第5話 うっかり呪術を披露しすぎてしまう

「こ……こんばんブラックだ」


 近くのダンジョンに入場し、服を着替えてスマホをセット。


 今は空中に呪力を使って、空中停止で浮かしている。

 いつもの黒いコートをばさり。

 

 だが俺の声は震えている。


 その理由は単純明快、見たこともない数の同時接続者数、30万人と書かれているからだ。

 いや、数字がどんどんと増えていっている。


 ”ブラック様キター”

 ”こんばんブラック!”

 ”まだ昼だけどこんばんはww”

 ”相変わらずカワイイ”


 か、かわいい……?

 かっこいいならまだしも、どこにカワイイ要素が……。


「可愛くはない。けど、ありがとな」


 ”反応してくれたw”

 ”コメントを読み上げてくれる神”


 それからずっと嬉しくてコメントを読み上げていたら、丁寧すぎるから大丈夫と言われた。

 む、難しい。


 だが嬉しいのも無理はないだろう。

 今までずっと一人で頑張っていたのだ。なのに今は大勢に見てもらえている。


 ただの偶然とはいえ、この奇跡をものにしないとな。


 みんなに楽しんでもらえるような配信を心がける、これは基本だ。

 と、初心者サイトにも書いていた。


 ”ブラックどうした”

 ”もしかして固まってる?”

 ”ブラック様?”

 

 いかん、考え事をすると止まってしまう悪い癖だ。

 今日は、能力を披露すると決めていた。


「問題ない。今日は俺の呪術を紹介しようと思う」


 能力を明かすのは本来良しとされていない。

 その理由は、探索者同士でもめたり、それ以外でも問題ごとがあったりするからだ。


 だが俺は第一に視聴者のことを考えたい。

 楽しんでもらいたいのだ。


 ”楽しみすぐる”

 ”カウントダウン! カウントダウン!”

 ”ブラック様サービス旺盛”


 しかし……地味な能力ばかりだ。

 楽しんでもらえるかはわからないが、できること全てをしないと、すぐに登録解除されるだろう。


 がんばブラック!


 俺はまず、道を進んで分かれ道で【あみだくじ】の能力を見せた。

 黒い糸が広がっていく。


 これには呪力の探索がついているので、罠とかもわかるのだ。


 ”……え?”

 ”罠って、専門の能力者でも見抜くの大変なんでしょ?”

 ”いや、そもそも看破能力も稀有だよ。普通は罠の存在はかからないと不可能”

 ”あみだくじって何本まだ出せるの?”


「今は十本だ。それ以上の道に出会ったことがないのでわからないがな」


 ”ブラック様!?”

 ”これ能力の一つなんでしょ?”

 ”ヤバすぎんだけど”

 ”これ一本で世界変えれるよ”


 ただ手から黒い呪力が出るだけの地味な能力だが、随分と喜んでくれている。

 ありがたい。新人には優しいと聞いたことはあるが、いい世界だ。

  

 流石、風華さんの視聴者さんたちだ。


 と思っていたら――。


 君内風華”ふふふ、凄すぎですよ”

 

 目を疑う文字が見える。

 その横には、公式のマークがついていた。


 人気すぎて偽物と間違えられないようにする特別なものだ。

 

 もちろんそれに、大勢が反応する。


 ”え、まじもんじゃんw”

 ”風華ちゃんきちぁあああああああ”

 ”マジwwww”

 ”ほらブラック様やばすぎだってw”


「あ、え、あ、――ありがとう風華」


 驚いてしまって思わずいつものようにブラック語(タメ口)で話してしまう。


 これはさすがに偉そうになってしまった。


 炎上――。

 

 ”君内風華に対してもブレないブラックかっこよすぎ”

 ”媚びないブラックに惚れた”

 ”これが、男ブラック”

 ”俺もありがとう風華、とかいいてえ”

 ”風華の株、急上昇”


 いや、どうやら大丈夫らしい。

 助かブラック……。


 君内風華”騒がせてごめんなさい。静かにみておきますね”


 ”カワイスギワロタ”

 ”俺たち今風華ちゃんと同じ空気吸ってる?”

 ”お前は四畳半のアパートで風華ちゃんは豪邸だけど”

 ”心は一つ!”


 嬉しいが、喜びすぎてもよくない。

 動画は続けよう。


「では、次の呪術を紹介しよう。ちょっと分かりやすくするために、釣り・・をするか」


 そして俺は、そのまま真っ直ぐにかけた。


 ”え!?”

 ”ブ、ブラック!?”

 ”あ、あかーん!”


