両チームの思惑は
ジンジャーちゃんと別れて私達はAサイトの周辺に位置した。草木を掻き分け掻き分けAサイトが遠くに見えた。だけど、建物に遮られて上手く様子を観察できない。
矢にデコイのぬいぐるみをくくりつけて撹乱の用意する。
ルナちゃんには、本当に申し訳ないけど、これも勝つためだ。心がきりきり......でもこれ以上の犠牲は出さないから。
「局地戦になったらメリナに指揮権移すからね、きちんと喋るんだよ」
「......うん」
メリナはしぶしぶ頷いた。
「曲射でデコイをサイト周辺に送ります。Aサイトの奥に一体、Bサイト周辺に複数体投射するので合図に合わせて襲撃してください」
AサイトとBサイトにそれぞれ別れて、襲撃を準備した。
「そろそろ時間、コゼット弓を構えて」
「うん!」
弓に矢をあてがって、体の具合を整える。引いて、撃つ。引いて......
「コゼット、緊張してる?」
「大丈夫......」
大きく息を吸った。改めて弓を構えて、遠くを見据える。足はハの字に、重心を落として、一直線、力いっぱいに。
ギチギチと音がなって、弓が撓り、丁度半月の形へとたわんだ。後は絞って曲射で打ち上げるだけ!!
「私は勝つぞ!!!」
手の抑えをなくして矢がバシュン!!と音と共に放たれる。
「うおおー、飛ぶねー」
「どんどん行っちゃうよー!!」
弓が飛ぶのをみて、ルナちゃんも興奮してるみたいだ。
デコイが付いているのでまっすぐ飛ばないが、それでも十分な程遠くにきちんと飛んだ。矢の着弾まで3、2、......
トランシーバーを手に取って通達する。
「作戦開始です」
****
>赤チーム(クロエ視点)
施設の外装は立派だが、内装はびっくりするほど質素だ。隠れる場所は少ない。施設全体は広く、AサイトとBサイトはそう簡単に行き来は出来ないだろう。サイトの中のクリスタルは台に突き刺さっていて剥き出し。大切なクリスタルという設定なのに、このように野外に置くのは頂けない、と思う。
防衛拠点に着いたうちらは、防衛拠点構築より前に、お互いに知識を共有して作戦を練ることにした。
「んーどうしよっか?」
アガサが話しかけてくれる。
このクラスは、アガサとうちがリーダー格という感じだ。あっちのチームはだれがリーダーなんだろう。ルナはそういうのやりたがらないし、ジンジャーはじゃじゃ馬でなんとなく制御しきれない感じがする。
じゃあコゼットか、メリナ、ということになるけど。
「......コゼットは魔術が使えないし、メリナは話さない堅物だし」
「なにが?」
「いや青チームは、だれがリーダーなんだろって話」
「確かに。分からないわね」
あの中で最も意見を取りまとめやすいのはやっぱりコゼットだなって思う。一度は喧嘩した仲だけど、コゼットは綺麗で魅力的な人間だから。
ルナも、コゼットのこと気に入ってるみたいだし......そのことにもやもやしたものを感じるが、うちがなにか言う資格はない。
「赤チームはどなたがリーダーをなさるのでしょうか」
マリが言うと、自然とうちに視線が集まる。私が地図を受け取って持ち続けてるからだろう。『蠅の王』の展開と同じだ。
「じゃあうちがやろっか」
「そうだね」
これから赤チームはチーム・クロエということになる。
「サンドラ」
「ん?」
「相手についてなにか知ってる情報は?」
「丁度情報が薄い人ばっかっすねー。メリナさんとコゼットさんに関しては大した情報がありません。メリナさんは転校前の出身中学の情報がないですし、コゼットさんは能力開発施設の出身で、同じ出身の方からは魔術が使えないと証言されてるけど」
ああ、この間のB組のお嬢様もどきのひとか。......というか聞き捨てられないことを今言わなかった?
