中編
殿下が婚約破棄を突き付けたお方は、サラ・シェラザード公爵令嬢様。殿下の婚約者であらせられる、シェラザード公爵家のご令嬢です。
公爵家の名に恥じぬその美しさに加え、学園での成績は常にトップです。学園ではいつも近くに友人のご令嬢を連れていらっしゃいます。まさに小説の中に出てきそうなお方です。
そんなお方に殿下は、今なんと仰ったのでしょう……婚約破棄!
まあ!なんて事でしょう!こんなのロマンス小説の中だけかと思ったら実際に起こるなんて!
「殿下!いったい何故――」
「うるさい!貴様がマリアにした事は俺様の婚約者にふさわしくない行為だ!」
なるほど。サラ様がマリアさん?という方に、殿下の婚約者として、ふさわしくないことをしたと。私と同じ名前の人この学園にいたんだ……まあ、マリアなんて名前珍しくないよね。
「マリアに暴力をふるうなど、俺様が絶対に許さん!」
「それは、あの汚らしい平民風情が……」
「黙れ!マリアをそのように侮辱するのは俺様が許さん!」
このままサラ様はどうなってしまうのでしょう……。国外追放?それとも一族まとめて処刑?そんな小説じゃあるまいし、流石にそんなことあるはず――
「貴様の存在はこの国に有害だ!一族もろとも処刑だ!」
あったー……!
「何事だ」
この声は――。慌てて私や殿下以外のこの場の貴族の方全員が臣下の令をとっている。
その声の持ち主である――国王陛下は、騒ぎを聞きつけてこちらにいらっしゃったご様子。
それはまぁ、ここは王城の一室だし。当然陛下の耳に届くよね。
「レオン。この騒ぎはどういうことだ?」
「父上。この女は私の婚約者にふさわしくありません。この女は私のマリアに暴力をふるったのです!そのような者、私の婚約者にふさわしくないので、この場で婚約を破棄しました」
「婚約破棄だと……。サラ・シェラザード公爵令嬢よ。レオンの言ったことは誠か?」
「……はい。殿下の仰ることに相違ありませんわ」
その言葉を聞いた陛下の顔が一層険しくなられました。
「そうか……」
「では婚約破棄を認めてくださるのですね!」
「黙れ。まだ話を聞いていないものがおる。サラ嬢に暴力をふるわれたものの話がな……マリア・ミュレーズ子爵令嬢」
へぇ。サラ様が暴力を振るった方っていうのは、マリア・ミュレーズ子爵令嬢っていうのね。サラ様が平民っておっしゃっていたので、子爵家の庶子の方なのね……え?
「私っ!」
ついこの場にふさわしくない声を挙げてしまった私が見たのは、私に集まる周囲の人々の視線の数々。
「そなたがサラ嬢がいじめを受けていたというのは誠か」
……いじめ?
サラ様が……私を?
それって…………
「……一体何の話をしているのでしょうか?」
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