 ダンジョンの基本は【おかし】だ。


 追(お)いかけない。

 駆(か)けない。

 死(し)なない。


 最後はまあ当たり前すぎるが、逃げた魔物の止めを差すのも危険とされている。

 その先に大勢がいたりするし、罠も避けられないからだ。


 何より一番ヤバイのは、駆けない。


 魔物は人間を見つけたら追いかけてくる。魔物によっては永遠と。


 そして罠もある。だからこそこの二つは基本だ。


 まあ、俺にはあまり関係ないが。


 ”え、なにしてんの!?”

 ”ブラック様、魔物が凄いことになってますけど!?”

 ”え、、え、え、え、えどいうこと”

 ”大名行列すぎるだろ。ヤバすぎ”


 この時間、誰もいないことは確認済みだ。

 後ろには、わらわらと魔物が追いかけてきている


 昔、こういうジャンケンの催し物があったな。

 勝てば後ろについて、ムカデみたいに行進する奴だ。


 めちゃくちゃおもしろいのに、大人になるとやる機会ゼロなんだよな。


 ふふふと思い出し、笑えてきた。


 ”こいつ、笑ってやがる……”

 ”ブラック様、ヤバすぎ”

 ”これが、ブラックの本性”

 ”魔物なんて、ブラックにしたらただの雑草なのか?”


 君内風華”素敵”


 読み上げボットがなぜか「うはあああああああ」だらけになっている。

 誰かが何か言ったのだろうか?


 魔物の声で聞こえなかった。

 俺としたことがいかん。気を付けよう。


 そして大きな部屋に到着。

 魔物が大勢ついてきている。大体百体くらいだろうか?


「さて、いきます。――陰陽五行いんようごぎょう


 俺の呪術は、歴史に基づいている。

 色々なまじないや陰陽術、仙術、方術、それがひとくくりになっている感じだ。


 地面に手を翳すと、黒と白の模様が広がって、ぐるぐると回転しはじめた。


 俺が持っている呪術の中でもできるだけ派手なのを選んだ。


 ”なにこれなにこれ”

 ”こんなデカい陣初めて見た”

 ”なんか、魔物の様子がおかしくない?”

 ”よわって……る?”


「これは、敵対象にを与えてる。そしてその分、俺に加護を与える技だ。魔法抵抗力、防御力、攻撃力、免疫力、全てが低下、そしてそのすべてが俺に付与される」


 敵が多ければ多いほど有利になる技だ。

 あんまり使うことはないが、まあ使い勝手はいい。


 なんかコメントがとまった?

 ラグかな?


 あちゃー、これも地味だったか。


「さて、とどめいきます」


 次の瞬間、俺は【刀印】右手と人差し指をピンと立て、全魔物に呪いを付与――【金縛り】を与えた。

 対象の動きを固める技だ。


 最後に【死の宣告】。

 弱っているからだろう。秒数がほぼ全員10秒だった。


 静かに読み上げる。


「5-4-3-2-1-0――」


 同時に倒れ、轟音が響いた。

 あまりのうるささに俺も驚く。


 配信のみんなもびっくりしたかもしれない。


 音がデカいとうざいと思われ、登録者も解除されるかもしれない。

  

 やってしまった……。


「ま、こんなもんだ」


 だがかっこつけなければ……。

 その時、通知が――一気に鳴り響いた。


 ”え、ええええええええええええええ”

 ”おいおい何だよ今のコンボ!?”

 ”え、なにこれどうやったの!?”

 ”手順もそうだけど、呪力量どれだけあるんだ?”

 ”ブラック様凄すぎるだろwwwwwww”

 ”奇跡の動画だろ”

 ”なんだこれ、ブラックヤバすぎね?”



 ……良かった。


 どうやら音について言及されていないらしい。


 だが流石の俺も呪力を使いすぎたかもしれない。

 少しだけ疲れた。今日はこのくらいでいいか。


 みんな優しいな。こんな地味な配信を見てくれるなんて。


「ありがとう。みんなが見てくれるからこそ、俺は頑張れた」


 ”献身ブラック”

 ”飴と鞭すぎる”

 ”正直惚れた”

 ”ブラック様かっこよすぎ”

 ”ありがブラック”


 丁寧に感謝を伝え(ブラックっぽく)配信を閉じる。

 最後に配信接続数70万人878人と書いてたような気がするが、多分見間違いだろう。


 

 その日、寝る前にニュースを開いたのだが、君内風華の今一押しはブラック。

 という文言が見えた。


「――ブラックコーヒー飲めるのか。すげえな、大人だな」


 人気配信者でキレイで、更に丁寧にお礼まで言う。


 すごいな、でももし俺がブラックだとわかったら落ち込むだろうな。


 ……夢を壊さないでおこう。


 そう思うながら、眠りについた。



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