第17話 ギルド結成(悩んだ末に)

「こんばんブラック」


 夜空が見える山、深夜でもない少しだけ夜(19時過ぎ)、俺は、配信を開始した。

 今日は、重大発表があるからだ。


 ”こんばんブラック!”

 ”通知予告見ました”

 ”楽しみすぎる”

 ”名前は、名前は!?”

 ”仲間は? もしかして……”

 ”ギルド、ギルド!”

 ”くぅー! マジで楽しみすぎる”

 ”こんばんブラック!”


 事前予約を取っていたので、既に内容は知ってくれているらしい。

 ちなみに――。


「こんばんブラックです!」

「こんブラー!」


 美琴と風華さんも一緒だ。

 同じような黒い服を着ている。


 ちなみに日が落ちるまで一緒にファミレスにいた(黒羽黒斗として)。


『じゃあ、そ、そろそろ家に帰らなきゃ』

『あ、そうなの? じゃあ、私たちもいこっか』

『そうだね、美琴さん』


 そして今である。

 この変わり身に疲れてきたが、二人を悲しませないためだ。


 と、今はそんなことよりも――。


「告知していた通り。ブラックのギルドが決定した」


 ”うわああああ、どこですか!?”

 ”光の勇者? 血塗られた妖精?”

 ”世界に認知されてしまう”

 ”既にされてきてるw”

 ”あれ、でも二人がいるってことは?”


 既に分かっている人もいたので、もったいぶる必要はないだろう。


「ギルドは、この三人・・を初期メンバーとする。そして俺たちは――Sランクを目指す。それも、最速でだ」


 ”うわあああああああw やべええええ”

 ”Sランク!?!?!?”

 ”興奮してきた”

 ”つまりこれからはギルドでの配信もあるってことか”

 ”こんなの大人気になっちまうよ”

 ”初期メンバーって?”


 探索者にはポイントがあり、それは個人とギルドで分かれている。

 個人でのポイントはギルドポイントに反映されるので、多ければ多いほどランクは上がりやすい。

 また、ランクが上がるとそ様々な恩恵が受けられる。

 ランキングシステムは、世界共通ので、初めてSを到達したチームは100人以上で、それでも五年はかかったらしい。

 だが俺――ブラックはそれを塗り替えるつもりだ。


 しかしそれは、俺だけじゃない。

 まずは、美琴が前に出る。


「私は、とある人に尊敬されたいんです。その想いは誰にも負けない。だから、頑張ります!」


 ということらしい。結局誰かは教えてくれなかったが、その人の為に頑張りたいという。

 そして――。


「風華、頑張ります! 私は配信でもいつも言っていますが、人気者になりたいんです! もちろん、ちょっとあれ・・もほしいけど! あ、事務所には伝えているので問題ありません!」


 風華さんは、人気配信者なのだが、いつもお金が欲しいといっている。

 そういう隠さないところも人気の秘訣だ。

 ちなみにその理由は明かされていない。


 ”とある人って誰だああああ”

 ”ワイの美琴ちゃんが”

 ”応援する”

 ”個人勢の風華ちゃんがギルドに! これはニュースになるね”

 ”絶対お金wwwww でもそこが好きw”

 ”事務所も嬉しいだろうな。ブラックがリーダーだと”

 ”つうか、これマジで伝説だろ”

 ”可愛くて優秀な美琴ちゃん、既に人気者で稀有な光魔法を使う風華ちゃん、そして唯一無二の唯我独尊、我らがブラック様”

 ”すげえ楽しみ”

 ”肝心なことを聞いてませんが!”

 ”名前は?”


 視聴者が、俺たちギルドの名前を待ってくれている。


 美琴と風華は、俺に任せると言ってくれた。

 すぐさま、中二の頃から書き続けていたブラック中二病ノートを引っ張り出し、ああでもない、こうでもないと悩んだ。


 色々点数をつけ、そしてようやく決めた。

 ちなみにまだ二人には伝えていないので、サプライズだ。

 とても喜ぶだろう。


 咳払いをして、俺は、ハッキリと言い放つ。


「――今日から俺たちは『†漆黒の堕天使†』と名乗る。よろしくブラックだ」


 ふ、久しぶりにかっこつけてしまった。

 相変わらずいいネーミングだ。

 これには配信も人気になるだろう。


 二人に視線を向けると、とてもいい顔――あれ?


 なんか、ドン引きじゃない?


