45.口止め

「あっ、おかえりなさい。ユウマ、リナさん、心配したんですよ?」


「やーっと帰ってきた! フィーちゃんの言う通り2日もいなかったから心配したよ!」


 屋敷に戻った勇馬達を出迎えたのは、ほっと安心したように微笑むフィーレと、プンプンと頬を膨らませているルティーナだった。

 当初は1泊程度で依頼を終わらせるつもりだったので、なかなか帰ってこない勇馬達にヤキモキしたのかもしれない。


「あー、悪かったな2人とも。実は駆除する対象がヘビーボアだったんだけどな、夜にしか現れなさそうだったんで泊まらせてもらったんだよ。移動の疲れも溜まってたし1日目は休ませてもらって、次の日の夜に討伐したんだ」


「そうだったんですね。無事でよかったです。ヘビーボアは、たまに餌を求めて畑を荒らすと聞いたことがあります。何体いたんですか?」


「10体」


「「10体!?」」


 フィーレとルティーナが、姉妹揃って綺麗に声を合わせて反応した。


「10体もの相手となると、ティステとリズベットがいたとはいえ、かなり大変だったんじゃないですか?」


 フィーレの口から自分の名前が出て、リズベットの肩がビクンッと跳ねた。

 それを見た勇馬は、


「いや、俺達のティステさんとリズさんには休んでもらってたんだよ。それに、俺もほとんど手を出さず、莉奈が倒しちゃったからな」


 正直に言えばお咎めを受けるかもしれないと思い、少しだけ理由付けをした。


「すごーい! もしかして、リナもユウマみたいにバンバン攻撃できるの!?」


「う、うん。勇馬さんほどじゃないけど、私の持つM24ならちゃんと戦えたよ」


「ヘビーボアは1体でも倒せれば、兵士として優秀な人材です。それを何体も倒してしまうなんて、ティステやリズベットでも無理なんじゃないかしら?」


「はい、私達にも不可能なことをリナ様はやってのけました。今はまだ5級の冒険者ですが、近いうちにユウマ様とともに私達などすぐに追い抜かれてしまうでしょう」


「へぇー……って、リズベットはなんで目を潤ませて手を組んでるの? そんな熱心にお祈りする人だったっけ? てかなんで今?」


 ルティーナが疑問を口にすると、リズベットは慌てて「い、いえっ、なんでもないです!」と姿勢を正した。先ほど助け舟を出された彼女は、勇馬の優しさに感謝していたのだった。


「……なんかよくわからないけど、とりあえずお疲れ様! 今日はもうゆっくりするんでしょ?」


「ああ、そのつもり。明日以降はちょっと馬に乗る練習をしてみたいんだよな。やっぱりちゃんと乗れないと不便だし、身体も変に疲れちゃうしさ」


「それはいいかもしれませんね。ユウマだけでなくリナさんも――」


 そこで、フィーレの言葉が止まった。


「ん? どうかしたか、フィーレ?」


 彼女の目線はある場所に釘付けになっていた。


「あ、あの、リナさん……そのペンダントは行きの時にもつけてましたっけ?」


「あ、これはユウマさんが初討伐のお祝いにって買ってくれたの

 とっても綺麗で可愛いよね!」


 莉奈の回答に、フィーレの表情がピシッと固まった。

 それは彼女だけでなく、ルティーナも同じだったのだが、


「似合ってるんじゃないか? 何の石かはよくわかんないけど、綺麗だしいいと思うぞ」


「えへへ、頑張って戦った甲斐がありました!」


 勇馬達はそれに気付くことなく、話を続けるのだった。


「え、ええ、とてもお似合いです、けれど……」


 フィーレはティステ達のほうを慌てて見る。すると、ティステとリズベットの2人とも頭を横にふるふると振った。それが意味することは、勇馬と莉奈にはその行為がどういう意味を持つか理解していないということだ。


「なるほど……」


 フィーレが小さく呟くと、


「ね、ねぇ、2人ともそれは――」


「――ルティ!」


 何か言い出そうとするルティーナを、フィーレは咄嗟に引き止めたのだった。


「ど、どうしたの? フィーちゃん」


「ん、ちょっと、ね。――ねぇユウマ、もし私達も冒険者になって依頼を達成したら、リナさんみたいにお祝いしてくれるんですか?」


 フィーレはニコリと微笑んで勇馬に問いかけた。


「ああ、別にいいぞ? でも、領主の娘なのに冒険者になってもいいのか?」


「それくらい問題ありません。お父様には報告しなければいけませんが、頷いてもらいます」


「いや、なんとしてでもって……」


 勇馬は「それほど冒険者をやってみたかったのかな?」と、今回達成した依頼の前に2人が最後まで一緒に来ようとしていたのを思い出した。そうであれば、初依頼を達成した莉奈のことを羨んでいるのかもしれないと、勇馬はフィーレがを羨んでいることに気づきもしなかった。


「まぁ、でもわかったよ。キールさんが許可してくれたら一緒に行こうか」


「はい!」


「やった! さすがフィーちゃんだねっ!」


「ん、何がだ?」


「な、なんでもないよっ!」


 勇馬が聞き返すと、慌ててルティーナは誤魔化すように目を逸らした。


「? ま、それじゃあそういうことで。俺は1回部屋に戻るけど……」


「あ、私も戻ります」


「んじゃ、行こうか」


「はい」


 勇馬は不思議に思いながらも、莉奈とお互い自分の部屋へと向かった。


「……危なかった、フィーちゃんありがとう」


「ええ、教えてしまったら貰えなくなってしまうかもしれないからね。まだ内緒よ、あなた達も」


「はっ!」


「わかりましたぁ!」


 フィーレは、その場にいる全員に口止めするのだった。

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