第17話 急ぐ事はないのだが

 元リポップ待ち全員と職人の伴侶を鹿頭にして、いよいよ亮鷲の番である。

 貴凰を付けて、少し離れて歩く。やはり我々二人がいるから出来ることだな。双身持ちでこの辺りの一人歩きは無理だろう。

 がさがさ歩いていると撃つ気配がするので避ける。

 気配がしてから飛んで来るまでが一定なので、判ってしまうと避け易い。

 鹿の横面に刺突入り闘気弾が当たる。それだけで倒れた。

 スナイパーなので打たれ弱い。

 一身半格の意地を見せて立ち上がったが、もう一発喰らって倒れ、もう立つなとばかりの追撃を受けて、立たなくなった。


「うわあああ! 一身半! 一身半!」


 大事な事だね。


 職人二人分リポップする間に、ぞろぞろ豹頭希望者や、鹿頭希望者がやってくる。縮地持ちって誰だったんだ?

 なんとか一段落して、貴凰に色鷲を見に行くか聞かれた。


「猟蜂が十六になるまでは、介添えをしようと思う。ここまでが早過ぎないか」

「お前がそう思うなら、そうすれば良いぞ」


 もう我々は獲れるだろうし、能力の高いのから行けば一党も大丈夫じゃないかとは思うが、お姉ちゃんが持ってると自分も欲しい子がいるからね。

 お前にはまだ早いが通用しない子が。

 猟蜂は、無茶をしないように神様が付けてくれた錘じゃないかとも思う。そうじゃなかったら、招かれ人にこんな我がまま言えないはず。

 そう考えるとますますあいつに甘くなちゃうな。


 当の猟蜂はずっと上機嫌だ。討伐は楽しいし、食事は旨い。旦那様(一党全員からそう呼ばれている)は優しい。

 妹キャラでみんなから可愛がられている。

 やはりこいつが大人しいのが、一つの目安じゃないか。


 何時とは言わずもう暫く介添えを続けると全員に話す。勿論反対する者はないが。

 遠慮をしない叔母ちゃんに聞いてみた。


「飽きないか。ずっとここだろ。買いたい物とかないか」

「何を買うのだ」


 貴凰に聞き返される。下着がない。生理もないのでその辺のものもいらない。

 武人は化粧しない。香水もつけない。鎧があれば服は要らない。三身格の鎧が普段着なのでこれ以上のものはない。

 菓子は果物の代用品なので、深層の果物食べ放題の状況に不満があるわけがない。

 招かれ人のちょっとだけで満たされる。

 

