佐喰莉子は暴れたい!〜ゾンビ殺ったら大学推薦〜
白神天稀
第1話 ゾンビ推薦がほしいので!
「校長せんせぇー、ゾンビ推薦ちょーだい!」
女子高生、
「うむ、書類も完璧だ。推薦生として承認しよう。おめでとう佐喰さん」
「やったぁぁぁ! くぅっ、ありがとーございまぁす! 校長だーいすきっ」
「はっはっは、ハグはやめなさい。いやマジ、絵面がパパ活だからさ」
横に立つ担任はキャッキャとはしゃぐ彼女を校長から引き剥がす。
「推薦生になっても生活は規則正しくな? 他の生徒は普通の学校生活送ってると意識して……」
「分かってるって先生~。じゃ、行ってきますっ!」
適当な返事で莉子は書類をまとめ、校長室から飛び出した。どさくさ紛れに校長のヅラを毟り取って。
※
「やっぱ午前中に早退出来た時ってワクワクするよねぇ~。んっ、このアイスおいひっ」
担任の言いつけを一時間足らずで莉子は破る。
短いスカートはナイフ仕込み。スクールバックはお菓子と手榴弾でギチギチで、スタンガンもぶら下がっている。ド派手なピンクの髪を揺らし、ご機嫌に大通りを歩く。
「うグ、オガォ……」
道なりに進んだその先に――ゾンビがいた。
無駄に大きなブランドロゴのシャツにピチピチのジーンズを履き、チェーンアクセサリーを巻き付けたゾンビ。外見は二十代の男だが、頬は紫色で垂れさがっている。
ゾンビは百数十メートル先の莉子と目が合う。
「ん、ゾンビだ。そういえば教科書ってもう捨てちゃって良いっけ? 重くて邪魔だし良いよね~」
莉子はゾンビを意に介さない。
アイスを食べ終えると、上機嫌にスキップし始める。
「ヴ、うヴヴぅ、うぐォ……」
ゾンビは走り出す。
よだれをまき散らし、莉子の前へ急接近。
「これで赤点気にしなくて良くなったし、お父さんも喜ぶだろうなぁ」
「うアがぁぁァァァ!」
「推薦っ、推薦っ、勉強パスぅ――ひゃほォォォォォォい!!」
「ごヴ――――」
勢い任せに彼女は右腕を振り下ろす。
その手がゾンビの頭部をもぎ取るまで、一秒もかからなかった。
「やっぱ直接摂取してたみたいだね~。体脆くなってたし」
首なしゾンビの胴体は痙攣しながら地面に倒れる。
莉子が掴んだ頭は握力で既に潰れかけている。
「おグォ?」
「ナ、ダぁアぁぁぁ」
「アバぁぁぁォォォォォォォ!」
騒ぎに気付いた同じストリート系ゾンビが彼女の元へ四体、五体、六体と向かってくる。
「無駄に群れてるなぁ~。人口密度もピチピチズボンも窮屈じゃないのかな?」
それでも莉子はのほほんと、ビル壁面のモニター看板に映るワイドショーを眺めた。
『――危険ドラッグ「ReF-0811」。通称「オハピッピ」が世界で蔓延してもう二十年ですね』
『早いっすよね~。薬物摂取したヤツの唾液とか吐息でも感染するって聞いた当時はビビりましたよ』
『先日のサミットでもありましたが――まさか主要国家の三分の一が消滅するまでになるとは』
『トイレ出ても手ぇ洗わない国とか消滅早かったでしょ? ハッハハ』
『はは……ま、まあ日本は衛生環境と多湿気候、高度な医療技術がゾンビ対策に有利だったのは事実ですね』
女性司会者は中年コメンテーターにイラついていた。
「治安も良くて薬中も少ないからねぇ。ま、不良やアングラ系は普通にオハピッピやってるケド」
視線はモニターに固定し、莉子はマンホールの蓋を剥がして手に持った。
「後腐れなくて助かるよねぇ~」
「ヴォガァァ!」
彼女は即座にその蓋でゾンビの頭を潰す。ノールックだ。
先頭ゾンビの頭蓋を粉砕し、蓋を勢いのまま振り回して二体目、三体目と吹き飛ばす。骨を砕く音は晴れた空によく響く。
ゾンビを弾き切る間際、腐った爪が莉子の腕を掻く。
「ん、引っ掻かれちゃった。キズナオール塗っとこ」
爪で掻かれた腕は一瞬でカビのようなウイルスが現れる。
だが塗り薬に触れると、カビは瞬く間にシュワシュワと消える。カサブタや跡も残らず治った。
『ワクチンの早期発見に、ゾンビ化を治す技術。ゾンビを利用した再生医療も発展しました。それが今日まで日本が社会を維持できた秘訣でしょう』
「司会のお姉さんの言う通りだなぁ……じゃ、そろそろお楽しみ行きますか~」
残るゾンビは直線上に四体まとまっていた。
「リッコちゃん、投げまぁーす!」
ショッキングピンクの長い後ろ髪が躍動する。
ふわりと髪が舞う間に、マンホール蓋は綺麗な直線を描いて投げられた。
次の瞬間には、ゾンビの頭で肉の花火が弾ける。四体はドミノ倒しで転がった。
「ストラーイクっ!」
一方ワイドショーは中年コメンテーターがコンプラ発言でスタジオを凍らせ続ける。
『いやぁ日本もすっかり軍事国家になっちゃいましたねー』
『ぐ、軍事国家という表現は、やや語弊があるかもしれませんが……』
『でも実際そうでしょ? ゾンビ用って言っても銃とか武器作りまくってるし、基地や要塞増えたし』
『大国の軍備縮小とゾンビ対策の結果が相対的に……』
『自衛隊も民間もゾンビ化の
『このジジイ! さっきからコンプラ発言すんなや! また放送事故で切り抜かれんだろうがこの※※※※な※※※!』
『わわ、落ち着いて!? い、いったんCM!』
乱闘騒ぎを鑑賞しつつ、莉子は路駐の二トントラックを見つけて乗り込む。運良くエンジンもかかっていた。
「あっはは、また放送事故だ。そろそろあのオジサン干されそうだなぁ」
無免許娘はよそ見運転までして、歩道の死体をトラックで轢いた。その上前後に動いて念入りに轢く。
「て、てめぇ仲間になんてことを!」
それを見た一人の量産型ストリートが驚愕に吠える。手には刃物と注射器を持って。
「んんっ、また同じタイプの服……だけどゾンビじゃない」
「正気じゃねぇ、許せねぇよ……俺のダチを、てめぇ!」
「ゾンビ推薦生でーす。お友達、自分でおクスリやってたでしょ? トーバツタイショー!」
「かたき討ちだクソがァァァァァァ!」
頭に血が上った不良はナイフを構えて突撃した。
「う~ん、困ったなぁ。一応は公務執行妨害的なのヤツだけど、ゾンビと違って対人は手続きが……」
彼女は悩んだ。三秒ほど。
「いっか、ゾンビってことで!」
結果、アクセルを踏み込んだ。
「――は?」
「薬持ってるし、四捨五入でゾンビ!」
トラックは衝突した不良を真上に弾き飛ばした。
「いぎゃああアアアアァァァァァァァァァァ!?」
ドゴッ、と鈍い音を最後に悲鳴は途絶えるが、莉子は構わず洗車場までトラックを走らせる。
額の血と汗を拭い、一仕事終えた莉子はニパッと笑っていた。
「やっぱゾンビ推薦、取って良かったぁー!」
――特定感染者討伐式推薦。
通称、『ゾンビ推薦』。
推薦生は学力や経済状況を問わず、志望大学へ入学できるのである。
だがこの制度は単純な大学推薦には終わらない。
「最初はお父さんにコース選んでもらおっかな~。マイホームか、税金免除か、迷うなぁ」
優遇措置。
所得税、住民税の緩和。住宅提供や食料支援まで……あらゆる恩恵が貢献度に応じて支給される。
――単純な話、ゾンビを殺すほど得をする社会なのだ。
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