そのニジュウナナ プチ

「やー、でもさぁノッコ?さっきの『ヤットッハッ』はちょっとビミョーじゃない?」

「えへへ、ですよね〜♪変身ポーズ、考えたんですけどいいの思いつかなくて〜……」

「じゃ、今度みんなで考えようよ!それでノッコ的にはさぁ、カッコいいヒーローっぽい感じがいいの?それとも魔法少女っぽいプリティーなヤツ?」

「あ〜それ、迷っちゃいますぅ♪」

「……あの?ねぇ二人とも?」

 まるで遊園地でアトラクションを選んでいるようなノリの二人。こういう時、早苗はつくづく自分が損な性格だと思う。ここの探索は自分は乗り気ではない、むしろ止めたいはずなのだが、のほほんとした二人を見ているとつい舵取りをしてしまう。

「この工場、相当広いし。建物も沢山あるじゃない?どこから見てみるの?」

「おっとそうです!そしたらですね……」

 ノッコは背中のデイバッグから何やら取り出す。

「ジャジャーン♪これを使ってみましょう!」

 それは、金メッキとガラスでデコられた、キラキラの二本の金属棒。どちらもL字型に曲がっている。

 それを見て、仁美の目がそのキラキラに負けず輝く。

「ダウジングロッドね、カッコいいじゃんノッコ!どしたのそれ?」

「今日は探し物だから、役に立つかもって思って。昨日ナマゾンの当日特急便で届けて貰いましたぁ♪」

 つまり、今日初めて使うのね……早苗は敢えてツッコミはやめる。多分今日はキリが無さそうな展開だから。

「それじゃいきますね、構えてシャキーン!

 ……あ、なんか引っ張られてます!アッチかも!」

「……ええ?」

 まさかそんな思いつきだけの方法でどうにかなるはずがない、そう思っていた早苗は目を見張る。ノッコの両手の中で、キラキラのロッドはブルブル震えながらも、確かにある方向を強く指している!

「むむむ、流石は小姫様……」

 感心する槌の輔。

「やっ、まさかこれも槌の輔様が?」

「いやいや、これは違うぞ。昨夜な?小姫様はスマホで熱心にこの術のことを調べておられたのだ。

 ……南蛮渡来の占術を、見よう見まねでここまで使いこなされるとは。見たか巫女殿よ、これぞまさしくなり!」

(ああこのお話、もうで何でもアリになっちゃうんだ……)

 早苗は目がくらむ思い、ついついメタい愚痴も口から漏れる。

「よーし、んじゃ早速行ってみよー!ノッコ案内よろしく!」

「ハーイ、それでは皆さんついて来て下さーい♪」

「おおこうしてはおられぬ、某も小姫様の新しき御力、見定め致さねば!」

 もうダメこれわかんない……早苗は今はただ、黙って皆について行くことにした。

 かくて。ノッコの持つキラキラロッドに誘われ、一行の向かったのは、その敷地の中央にある一際大きなプラントであった。


「……オあオあ〜」

「あ、また生まれた!フラフラ君捕まえて!」

「フララー♪」

 のたうつ龍が詰め込まれているように、中空から床まで縦横に。工場のそのフロアの空間には、今や何も流れてこないローラーコンベアのレールが複雑に走る。建物の規模にしては室内が狭苦しく感じるのはそのせい。だがその中央にはぽっかりと広いスペースがあった。大きな操作盤が一枚、おそらくかつてはそこで作業員が、この場の機械設備をコントロールしていたのだろう。

 見よ、そこに鎮座している、こんもりと盛り上がった黒いドーム。その大きさと形は何かに例えるなら、人が五人ほど入れる大きな「かまくら」といったところか。

「……ゴわゴわ〜」

 そしてそのドームが鳴いた。一際低い声だが、どうやらそれは町に蔓延る怪物たちと同列のモノ。

 言わずと知れた、これぞ大グロゲロだ。八ッ神恐子がここに持ち込んでおよそ一週間、魔法瓶に収まるほどの大きさだったそれが、ここまで成長したのである。

 そして小グロゲロには胴体部分から触手や手脚(のように見える太い触手)が生えているが、このドーム型の大グロゲロの半球面のあちこちからニョキニョキと生えているのは、何と小グロゲロそのもの。

