(8)

  また、今日も、元冒険者が町中で暴れている。

 でも、スーパーヒーローギルドや退魔師ギルドの一員であっても、僕たち元冒険者には出動命令は出ない。

 移籍先のギルドにもランキング制度が有ったなら、万年最下位の戦力外扱いだ。もしくは、現場でいきなりテロリスト化しかねない危険人物か。

 僕も、この騒動を、野次馬に混って眺めているだけだ。

 この前の酒場での騒動で、顔に火傷を負って二目と見られない顔になった元ランキング5位のパーティーのリーダーだった「暁の騎士」イキールが……例によって頭に作り物の角を付けて、自分は闇堕ちして魔族になったんだと思い込み通り魔事件を起こしてた。

 しかし、何で、自分が「闇堕ち」したと思い込んだ冒険者は、肝心の「闇堕ちして何をするのか?」に関する想像力が異様に乏しいんだろうか?

 闇堕ちイコール所構わず暴れる事なら、それ、闇堕ちじゃなくて馬鹿堕ちじゃないのか?

「今日の騒ぎは危険ですから、人命救助レスキューギルドの指示に従い避難して下さいッ‼」

 突然、そんな声がする。

 え? どう云う事?

 でも……見物してる一般市民は指示に従わない。

 今や……「新しい仕事が巧くいってないストレスで、トチ狂って町中で暴れ出した元冒険者が鎮圧される」光景は……一般市民にとって、適度なスリルが有る娯楽だ。

 数ヶ月前まで、モンスターを狩ってた連中が、今や、狩られるモンスターだ。

 ごおッ‼

 えっ?

 その時、「暁の騎士」イキールの体から、何か、とんでもないオーラが吹き出した。

「お……お……おれたちを……ばかに……した……やつらに……ざまあ……してやるんだ……。げはははは……いまさら……ないて……こうかいしても……もう……おそいいいいい」

 イキールの全身の筋肉が膨らみ、鎧が弾け飛び……そして……。

「あれ?」

 筋肉が膨らみ過ぎたようだ。

 膨らみ過ぎた筋肉のせいで、体がうまく動かせないまでに……。

 手や指の筋肉まで膨らんでるんで、剣も巧く握れらくなり……。

 エロ漫画よろしく、竿や玉まで巨大化してる。歩いたり走ったりするのの邪魔になりそうな位に。

「え……え……え……なに、これ……たすけて……あああ……ぼうりょく……はんたい……」

 余りにも無茶苦茶な光景だった。

 謎の闇のオーラのせいで、威圧感だけは半端ない。

 でも、姿は……グロさと滑稽さの融合体の達磨体型。

 顔だけは元のまま……って、火傷のせいで元からグロい顔だけど。

 異常な筋肉量のせいで、逆に、攻撃も防御も逃走も出来ない。

 戦いは……何時間も続いた。

 自分から攻撃は出来ない。

 しかし、筋肉量と謎の闇のオーラのせいで防御力だけは有る。

 ある程度の傷を負っても再生はするけど……痛みは感じるようだ。

 ペチペチペチペチと……何時間も、ダメージを受け続け……。

「お……おれが……わるかった……こ……ころして……ひ……ひとおもいに……ころして……」

 冒険者ランキング5位のパーティーのリーダーの成れの果ては……。

 数時間前に、「今更泣いて許しを乞うても、もう遅い」とか「ざまぁ」系の一番醜い部分を凝縮したような捨て台詞を言ってたのに……今は、自分を攻撃してる相手に自分の死を乞うている。

 一般市民は……流石に、このグロい見世物に嫌気がさしたのか、ほとんど居なくなった。

 いつの間にか、近くには仮設テント。

 何人ものスーパーヒーローや退魔師が交代で、防御力と耐久力と再生能力だけは有るのに、攻撃手段がほぼ皆無、当人の心は完全に折れきってる元・冒険者のモンスターを攻撃し続け……。

「はい、第3チーム、そろそろ、休憩に入って下さい。第4チーム、第3チームと交代して、あのマヌケを攻撃して下さい」

 仮設テントの中で、控えのチームや休憩中のチームも、うんざりした表情。

「マジで、あんなのが、町中に同時に何匹も同時に現われた場合の対策を考えとくべきじゃね?」

「やだよ、こんなの。いじめじゃねえか、これ」

 休憩に向かうスーパーヒーローや退魔師の口から出るのはボヤき台詞。

 昼ごろから始まった騒動は……夕方ごろにようやく解決した。

 膨大な筋肉は腐汁に変り……。

「何だ……こりゃ?」

「この角が……呪いのアイテムなのか?」

 かろうじて、多少は残っていた野次馬に混って……元「暁の騎士」イキールの白骨化した死体を見る。

 作り物の角は……な……なんだよ……これ?

 その角は……頭蓋骨に開けられた穴に嵌め込まれていた。

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