第22話 アクシズ教
【三人称side】
「我がエリス教会では、貴女たちの助力は必要としておりません、お帰りください!」
「それはおかしいわね
ここで横になっている人達は、治癒の魔法の効果が弱いようだけど、ちゃんとしたプリーストが対処したのかしら?」
「我らをバカにするのですか?」
騒ぎの元だと思われる部屋に入ると、どうやら病室のようで、全身に包帯を巻いた者や体の一部が欠損している者等がベッドに横になり呻き声をあげており、その横で白っぽい服装をした女性司祭と青を基調とした修道着に包まれた女性がつかみかからんばかりに言い争っていた。
「ねえ、これってどういう状況?」
「あぁ、クリス様おかえりなさいませ
実はクエストに失敗した冒険者が担ぎ込まれたのですが対応できるだけの腕の者が王都に出払っておりまして、どうしたものかと案じていたところこの方が、ウチにいらして治療をすると申し出てきたのですが……」
「アクシズ教のプリーストだったんだね」
皆に注目されているアクシズ司祭の女性は、まだ年若いようだった。
入ってきたアラシ達の中から、めぐみんを見つけて思いきり抱きついてきた。
「お久し振りめぐみんちゃん、大好きなセシリーお姉ちゃんよ♪」
「やめてくださいお姉ちゃん、もう私は人妻です !」
その瞬間、セシリーはこの世の終わりが来たように呆然と硬直した。
「何を言っているのめぐみんちゃん?
あなたはまだ十三歳でしょう、結婚できるわけがないでしょうに !」
「式は私が十四歳になったら挙げることに決まっています !
そして紅魔の里の実家の隣で既に二人の家を建てて一緒に住んでます !」
「誰?私の可愛いめぐみんちゃんを、たぶらかしたのは誰なの?」
ハッとして、めぐみんの後ろにいるアラシに気づいたセシリーが話しかけた。
「もしかしてあなたが?」
「我が名はアラシ、紅魔族唯一のハーフボイルド!
めぐみんを嫁にする者!」
ユウヤの名乗りにセシリーだけでなく、エリス教の女性司祭も見惚れてしまっていた。
今の少年は、伸ばした黒髪が緩く波打って肩に延びるくらいになっていて、身長も百七十六センチまでになっていた。
使い込まれた灰色の皮鎧の腰には白銀のバスタードソードが吊られて背中には青く見えるマントを装着していた。
鎧の内部は鍛えこまれた肉体が垣間見える。
「クリス様、このアラシさんは?」
「私が入ったパーティーのリーダーだね
メンバーの一人の娘に回復魔法を取得させたくて来たんだけど、取り込み中だったみたいだね」
エリス教司祭はうなずくだけだが、アクシズ教司祭であるセシリーにはユーヤの体が白銀色に輝き、まとっているマントが青白く輝く翼の形状に見えた。
「あの、ユウヤさん?
その体の白銀色と背中の青い翼は?」
セシリーの言葉にハッとしたアラシだったが、素早くめぐみんがセシリーの耳にささやいた。
「ここでは、詮索は無用ですよ
ただ、白銀は女神エリスの色、青は女神アクアの色だと承知してください」
ヒソヒソ会話をしている間、クリスがエリス司祭を説得していた。
「まあ、確かにあなたの立場なら腹立たしいだろうけど、現に担ぎ込まれた怪我人をほっとくわけにいかないし、治療できる人が王都に行っちゃってるんだからさ、ここは手伝ってもらおうよ」
「あなた様がそう仰るのでしたら……」
結局話がついて治療が始まった。
部屋に複数人のエリス教のプリーストが入ってきて、一人ずつヒールやハイヒールをかけてゆく。
ただし、重傷者は部屋の中央に頭の方を中心にして円形にベッドを並べられ、その中心にセシリーが立つと、ねりまきを自分の方に手招きした。
「私はセシリーお姉ちゃんよ
可愛い貴女のお名前は?」
「ねりまきです」
「それじゃあ、ねりまきちゃん、目を閉じて、この人達が全快して元気にしている姿を想像してみてね?」
「…………」
「きたわ、みなぎって来たわよ~
セイクリッドハイネスヒール♪」
瞬間、セシリーと肩に手を置かれているねりまきを中心に青白い光が広がり、重症患者を包み込むと、身体中から血が溢れているものや手足が欠損した者達がみるみる回復して行き、光が収まった時には、健康体となった患者達が穏やかな寝息をたてていた。
「なんとも凄まじいものだね」
あるえが驚いているが、声こそ出していないがエリス教の女性司祭も驚嘆しているようだ。
「ねりまき、どうだ覚えたか?」
アラシの問いかけに魔法が発動してからは、その光景に目を奪われていたねりまきは、自分の冒険者カードを確かめるとスキル欄にヒールとハイヒールそしてセイクリッドハイネスヒールの文字が暗く刻まれていた。
「大丈夫みたい
どうやら、本職並みのスキルポイントでマスターできそうね」
「でしょうね
今回ねりまきちゃんの魔力も使って一気に回復させたから、同調がスムーズにいったわね
普通は、二人以上で一気に大規模な回復魔法を発動するのは難しいのよ
この娘の才能もあるけど、私との相性もよかったみたい」
「セシリーさん、あなたへの今回の指導料です」
「これは、最高級のシュワシュワじゃないの
ありがたく、いただくわ。」
自分の用は終わったとばかりに部屋を出て行こうとしたセシリーだが、伸び上がってユウヤの耳にささやいた。
「貴方、女神エリスの加護だけでなく、アクア様の守護も受けてるわね
是非、詳しく話を聞かせてもらいたいわ、めぐみんちゃんと一緒に♪」
扉を閉めて出て行ったアクシズ教司祭。
「できるだけ、近ずきたくないんだがなあ~」
「用があるときにはエリス教の教会に来ればいいよ」
クリスの言葉にうながされ、アラシ達も外に出た。
ちなみに、気持ち程度だが、いくらかは協会に喜捨をしてきた。
「あの場所では、クリスはかなり重んじられているようだな」
「うん、私とエリスのことは、ある程度知られてるんだ
そうしないと、都合が悪いことがあって、まぁ、いろいろあるんだよ」
一行は連れだって冒険者ギルドに歩いていった。
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