「お前は何か、不満があるのか」

「そう言われると、ないな」


 衣食住については同じ。介添えで人の役に立っている満足感がある。貴凰を抱いて寝るのは、健康にいい麻薬だ。

 この世界、歌と踊りはあるが、演劇がない。小説もない。病気もない。

 毒物はあるけど、解毒剤も完璧。

 セックスが気持ちよすぎるので娯楽が必要ない。

 また前世の垢が落ちた気がする。


 猟蜂の十六歳ではなく、自分の十一歳で色鷲獲りを始めた。

 紅ヤンマは二十歳になったか。色鷲が獲れるまでは、父親に腹直しをさせて待つと言っていた。

 五年以内には獲れるだろうから、遅いわけではい、三十前の子持ちは早い方だと、親父様は言っていた。

 まだ名前の決まっていない妹の授かりの儀までには、帰れるだろうか。


 色鷲は名前の通り、体色が何種類かある。

 斬蹴鳥のように全体一色ではなく、基調の色はあるが、胸、翼、頭で少し色が違う。


「赤いのだぞ」


 また腹違いの叔母が我がままを言う。


「色指定するなら、ノウハウを確立してからだ。他の者より遅くなるぞ」

「もう、とうに獲れていてよいほど修行をした。出来ぬふりをするな」


 異世界に転生したのに出来ませんが信用されないのか。


「兎も角、吾からだ。追いかけて来るかを試す」


 色鷲に襲われた者はいるが、逃げられないのでどこまで追いかけて来たかの記録がない。逃げ切れるほどの者は襲われない。

 奥まで飛べば、森の上を旋回しているので、探す必要はない。

 縄張りがあるので、複数に襲われる心配もない。それだけ強い。


 四足なら三身格のいる深さの上を舞っている。

 色は青い。翼の表は紺だが、腹と頭は紺碧くらいだ。逃げ易いように隠走で近付く。

 猛禽類は目が良いので、かなり遠くから反応した。隠走の全速で逃げる。

 ちゃんと付いて来ている。と言うかこのままだと追い付かれる。似たような事があったような。


 振り向きざまに長葉槍で闘気弾を撃つ。樹冠に降りて射撃するが逃げない。格下相手に逃げはしないか。

 当たっているが怯まない。持っているはずの絶叫を撃って来ないのは、口中への射撃を警戒してか。


 追い付いて両足を見せて来る。猛禽類の一つ覚えのダブルストンピング。判っていれば躱し易い。

 躱しながら穂先を横に振る。首に当たって羽根が散る。


「斬撃の方がいいのか」


 勢いで沈んだ体の上を取り、斬首。骨で止まったが、後ろ首でもそこまで斬られたら致命傷。

 まだ生きていて、じたばたもがきながら落ちて行ったのを追って、地面に着いたところでもう一撃して終わった。


 腕と体幹の自由度を確保するため、膝から下は鳥の足のままにする。翼がでかくなった以外はあまり変わらない。


「化身、現出」


 飛んで行くと、貴凰が怒る。


「またか!」

「しょうがないだろ。またもうちょっと近くにいてくれ。闘気弾が効き難くて、斬撃で倒した。色指定するなら、横に飛んでいなかったら帰るぞ。更に奥まで探せるようなもんじゃない」

「ああ、判った」


 判ってないな。判るんだぞ。

 いなければ帰ったのだが、いたものはしょうがないので連れて行く。

 やはり斬蹴鳥の時と同じで、追い付かれない。横から貴凰が撃った闘気弾でよろける。

 飛んで来て首に斬りつけ、落ちて行ったのに襲い掛かって終わり。

 赤い鳥頭その二が現出した。


「ちょっと下だったからか、強撃なら通るのか」

「他の者で試すしかない。帰るぞ」

「ああ」


 アベック飛行で帰ると、魔窟の外で待っていた者達からウォークライが沸き起こった。

 生身に戻ると、亮鷲が縋り付いてきた。


「此の方は、旦那様を、お慕い申上げております!」


 このタイミングで来るのか。


「貴凰、いい?」

「なぜ聞く。お前が決めることだぞ」

「じゃあ、承諾。こんな時に承諾は変か?」

「旦那さまああ! ありがとう御座います!」


 やらかしたのに気付いたのは色鷲獲りに成功した報告をしようとした時だった。

 ずっと一緒に暮らしてたので、一党の一人みたいになってたけど、亮鷲は太守閣下の孫。


「目出度い! まっこと目出度い!」


 通信機が五月蝿い。


 太守閣下に、強撃持ちと刺突持ちの被験者を送ってくれるように頼んだ。一党には集団で三身格を倒させておく。

 強撃持ちは蹴豹、刺突持ちはリポップ待ちキャンセルの一人の鹿頭だった。

 最初に貴凰を待たせたところより少し下で待っていて貰う。強撃持ちは闘気弾からの斬撃、背中を蹴って落として問題なく勝った。


 刺突持ちは近付くのを待てずに撃って少し離れた所に落としてしまい、長距離射撃のリキャストタイムに接近戦が出来ず、樹冠を跳んで近寄って、逃げようとしたのを撃ち落として仕留めた。勝ったら勝ち。

 二人にはむちゃくちゃ感謝された。二身半持ちは分家当主レベル。


 引き伸ばせない雰囲気になって来たので、一党の強撃持ちを年齢順にやらせる。ちょっとだけ強化と毎日深層での狩りを行っていたわが一党が負けるはずもなく、二身半持ちが量産されて行く。

 刺突も大丈夫。当たれば強撃よりダメージがあるようだ。吾が配下に外す者はいない。


 唯一の鹿頭、お手掛けさん二号は十分に引きつけてからの初撃で瀕死に追い込んだ。

 この世界でも射撃特化は飛行型の天敵。

 次は的中にしたのだけど、猟蜂は全員の一番最後にする。まったくむくれなかった。

 自分のことを心配してくれているんだ、とむしろ喜んでいた。なぜか良い子だ。


 無事に猟蜂まで二身半持ちになり、中央砦ではかなりの騒ぎになったようだ。


 十五枡の下士の子が、十六歳で色鷲持ち。懸河の若様背に負うて、貰った褒美よ、二身半。


 なんか、演歌かな。

 ご大父様に親父様の都合を聞いて貰い、送れる者から送って貰う。

 一番最初の組に紅ヤンマが入っていた。


「高志様、お久しぶりです。随分逞しくなられましたね」


 身長はそれほど伸びていないが、初対面の者にも子供に見られることはない。


「お前は可愛いまんまだな」

「可愛い、ですか」

「ああ、この世界で初めて見たのがお袋様、二人目がお前だった。可愛い子だと思った。あの時お前が言った通り、周りの者にたくさん幸せを分けられる者になれそうだ」

「うわあ、そんなところから覚えていらっしゃるんですか」

「そうだぞ。翡翠にも言っといてくれ」

「なんですか」

「それで判るから。今、役はなにしてる」

「家人頭です」


 用人の一つ下じゃないか。なんでそんなに偉くなってるんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る