺はいったいどうしたらいいんだよ……
「あれっ? 何をしてるんだ?」
ララティが登校して来るなり、声をかけてきた。
教室の真ん中でマリンとツバルと俺の三人が集まって話してるのを不思議そうな顔で眺めている。
「やあララちゃん、おはよう!」
知らぬ間にララちゃん呼びになってる。しかも超絶爽やかな笑顔。距離の詰め方が凄いな。
マリンに冷たくされたら秒速で他の女にアプローチをかけるなんて、さすが女たらしのツバル。
俺には到底できない芸当だ。
「ああ、おはようツバル」
「どうだい? この学院にはもう慣れたかい?」
「まあな」
「そうだララちゃん。キミはまだこの街に来たばかりだから、今度僕が街を案内するよ。できたばかりの新しいスイーツのお店があってさ。そこがすっごく美味しいって評判なんだよ。ぜひ一度一緒に行かないか?」
ツバルのヤツめっちゃ喋る。すごく嬉しそうな顔だし、ララティを相当気に入ってるんだな。
「スマンが断る」
「え? なんで? おごるよ」
「別におごって欲しいわけじゃない。美味しいお店は興味があるが……」
「だったらいいだろ。一緒に行こうよ」
「いや。同じ行くならあたしはフウマと行く」
「「……は?」」
思わずツバルの声とシンクロして、俺も間抜けな声を漏らしてしまった。
──いやいや、待て! なんでそんな爆弾を投げ込むようなことを言うんだよっ!?
と思ったら、ララティは得意げな顔をして、ニヤリとマリンに微笑みかけた。
あ、そっか。ララティは昨日追い返されたことをまだ不満に思っているんだな。
それほどまでに、美味しいものを食べたかったのか。どんだけ食いしん坊なんだよ。
なんて呑気に考えていたら、顔を真っ赤にしたツバルに突然指を差された。
「くそうっ、フウマ! 俺はお前に
この学院では独自のシステムがある。
それはいつでも誰でも、自由に一対一の魔法対決をできるというものだ。
それをこの国の言葉で「タイマーン」と呼ぶ。(語源は不明)
これは決して生徒同士の喧嘩を奨励しているわけではなくて、生徒たちの魔法向上のために始まった制度だ。
しかしそれには一定のルールがある。
一、きちんと相手に対戦を申し込むこと。
二、相手は対戦を受けるも断るも自由。
三、相手が受けた場合、教師に立ち合いを依頼する。そこで教師が対決の許可を出し、立ち合いを請け負って初めて
つまり俺には、この対決を断わる権利がある。
そしてもちろん俺は、この対決を……断わるつもりだよ。
「もちろん受けるよなフウマ」
「え? なんで?」
「試すにはいい機会だ」
「試すってなにを?」
「いいからとにかく受けろ」
ララティが言うことの意味がわからん。
もしかしたらしつこく迫ってくるツバルを懲らしめてほしいとか?
いや気持ちはわからなくはないが、ガチで勝負なんてしたら懲らしめられるのは俺の方だからな?
ツバルはこう見えても、クラスでも上位の魔法の実力なんだから。
「うん、いいんじゃないかしら。今のあなたなら、もしかしたらツバルといい勝負をできるかもしれないわね。やってみたらフー君?」
「マリンまで、そんなこと言う?」
お世辞なのか買い被りなのか。
マリンは俺を励ましてくれようとしてるのだろうけど、いい勝負なんてできるわけがないだろ。
「くそっ、なんでお前ばかり応援されるんだよっ?」
うわっ、ツバルがより一層へそを曲げてしまったじゃないか。
「まさかお前、ここで逃げるなんてことはないよな?」
「あ、うん……わかった。対決は受けよう」
ああ……さすがにこのシチュエーションで断わるなんてできなかった。
あとは教師が対決の許可を出さないことに、一縷の望みを賭けるしかない。
だけど……
「あら、いいじゃない。フウマ君がそんなに積極的なのはいいことね。ぜひいい対決を期待してるわ」
ローゼリア・ギュアンテ先生は、とても嬉しそうに手を合わせて賛成してくれた。
うん、やっぱそうなるよね。
こうして俺とツバルは三日後の放課後に、
とほほ。
= 魔王の娘、ララティ・アインハルト・ルードリヒ。
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