「え、コゼットって施設出身なの?」
「そうですよー」
そうだったんだ。......気になるが、あまり詮索するのは良くない気がする。人の出自をうわさするのは、あまりいい趣味とは言えないだろう。
「ジンジャーさんは出身中学で派手に事件を起こして何回か停学になってるっすね。彼女は爆破の魔術が得意で、停学になった事件も、学校施設を爆破したみたいっすよ」
「おっかないね」
爆破で停学ねえ。
「ルナさんの魔術は、クロエさんの方が詳しいでしょう」
「そうだね」
私は中学の頃のルナを思い出す。
「ルナの魔術は綿を詰めてなにか作るのに特化してて、器用なんだよ。作ったもので、なんでも出来る」
「なんでもって?」
「こうパペットをはめて、手から火を出すとか」
「かわいいわね」
アガサが感心したように言った。ルナのかわいさがみんなに知れ渡るのはいいことだ。
「相手の魔術はもういいや、こっちの魔術だよ」
「私は風だよ」
アガサが手のひらの中でくるくると風を起こしていた。
「マリは?」
「わたくしは結界魔術と、精神作用系ですね。探知系も使えます」
「「すご!!」」
え、そんな有用な魔術だったのに、一言もそのこと言ってなかったの? 謙虚というかなんと言うか。
「これってクリスタルの周りを結界で覆ったらダメなんすかね?」
「良くないみたいですよ。先ほどルール説明のとき言ってました」
「あ、たしかにそうでした」
サンドラとマリの会話から戦術を考える。クリスタルを覆うのはダメだから、サイトには言った敵を感知して弾いてもらうのは確定だ。
「マリは後でうちのところにきて。マリの魔術が戦術の土台になるから、情報詰めよう」
「分かりました」
「サンドラ! サンドラの魔術を言って」
「うーん。まあ見てもらったほうが早いすっね」
そう言って彼女は、なにかを唱えると頭をぶるぶると振る。すると驚くことに彼女の姿が黒く変わっていった。
「え」
「これがメインっす。あとは炎熱系の魔術があります」
「かわいい!!!」
彼女はあっという間に黒い狼男......狼女子になった。艶のある毛並みに、鋭い牙に、飛び出た黒い鼻。長くて靭やかなしっぽ。ケモ度を言うと五段階で言うと3、2くらいかな。それくらいのケモ度の容姿。
「わたしこの姿あんまり好きじゃないっす」
「どうして!」
「毛深いし、ブサイク......」
「かわいいのに」
なんか新鮮だな、サンドラってこんな奴だったんだ。なんだか知らない側面を見た。
「じゃあ作戦だ」
マリから魔術の詳細を聞いてから、みんなを集めて地図を広げた。
「まずはマリとサンドラは分けよう。マリはBサイト、サンドラはAサイトで、マリは広範囲の魔力感知とサイトを守る閉鎖結界をお願い。サンドラは目と鼻と耳で見張り」
「分かったよ」「了解しました」
「アガサはサンドラと一緒にAサイトの守護、私はマリと一緒にいよう。マリの情報を受けて、うちがみんなに共有しながら指示をだす」
「了解」
「じゃあ、位置について。奇襲を正面から受けるのは避けたい。情報量で勝ちに行こう」
「「はい!!」」
考えたとおりに私達はふた手に分かれる。トランシーバーで音声を共有しながら、うちとマリはBサイトへと移った。
「マリ、結界は貼れた?」
「はい。これで大丈夫でしょう。この場で拡張できるのはこれが限界でしょう」
広く取る必要はまだないので、これでBサイトは完璧だ。二分の一のヤマが当たってたらそれだけで勝ちになるくらい。
「じゃあ私は行くから」
「承知しました」
「マリ、がんばってね」
マリを一人残して私はBサイトとは少し離れた、AサイトとBサイトの間についた。
隠密移動による中間地点の侵入経路を一つ潰し、ヤマが外れた場合のAサイトのリカバーを早めるためだ。ここからでもBサイト内が視認できるし、いい場所だと思う。
Bサイト内は結界で、そうやすやすと突破できないのだから。
しかし、マリは便利な魔術が多いけど、殴り合いでは強い魔術があまり多くない。だから彼女を一人残すのは危ないかもしれない、とも考える。もし相手が、一気にBサイトに流れ込んできたら? だけどまあ、結界は彼女を守ってくれるし、私が合流さえできれば、敵が何人いようとも押しきれる。相手が足踏みしてこのままマリが感知範囲を広げていけば、それでも自然と勝ちになる。
そうして所定の位置でうちらは待機していた。
防衛方針が決まったら、あとは待機戦術で勝てる。
**
「来た!!」
ドーンっと断続的な爆発音。
音の在り処はBサイト方面。相手はすぐに襲撃してきた。私達に準備させないために即座に体勢を整えて襲撃してきたのだろう。
(思ったより早い)
私は焦ってトランシーバーを握る。
「客員情報知らせ」
「Bサイト、魔力反応複数、爆発で視界が取れません。結界は損傷軽微」
「Aサイト見えません」
(Bサイトか、爆破、これはジンジャーの魔術だな。じゃあBサイトか)
複数の反応で、まっすぐ結界の突破、Bサイトへの正面攻撃と見て間違いない。ならば、やるべきことはたった一つ。
「客員即座にAでの防衛を放棄して、Bサイトに合流されたい」
「「了解!!」」
ざざっとノイズが混じって、会話が途切れる。こんなに早くに襲撃できるというのは、統制が取りやすいだろうコゼットか、それともメリナがリーダーを張って各個突撃をやってるのか、
(どっちだ?)
走りながら考える。
だけど、なんとなくそれがコゼットなんだと思った。確証はない。ただ期待しているだけなのかもしれない。
「ちょっと待って!!」
サンドラからの通信が入る。緊迫した声色が耳に刺さる。
「どうしたの?」
「音がした。矢の音と、足音だ」
矢? くそ、完全に揺さぶられてる。どっちが本命だ! コゼット、あんたは、何を考えてる!?
「Aサイトの二人は一回その場でストップ。私がBサイトに合流して、メリナとルナの二人を視認してから二人を動かす」
「「了解」」
「Bサイト、ジンジャーさんを視認しました。加えて四方から複数の魔力反応がこちらに向かってきます!!」
緊迫した声色。
なのでBサイトに人を送ってくれということだろう。だがそれは出来ない。ルナがデコイを動かせるからだ。どうやったらデコイを四方に展開できるかは、ちょっと思いつかないが。
それよりも気になることがある。マリの声が焦っていたのだ。Bサイトでは断続的な爆発音がして、嫌な予感が膨れ上がる。
ドーンとその瞬間、Bサイト内で巨大な爆発がした。地面が大きく揺れる。思ったより爆発音が大きい。ピンクの煙がここから見えるほど立ち上っている。
ジンジャーの魔術を甘く見ていた。その事実を突きつけられて、動揺した。
「大丈夫? マリ? 応答して!!」
「すみません、結界を破られました」
「は? 早すぎるっ! 今すぐ合流するから!!」
一気に飛び出してBサイト内に向かった。
Bサイト内に入ると、大規模な魔力の反応を感じる。硝煙を纏った魔力の奔流。
サイケな煙がモクモクと立ち上がって、マリがその場で倒れていた。そしてその傍らに、
「あれ、クロエさんBサイトだったんですね」
ジンジャーがその場に立っていた。その姿にはマリが応戦した跡があり、ジンジャーの腰に光る術壁感知機が黄色になっている。
「クロエさんが居なければクリスタルとっておしまいだったのに」
本当にそうだ。あぶない、私がBをマリに任せきりにして、完全にAにいたら即負けか。
「そしたら、こぜっと・おんふれは、私にすっごく感謝したはずなんだけどなあ」
煙の中で、彼女の眼光が光る。
「でも、ここで、あなたを倒せばいいだけですもんね」
「やれるもんならやってみな」
戦闘でアドレナリンが出てるのか、ジンジャーはいつもよりちょっと舌が回っていた。目もギラついていて、即座に彼女の本質を悟る。
彼女の経歴、その目の奥にあるもの、相手と向き合う姿勢。それが導く結論は、
つまり、戦闘狂だ。
あの小さな体に、身に余る凶暴さを隠し持っていたんだ、あいつは。
そのときザザザっと通信が入る。
「Aサイトに複数人来た。こっちが本命みたい!!!」
「応戦して」
「「了解」」
ふた手に分けていたのか。たしかにどっちかがクリスタルを引っ張れば勝ちだから、それが最善なんだと、少なくとも相手チームはそう考えたわけだ。
とにかく今は目の前のコイツに勝たないといけない。魔術を起動する、白刃のように冷たい、氷の魔術。私が持つ、才能の結晶。
コゼット、待ってて。今そっちに向かうから。
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