第17話 材料集め2

「所長さーん! いっぱいとれました!」


 カバンをもってヒルラ草を引っこぬいていた所長さんに駆けよる。


「おー。どれどれ? おお、ほんとにいっぱいとれたなぁ。よしよしがんばったね」

「へ、へへ。でも本当はクロウがとってくれたんです。わたしはカバンに詰めただけで」


 ほめられてうれしいけど、手がらの横取りはだめだもんね。


「リディルちゃんもとってたでしょ? どっちもえらいえらい」


 カーッと顔があつくなって、うつむいて髪を引っ張ってごまかす。ぜったい今、顔赤くなってる!


「ヒルラ草はオーケーかな。それじゃ、次にいこうか」

「はい!」


 回復薬をつくるには、ヒルラ草、ろ過された天然の水、アメーリアの花の蜜、カナデの樹液に、不夜鳥ふやどりの羽根が必要みたい。けっこう多い!


 このなかでも、不夜鳥の羽根を手に入れるのがむずかしいんだって。

 七色の羽根をしてるから目立つみたいだけど、会えるかどうかは運みたい。しかも暗くなると絶対に姿を見せないから、夜は不可ってことで、不夜鳥なんて名前がつけられたらしい。納得するようなそうでもないような。

 この不夜鳥、何日も森にいって、ようやく見つける、なんてこともあるんだって。

 でもでも、それじゃ困るよ!

 回復薬がないと、あの男の人は治らないと思うし、命の危機みたいだからできたらはやくもっていってあげたい。どうか見つけられますように!



 少しずつ奥に入っていく所長さんのうしろを、必死についていく。

 草がいっぱいで足もとが見えない。大きな石があるのに気づかなくて転びそうになったり、木の根っこに引っかかったり、思ってたよりもすっごく大変!

 なんて思っていたら、さっそく足がなにかに引っかかった。まえにつんのめりそうになって、手をバタつかせてると、うしろからグイッと腕を引かれた。


「クロウ! ありがとう」

「どんくさいな」

「ちょっと引っかかっただけだもん」


 そんなイジワルないいかたしなくてもいいのに!

 むーっとクロウをにらむ。クロウはじーっとわたしの腕を見つめて、かすかに目を細めた。なんだろう。すっごくイヤな予感!

 身を引こうとすると、それよりはやく、クロウがわたしの腕をつかんでいないほうの指をひょいと上に動かした。

 ふわっと、体が軽くなった感じというか、視線があがったというか。

 って、これって、浮いてるー⁉︎


「わ、わっ! す、すごい!」

「ふぅん」


 クロウはわたしが浮かぶのをジロジロとながめたかと思うと、パッとわたしの腕をはなした。その瞬間、お尻が重力に引き戻されて、地面と突撃する。痛さで目のまえに星がちった。


「いったぁ〜! クロウ! ひどいよっ!」

「ふぅん。なるほどな。そういうことか」


 なるほどじゃないよ。かってに納得してるけど、お尻が痛いんだから!

 ジンジンするお尻をさすっていると、手が差し出される。にらみながら手をつかむと、グイッと引っ張りあげてくれた。


「うう。お尻痛い」

「チカラが使える条件がわかった」

「えっ! ほんとう?」

「まぁな。それと……」


 わたしのうしろにまわったクロウが、うしろからわたしの首に腕をまわしてきた。

 ええっ、首しめられる⁉︎


「く、クロウ!」

「おい暴れんな。手は腹のまえで組んどけ」

「えっ、えっ。首しめない?」

「あほか。いいからじっとしとけ」


 耳もとでささやくようにいわれて、心臓がびっくりして飛び跳ねた。

 いわれたとおり、おなかのまえで手を組むけど、なんだか落ち着かない。だって、クロウがうしろにぴったりくっついてるんだもん。


「ね、ねえ、なにするの?」

「いいから見とけ」


 右からクロウの手がまえに伸びる。

 左手はわたしの首に腕をまわしたまま。大きい手がわたしの肩を押さえてる。逃げないように拘束してるみたい。

 クロウはまえに伸ばした手をひょいと横に動かした。すると、目のまえに小さなつむじ風おきた。くるくるとまわって、地面に生えてる草を巻きこんでいく。


「へぇ、なるほど」


 なるほどじゃないよ! わかるように説明してくれないと!


 クロウはパッとわたしから距離をとった。一歩うしろにさがって、首にまわってた腕も、背中にあっていた感触もなくなる。


「ふぅん」

「も、もーっ、さっきからどうしたの?」

「チカラの発動条件だけど。体の一部がふれてる必要があるみたいだな」

「へ?」


 クロウがわたしの腕をとる。


「思い返してみりゃ、たしかにチカラを使ってたときは、あんたが俺の腕をつかんでいた気がする」

「そ、そうだっけ?」


 うーん。あまり覚えてない。


「最初は手かと思ったが、どこでもいいみたいだな。ただ、なんでそれが必要なのかはわからない。契約のときにミスったか?」


 クロウは冷静に首をひねっているけど、これって大発見だよね⁉︎

 だって、それなら召喚士としても認めてもらえるし、こわいモンスターが出ても大丈夫だし。


「やったね! クロウ! これで正真正銘の召喚士だよっ! 所長さんっ、聞いてくださ……って、あ、あれ。所長さんがいない!」


 まえを歩いていたはずの所長さんの姿がない。

 ど、どうしよう!

 もしかして、はぐれちゃった⁉︎

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