第4話 パパ、ミルクをあげる
よし、これで完璧。
「はいはい、ご飯ですよー!」
「ギャー! ンギャー!! ンッパクッ」
よし、ちゃんと咥えてくれた。
おー、いい飲みっぷりだ。
人工乳頭でもちゃんと飲んでくれてよかった。合わない子は嫌がってしまうからな。
結局、哺乳瓶を1800BPで入手してミルクを再度購入。先程の購入時には見落としていたが、ミルクの購入ページでオプションを選ぶと、生成する場所の指定が出来た。なんとなく「哺乳瓶の中に決まっとるやろがい!!」とツッコんだら自動的に哺乳瓶の中が設定された。
どうやら死後の世界は近未来だったようです。だとしたらこのスワイプとかクリックもどうにかして欲しいものだが……
『思考で操作可能ですよ?』
出来るんかいっ!! 先に教えてよ!!
『聞かれませんでしたから。それと、手動操作という古い考え方では動かすことは出来ません』
え? でもさっきまでは指で操作してましたけれども……
『指の動きに合わせて私の方で操作させて頂きました。フォローとしては完璧かと思われますが……』
おいおい詐欺師さん。いや、神様?
それは言っちゃいけないやつだろうってば!!
リテラシーがぁぁ。とか口走ってしまった手前、フォロー分も相まって落ちに落ちちゃうでしょうが!
『…………付近に穴はない為、落ちませんが?』
物理じゃなくて心理だよ!!
もういい……とにかく思考で操作出来るということだな。
試しに「森羅マーケット」と脳内で唱えてみると、先程と同じウィンドウが目の前に浮かんできた。実際には恥じらいから「し、し、森羅マーケット……」的なニュアンスになってしまったのは仕方ないことだろう。しっかり四十歳目前のおっさんなのだ。
続いて画面をスクロールで動かすイメージをする。お、画面が動いた。
これは便利だな。
基本的に授乳中は両手が塞がっているから何も出来ない。もちろん一生懸命ミルクを飲む赤ちゃんを見ながら愛情を注ぐのも大事なのでそれでもいいのだが、育児はミルクをあげるだけでは終わらない。やるべき事が山程あるから色々と準備が必要なのだ。
まずは、赤ちゃん用品を探す。
今後どう動くにせよ、この子をこのままにしておく訳にはいかない。清潔なおむつと肌着、それにお包みか。トイレをしたとき用にお尻拭きなどもいるな。あと、荷物を運ぶリュックに念のため育児の本。経験があるとはいえ十数年も前の話だ。生前だが。
とりあえず、し、森羅マーケットを漁りながら最低限必要そうな物をカートに入れていく。カート機能まで備わっているなんて至れり尽くせりだな。
最後にカートのページへ移動し、合計の金額を確認すしてみれば——
「……25,000BPね。全然足らんっ!!」
おっと、思わず口に出してしまった。
先程、哺乳瓶とミルクを2回購入したので所持BPは既に8000BP弱しか残っていない。これは由々しき事態……死後の世界ではまだ無職なんです。
『BPの獲得方法についてお聞きになりますか?」
いよっ!! 待ってました!! それが聞きたかったわけよ神様、仏様!
『BPはありとあらゆる物から変換することが出来ます。実際の獲得方法は、「万象ゾーン」と唱えることで出現する万象ゾーンに変換対象の物を入れて頂ければ、その物に応じた額のBPを付与致します』
くっ……またわけのわからないことを……
落ち着け。落ち着いて脳内で整理すればわかるはずだっ!!
まず、ば、万象ゾーンとかいうものがあって、それが換金所みたいな役割をしていて……なんでもいいから万象ゾーンとかいうのに入れればいいんだな!? ふはっ!! 天才か!
とりあえず実践あるのみ!