 そう、それは「発芽」し、そして「分裂」する。今一体の小グロゲロが、大グロゲロのドームからポロリと完全に分離して歩き出したのだ。

 早速ヤスデはフラットウッズに命じ、それを捕らえさせる。

「オッケイ捕まえたね。キモいから、早くカプセルにねじ込んじゃって!」

 大グロゲロの周囲には、最初に恐子が持ち込んだのと同じ魔法瓶のような装置がズラリと並ぶ。そして一つだけ、魔法瓶の上部、口に当たるところに大きな漏斗が刺してある。

「フラ〜!」

 フラットウッズはその漏斗の中に、捕まえた怪物を押し込む。

「オあ〜!」「フラー!」「オあ〜!」「フラー!」

 ジタバタもがく怪物を、容赦なく宇宙人ロボはグイグイと。そして怪物の体はジワジワと漏斗の中に。

(やっぱりキモい……)

 ゲンナリ顔のヤスデの目の前で、やがて怪物はすっかり瓶の中に消えた。すると、瓶の半ば辺りに赤いランプが点灯した。

「このカプセルももういっぱい。フラフラ君、ジョーゴ次のに付け替えて」

「フラ!」

 ロボットは今のカプセルから漏斗の部分をスポッと引き抜いて、隣のカプセルに刺す。次の準備も含め、どうやらこれでひとまず作業完了のようだ。

「ま、すぐまた生まれちゃうんだけど……あ〜ぁやだなぁコレ、マジキモいよ!」

 いくら見てもどれだけやっても全然慣れない。ヤスデはため息を幾度もつきながら。

「一本に入るのが三十匹でぇ、今満タンなのが、ひぃ、ふぅ……二十七本、まだ入るのがあと三本!」

 カプセル三十本分、全部で九百匹怪物が溜まったら、作戦開始!恐子はそう言っていた。ただし適時町に放つ分の怪物もまだまだ必要なので、合計でざっくり千匹以上は生み出すことになるのだろう。

 ヤスデは自分を誉めたい。よくぞここまでこのキモさに耐えた。そして思う、これは何かご褒美ぐらいあってもいいだろう。

「恐子の方は上手くいってるのかな?帰りにお土産買って来て欲しいけど。

 ……え?何?」

 宇宙人が、工場の数少ない外の見える窓を指差している。


「ここみたいですね」

 ロッドに強く引かれているらしい、ノッコの姿勢はやや前のめりだ。

「おお〜、この建物!これぞイメージ通りだわ。ノッコ、きっとここで間違いないよ」

 またそれ?仁美のその言葉に早苗は訝しむ、だがすぐに思い直す。その件はまだ置いといて、自分の役目は万一に備えること。

 サッと構えるのは自分のスマホ。そう、あの「影踏之術」もそこにインストール済み。

 そしてたちまち顔色が青ざめる。

「……帰ろうみんな!私にも見えた、ここ、確かにあいつらの跡でいっぱい!

 ここまでわかれば十分よ、深入りはダメ!向こうに感づかれる前に引き返そう!」

 だがノッコも仁美も返事は出来なかった。先に返事をした者がいたのだ、そしてその声に遮られた!

「アンタたち、そーんなうまいこと逃げられるワケないじゃーん!!」

「フラララララー!!」

 工場の窓からガラスを派手に破って飛び出して来たのはフラットウッズ、そしてその腕に掴まってぶら下がるヤスデだ。

「飛んで火に入る夏の虫ィ!恐子には探せって言われてたけど、そっちから来てくれたんなら、話がマッハ!

 お邪魔娘1号2号、ここでまとめてゲットしちゃうんだからー!」

「「「「……っさ!」」」」

「え?」

 ここぞとばかりカッコよく登場したつもりだったヤスデだが、相手が示した反応に戸惑う。

「「「「いや、だって、それ小っさ!!」」」」

 かたや。ノッコ、仁美、早苗に槌の輔まで、あんぐりと口を開けて声を揃えて驚く。

 八ッ神恐子がヤスデに合わせてフルチューンしたという、ヤスデ専用の最新型フラットウッズ。その体高、およそ80センチメートル。

 ……1メートル未満の宇宙人!なるほど見た目がだいぶショボい!

 恐子の名付けて、これぞ「フラットウッズ・プチ」。

「フラララララララ!」

「「「「声も何だか、甲高いィ?!」」」」

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