第12話 冒険者ギルドへ。綺麗なお姉さんは好きですか?
冒険者ギルドはジオルが訪れた時と同じ場所に今もあった。
石造りのどっしりした4階建ての建物。その入り口、観音開きはぴったりと閉まっている。
「まあ、こんだけの建物だもんなあ、引っ越しはしねえよな」
以前来た時には感じなかったが、子供が1人入るにはなかなかハードルが高い。
精神的なものではない、主に物理的な意味合いで。
大人であれば、扉の中央を押せば楽々扉は開く。
しかしその場所はティティルナの丁度顔のあたりであった。
ぐぬっと腕に力を入れて思い切り押す。ちびでガリのガキにはなかなか重い扉だ。
それを気張って押し続ける。
と、開いた先はこれまた変わらない光景が広がっていた。
正面に受付カウンター。
左側に依頼ボードと酒場兼休憩スペースがあり、その奥に二階に続く階段が見える。
右側には買取カウンター。
いかにも冒険者ギルドってな配置である。
「さてと、目的の買い取りカウンターに行きますか」。
どうやら今は一段落しているようで、今は人もまばらだ。
いるのは仕事を終えて酒場で飲む数人。これから飲みに来る人間が増えるのかもしれない。
「まずは金を作らないとな。そしてギルド登録して、依頼書をみて、採取したものが依頼に出てたら御の字って感じか」
ティティはそう呟きながら、右側の買取カウンターに向かい、そこに立っていた女性に声をかける。
「こんにちは、綺麗なお姉さん!」
「あら、可愛いお嬢さんね。何か御用かしら?」
長いサラサラな金髪。緑の瞳。そして少しとがった耳。加えて美形。典型的なエルフのお姉さんである。ジオルは内心デレデレである。綺麗なお姉さん、大好きである。
「すっごい綺麗ですね! 見とれてしまいます!」
「まあ、ありがとう。貴方も可愛いわよ?」
これは完全にお世辞だろう。
ティティは茶色の髪と見ようによっては金色に見える茶色の瞳。平平凡凡な容姿である。
ジオルと同じで、残念ながら、絶世の美女から一万歩離れている。
しかし、ジオルはティティの容姿を気に入っている。一人で生きていく為には、あまり目立った容姿は害になる。特に女の子は。別に強がりなんかじゃない。
「私、ティティルナです! ティティと呼んでください!」
元気に。はきはきと。これ大事。
「私はイリオーネよ。よろしくね。」
うむ。掴みはオッケイ。これでちゃんとした買い取りしてくれればなおグーだ。
ガキだからと低い査定をされたら、売るところを探さにゃならなくなる。
さてどうか。
「イリオーネさん、私、冒険者ギルド登録したいんですが、今お金がなくて。なので、山で採って来た物をまず買い取ってもらえたらって。それで登録もできたらなって思ってるんです」
確か買い取りは冒険者でなくても大丈夫な筈。
「そうなのね。じゃあ、ここに売りたいものを出してもらえる?」
よかった。大丈夫だった。
「わかりました」
ティティは足もとにいるスヴァの傍にかがむと、背中に背負わせていた荷物をとり、カウンターに載せた。
「これです! お願いします!」
「拝見します」
イリオーネは包みの中央を結んである蔓を解いて、大きな葉で包まれていた中身を広げた。
「まあ! これはボルイモ! それにジギーネ! それにランチェスの赤!」
ふふ。イリオーネが驚くのも無理はない。この3つはどれも貴重な素材である。
特に最後のランチェスの赤はポーションの材料にもなる。
ジオルの時にも、山で見かける事は滅多になかった。
それを採取できたのは、ゴールデンシープのお陰である。
かの羊様あらわるところ、珍しい薬草や実がたんまり見つかるのだ。
それに加えてスヴァのおかげでもある。
知識量が桁外れ。ジオルの知らない薬草なども色々と知っていた。
魔王時代、暇さえあれば、本ばかり読んでいたらしい。
「あの。買取大丈夫ですか?」
ティティはわざとらしく小首を傾げた。
何も知りませんという風に装って。
ここで子供と思って安く買いたたくか否かで、ここのギルドの程度が分かる。
「もちろんよ! ぜひ買い取らせて! そうだ! 冒険者登録したいんだったわね。じゃあ、まずはジギーネの半分だけ買取するわ! そして、お金を渡すから、それですぐ左側の受付でギルド登録してきて! そしてまたここに来てちょうだい! その間に他を査定しておくから! 確かこの3つ採集の依頼も出ていたと思うから先に登録してきて! 依頼料の方がお金になるし、依頼もこなせるしでよいと思うの! ね!」
イリオーネは余程興奮しているのか言葉が弾丸のように飛び出す。
「はい! とりあえず大銀貨2枚! これで登録できるわ! さあ、早く登録にいってらっしゃい!」
「は、はい!」
<スヴァ。どうやら健全なギルドのようだぞ。これなら山で採って来た物をここで買い取ってもらっても問題なさそうだ>
ちらりとスヴァに視線を落とす。
<お主も馬鹿じゃないのだな。ちゃんと考えておるのだな。安心したぞ>
「なっ!」
なにおう!
「なっ? なになに? なんか不満があった? うーん。でもこれで正当な価格だから。」
イリオーネが眉を下げる。
「あ、えっと」
違う。違うんだ。そうじゃない。
「わかった。まとめて買取ということで、頑張れるか計算してみるわ! さあさ、早く登録にしてきて!」
「! わかりました!」
なんかいい方向に転がったぞ。
けど。スヴァめ許さん。と、スヴァを睨みつけても、どこ吹く風だ。
くっ。今は登録が先か。ティティは苦々しさを押し殺して、お金を握りしめると、左端のカウンターへと足を向けた。
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