えっと……ば、万象ゾーン。
くっ!! やはり慣れない……が、どうやら成功したらしい。手が届きそうな距離に黒く渦巻く何かが出現した。"何か"と曖昧な表現になってしまうのは、見たこともない不思議な光景だからだ。そんな語彙力は持ち合わせていない。
っと、赤ちゃんがミルクを飲み終えたようだ。
BPの獲得は後で試してみるとして、とりあえず必要最低限から更に必要最低限な物を選んで買おう。
◆ ◆ ◆ ◆
よしっ。完璧!
取り急ぎ仕入れたのは、身体を拭く用のガーゼ一枚に、赤ちゃんを寝かせる用の清潔なバスタオル、簡易的な桶、それにぬるま湯と肌着、お包み、赤ちゃん用の綿棒二本と小分けになってるボディクリーム、それとオムツだ。
よくよく考えたらいつでも森羅マーケットで買い物が出来るので、バックなどで持ち歩く必要がないことに気付いた。しかも、水は温度を設定して入手出来る。これは便利だ。わざわざお湯を沸かす必要がないからな。
これで赤ちゃんを清潔にしてあげることが出来る。
バスタオルを敷いて赤ちゃんを寝かせ、ぬるま湯にガーゼを浸して軽く絞る。本来であればタオルとガーゼは一度洗いたいところだが仕方ない。
湿ったガーゼで全身を拭き、全部拭いたらボディクリームを塗ってあげる。沐浴をしてあげたいところだが、こんな森の中でゆっくりしているのも良くない気がする。沐浴は安全な場所に移動できてからだな。
体が綺麗になったらオムツを履かせ、綿棒でおへそや耳、鼻などの細かい部分を綺麗にして、最後に肌着を着せてお包みで包んであげれば完了だ。
体の不快感がなくなったせいか、お腹が一杯になって一安心したのか、抱き上げる頃にはスヤスヤと寝息を立てていた。まぁ二時間後には泣いて起きるだろうけどな。この頃の赤ちゃんは三から五時間おきにミルクをあげる必要がある。
そうだ、簡易的な抱っこ紐も仕入れておこう。こうすれば色々作業しながら赤ちゃんを抱いていられる。首が座ってないから新生児用の物がいいだろう。
ここまでして残りのBPは本当に残りわずかとなってしまった。
まずい……このままでは次のミルクが危うい。育児は何かとお金がかかるのだ。万象ポイントだけど。
抱っこ紐をセットして赤ちゃんを抱きかかえる。うん。抱っこ紐でも起きずによく寝てくれている。意外と起きちゃったりするんだよな。
ひとまず両手も空いて動けるようになったことだし、このままBPの獲得を試してみるか。
ば、万象……ゾーン。
先程と同じ黒い渦が出現した。ここに物を入れれば何でもポイントになるんだよな? ひとまず……この地面に生えてる草でいいか。えぇぇぇい!! シュートぉぉぉぉ!!
地面に生えている雑草を無造作に手に取り、黒い渦へ投げ込む。
『万象ゾーンの利用を確認。識別しました。ゴミ、1BPを付与致します』
ゴミて……そうだけども……悪意あるなぁ。それに1BPか。労働は……甘くない。まぁBPの獲得方法がわかっただけで良しとしよう。
さて、そろそろこれからについて考えなきゃな。
まず、この子の親を探すかどうかだが……捨てた以上名乗り出ない可能性も高いし、子供を捨てるような親に返すのもどうかと思う。この死後の世界の法律はどうなのか知らないが巡り会えたからには、返すにせよどこかの施設に預けるにせよ、その時まで責任を持ちたい。
であれば情報収集だが、そのためには人を探さなければならない。だが、ここは見知らぬ森だ。どこに行けば人に会えるのかもわからない。そもそも……人なんているのか?
『近隣の村までのマップをお求めですか?』
あるのっ!? 流石だな!! 森羅マーケット様様だ!! よし、それじゃ地図を貰ってもいいか?
『5000BPになります』
…………え、えっと
『5000BPになります』
…………
ちくしょぉぉぉぉう!!! そんなことだろうと思ったよ!!
俺はひたすら雑草を抜きまくった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます