第8話 実技試験1

「エリーさーん! エリーさんいますかー?」


 次の日、わたしはクロウを連れてさっそく召喚士組合にきていた。だってだって、やっと召喚獣を具現化できたんだから。これでわたしも正真正銘の召喚士だよ!


「あら、エリーに用事? あの子、また資料室にこもってるんじゃないかしら? 今呼んでくるわね」

「あ、はい! よろしくお願いします!」


 ぺこりと頭をさげる。

 声をかけてくれた女の人は、にこにこと笑ってカウンターの奥に入っていった。

 しばらくすると、頬をげっそりさせたエリーさんがやってくる。いつものツヤツヤ髪がかがやきを失っていて、目の下にはクマがある。

 これがうわさの資料室のゆうれい! エリーさん、大丈夫なの?!


「あらリディル、いらっしゃい……。今日は……あら、タマゴは持ってないみたいね。どうかしたの?」


 エリーさんは眠そうにしながらも、わたしの話を聞こうと椅子に腰かけた。


「あ! そうだ、エリーさんに報告が!」

「あらなにかしら?」

「見て見て! じゃじゃーん! わたしの召喚獣!」


 わたしはうしろにいたクロウの背中をぐいっと押して、エリーさんの目のまえに突き出した。

 エリーさんは眠たげな眼をパチパチとまたたいて、困ったように笑う。


「リディル? それはえーっと、ジョークってやつかしら?」

「え? ちがうよ! 本当に、このクロウが昨日タマゴから孵ったの!」

「……タマゴは召喚の間でしか孵らないわ。だからタマゴを見つけた候補者たちは、みんなこの街にくるの」

「え……」


 そうだったの? 知らなかった。あれ、でもわたし、最初に見つけたタマゴは家で孵ったけど……。


「でも! 本当に本当なんです! ね、クロウ?」


 ひょいとクロウの顔をのぞき込むと、なんだかむずかしい顔をしてじっと床を見ていた。


「クロウ?」

「ん? ああ。なんかいったか?」

「クロウはわたしの召喚獣だよねって話!」

「ああ」


 よかった。クロウがうなすいてくれた。これでちがうなんていわれたら、どうしようかと思ったよ。


「そうはいっても、あなたどう見ても召喚獣には見えないわ」

「クロウは人型の召喚獣もいるっていってるよ」

「……それは本当なの?」


 クロウがチラッとわたしを見た。目がちょっと不機嫌そう。

 もしかして、今のいっちゃいけなかったとか?


「あ、えっと……う、うん……たぶん……」


 もごもごと返事をすると、クロウが肘でわたしの肩をつっついた。


「おいリディル。チカラを使うのに許可が必要なのか?」

「え? 必要というか、そうじゃないと召喚士として認められないよ」

「認められないとどうなる?」

「どうって、お仕事の紹介とかしてもらえないし、身分の保証とか。あとはいろんなサポートも受けられないかな?」

「ふぅん」


 聞いたのはクロウなのに興味なさそうな返事。もう、今緊急事態なのわかってない!


「別にいいんじゃないか?」

「え?」

「あんたは金が欲しいんだろ。なら、宝石でも魔法付与アイテムでも作って売ればいいんじゃないか?」

「え! できるの!?」


 アイテム生成が得意な子もいるって聞いてはいたけど、クロウはそれもできるってこと?


「ちょ、ちょっと待って。魔法付与アイテムなんて、それこそ許可が必要よ? 詐欺も多いから、召喚士の証明が必要なの」


 ええー! そうなの?


「クロウ、どうしよう……?」


 クロウを見上げる。クロウは疲れたようにため息をついた。


「ったく、めんどうだな」


 クロウが呆れてる。まさか、わたしに愛想をつかしてふっといなくなっちゃたりして……!


「く、クロウ! どこにもいかないよね?」

「は?」

「……今まで召喚した子は、みんないなくなっちゃったから……」


 姿を見せてくれたのに、ふっと消えてしまった子たち。みんな、どこに行っちゃたんだろう。元気なのかな。

 うつむいていると、呆れたような声がふってくる。


「あんたにチカラを使わせるために来たのに、帰ってどうすんだよ」

「いなくならないってこと?」

「そもそも、一度した契約はそう簡単に破棄できない」

「それって?」

「よっぽどのことがないかぎり帰らない」


 な、なんだ。そっか。よかった!

 ほっとしていると、エリーさんがじーっとわたしを見ていることに気づいた。いつもよりも、やさぐれた目をしているけど、どうしたんだろう。


「え、エリーさん?」

「これでも、私はリディルとはそこそこ付き合いが長いわ。あなたがウソをいっているとは思ってない。私が信じられないのはむしろ……」


 エリーさんは見定めるような目でクロウを見た。

 クロウが信じられないってこと?


「あなた、純情なリディルをだまして、悪いことでもさせようとしているんじゃないでしょうね?」

「は?」

「え、エリーさん。クロウは昨日、わたしを助けてくれたんだよ。ね?」

「一度助けて相手を信用させるなんて、よくあることよ」

「え。そ、そうなの?」

「おいリディル。だまされんな」


 クロウとエリーさんがバチバチと火花を飛ばしだした。

 ええ! どうしよう?! でもクロウがタマゴから出てくるところをわたしは見たし、クロウも召喚獣だっていっていたし……。それにあの雷は召喚獣の元素魔法だったもん。

 わたしは昨日あったことをエリーさんに説明した。身振り手振りもつけてたっぷり実演してみせた。


「わかったわ。それなら、チカラを証明してみせてくれる?」

「チカラの証明?」


 首をかしげると、エリーさんはわたしを見てわかりやすく説明してくれる。


「もともと、タマゴを孵したあと、一人前になるにはチカラが上手く扱えるようになった証明が必要なのよ。実技試験ってとこかしら?」

「そうだったの?」

「ええ。とりあえず、ついてきてくれる?」


 エリーさんにカウンターの奥へと招かれる。

 いつもとはちがう。今度は実技テストだ。

 でも、今度は絶対大丈夫なはず。だって、クロウは昨日、すっごい雷を出してたんだから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る