 ”ブラック様それはwwwwwwww”

 ”クソワロタw”

 ”いやわかる、わかるよ”

 ”ブラックのネーミングセンスはF”

 ”中二病すぎるだろww”

 ”こ れ は wwwwwwww”


「ブラックさん、さすがに……」

「ブラック様、それは……」

「なぜだ? カッコイイだろう?」


 しかし二人は全くわかってくれない。

 くっ、ギルド崩壊が、こんなにも早いとは……。


 しかしまだ申請はしていない。一応、変えられることは変えられるが……。


「十字架は消したくないんだ、わかるだろ?」

「何の意味があるんですか?」


 美琴の冷静なツッコミで心が抉られる。

 

 コメントは鬼のように流れている。

 もはや見る勇気はない。


「そ、そんなに嫌か?」

「私はちょっと……」

「同じく」

「ふむ」


 そこで、チラリと配信に目を向ける。


 ”草wwwwww”

 ”女子受けゼロすぎる”

 ”かわいそカワイイww”


 ダメだ。


「……わかったブラック」


 ”聞き分けいいwwwww”

 ”かわいすぎる”

 ”しょんぼりブラック”

 ”あわてるな、まだこれからだ”


 翌日、俺たちは再び同じ場所で配信を始めた。


 もちろん、二人には伝えていない。

 今回は、ガチだ。


「ギルド名は、黄昏トワイライト黙示録アポカリプス創世記ジェネシス竜騎兵ドラグーンに決定した」


 寝不足になるほど考えたのだ。

 これで喜ばない奴ははいないだろう。


 そう俺はブラック、さすがだ。

 二人に視線を向け――。


「風華ちゃん、一緒に考えよっか?」

「そうですね。ブラック様、それでいいですか?」

「え?」


 ”相手にされてないブラックw”

 ”二日続けておもしろすぎるだろ”

 ”これは伝説のはじまりです”

 ”ネーミングセンスwww”


 よくわからない。

 なぜダメなんだろうか。


 そして翌々日。


「じゃあ、風華ちゃんこれでいいかな?」

「そうだね。ね、ブラック様」

「あ、あの、時間周遊タイムパラドックス黒闇ブラックシャドウとかは……」


 その瞬間、二人から初めて睨まれた。


 ギルドは調和が大切だと聞く。

 たとえ仲良くしていても、何かのきっかけで崩壊すると。


 基本的に損をするのはリーダーだ。

 仕方ない。これは折れよう。


「わ、わかったブラック。もう言わない」


「ありがとう、ブラックさん」

「ブラック様、ありがとう!」

「うむ、いいだろう」


 ”お、ついに決定か”

 ”長かったなw”

 ”楽しみw”



「「では、私たちは『ブラックと愉快な仲間たちに』決定しました!」」


 ”な、何とも言えねえ”

 ”こ、これでいいのか?” 

 ”う、うーん?”

 ”な、なんだろうね”


「これでいですよね? ブラックさん」

「ですよね。ブラック様」

「は、はい」


 女子の圧が強い。

 コメントも怖がっているのか、肯定も否定もなかった。

 

 俺も納得はいなかったが、結局押し切られてしまう。


「せめて十字架だけ――」

「ダメブラック」

「ダメですブラック」

「はい」


 申請をして返事を待っていたのだが、俺の元にメールは、なんと既に使われていますと書かれていた。

 二人に連絡を取ってみたが、数時間以内に決定してくださいと。

 時間ぎりぎりまで返事を待ったが連絡はこず、俺は1人で決めた。


「……仕方ない」


 後日、怯えた二人の顔を見ながら、俺は震えていた。

 失敗したら、即初期メンバーが消えてしまう。


「え、ダメだったんですか?」

「名前は何にしたんです?」


 もしそうなったら音楽性の違いみたいな感じで書くしかないだろう。

 スピード崩壊とネットで書かれるかもしれない。


 炎上はこわい。


 俺は、おそるおそる伝えた。


「ブラックシュヴァルツ……」


 目は瞑っていた。見るのが怖いからだ。

 だが返事がない。ゆっくりと目を開けると――。


「なるほど、ドイツ語で黒黒にしたんですか。いいですね! カッコイイと思います!」

「ブラックと、後、私たちがシュヴァルツってことですね。いいかもしれません!」

「そ、そうか!」


 良かった。ありがとうシュヴァルツ。ありがとう俺たちのドイツ語。


 ちなみに配信で伝えたら好評だった。

 最高だ。嬉しすぎる。


 ありがブラック!


 その日から俺たちはポイントを稼ぐ為にダンジョンへ向かった。

 簡単なものから、高難易度と呼ばれるダンジョンも。


 そして数週間でランキングを駆けあがり、俺たちは世界最速でCランク辿り着き、驚いたことにAhooトップニュースに乗ったのだった。



 

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