(5)

 もう誰も訪れなくなった……元・冒険者ギルド本部の前、僕たちは、そこに来ていた。

 僕と……「主君なき戦士ローニン」、「大賢者プロフェッサー」、シャロル、ジュリア。

「かなり……強力な邪気だ……おそらくは地獄インファナル系」

「マズいのか?」

「ああ……探知系の魔法は、ほぼ妨害される。攻撃魔法の威力も落ちる。君であっても『人の気配を察知する』ような事は、いつもより難しくなると思ってくれ」

 ガチャ……ガチャ……ガチャ……。

 その時、板金鎧を着た人間が歩くような音。

 それも……いくつも……。

「ゴブリン……?」

「いや……何か……違う……まるで……」

 ギルド本部の正面玄関が開き……出て来たのは……。

 吐きそうなほど不気味なモノ……。

 ゴブリン・ドワーフ・人間……それをゴチャマゼにしたような……顔はゴブリンと人間の混合物、体はドワーフ並にがっしり、何故か手足だけが板金鎧で覆われ、手には……人間より頭1つ分以上小さい背丈には不釣り合いな大型の剣や斧や槌。

「できソコナイノのっぽドモメ。イ〜気ニナルナヨ。『ざまぁ』スルノハ……おれタチダダダダダ……」

 3種族のおぞましい継ぎ接ぎつぎはぎのリーダー格が……そう言うと……。


『出来損ないのノッポの癖にいい気になるなよ……』

『お前の「出荷先」なんて無い』

『俺達は神様の元に行くが……お前は一生ここを出られない』

『いや……廃棄処分だろ……。出来損ないとしてな』

『や……やめて……いじめないで……』

 そして、いくつもの嘲笑。


 え?

 何の記憶だ、これ?

 子供の頃の僕が……別の子供にいじめられていた……。

 なぜか……僕より背が低い子供に集団で……。

 どうなってる?

 子供の頃に……こんな事……有ったのか?

 だって、僕の子供の頃は……へ? 何? どうなってるの?

 思い出せない。

 子供の頃の事が何も……父さんや母さんの名前も……近所に、どんな人が住んでいたかも……。


「危ないッ‼」

 ガァンっ‼

 僕の頭に叩き込まれようとしていた斧を主君なき戦士ローニンの超硬合金の盾が弾き飛す。

 あ……えっ? 頭に斧が……叩き込まれる?

 何で……あの……人間とゴブリンとドワーフの混合物キメラの方が……………………?

「うわあああ……ッ⁉」

 人間とゴブリンとドワーフの混合物キメラの手足が……いつの間にか伸びていた。

 約倍に……。

 そして……股間と膝、膝と足首、肩と肘、肘と手首……計8箇所に……人間の手足には無い関節が有った。

 ああ……あの……板金鎧に覆われていたように見えた手足の正体は……機械からくり仕掛けの義手・義足。

 シャロルはサイキックで生み出した「気」の刃を投げ……ガチャン……シャロルが狙った人間・ゴブリン・ドワーフもどきの手足の長さが一瞬で元に戻り……。

 人間・ゴブリン・ドワーフもどきの頭部を狙った「気」の刃は外れ……次の瞬間、シャロルが手を振り降すと、「気」の刃は軌道を変えた。

「ぐあああああ……」

 真下に……。

 「気」の刃は……人間・ゴブリン・ドワーフもどきに命中。

 まず一体。

 なら……僕も……。

 聖剣を抜いて……「悪を討つ一撃」を発動。

 光の刃は……人間・ゴブリン・ドワーフもどきを狙って飛び……。

「えっ?」

 1日最大3回しか使えない……貴重な聖騎士パラディンとしての能力は……あっさり不発。

 光の刃は、人間・ゴブリン・ドワーフもどきを素通りして、どこかに消えた。

「何やってんの? それ、魔性フィーンドやアンデッドにしか効かないでしょッ‼」

 ドゴォッ‼ ドゴォッ‼ ドゴォッ‼

 大賢者プロフェッサーの魔法が次々と人間・ゴブリン・ドワーフもどきに命中。

「噂は……本当だったようだな……」

 えっ?

「今使ったのは対人特化型の魔法だ」

 どう云う事?

「これが……何であれ……極めて人間に近い生物だ。ひょっとしたら……魔法で改造された人間かも知れんぞ」

「じゃあ、何で、そんなのが冒険者ギルド本部に居るんですか?」

「百数十年前に起きたある異変で……ドワーフ・エルフ・ゴブリンなどの妖精系の種族のほとんどは……妖精界に帰ったと言われていた。だが、何故か、冒険者達には、ドワーフやエルフが居る。そして、冒険者達は……ゴブリンを狩っていた」

 その通りだよ。頭のいい馬鹿め。

「おそらく……それらのゴブリンやドワーフやエルフの正体は……本物のゴブリンやドワーフやエルフではなく……」

 嘲嘲嘲嘲嘲嘲嘲嘲……♪

 自慢気に説明しなきゃ生きてられたのに……死ね……ん? あれ?

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