■精神科入院39日目②膝上5cm 老婆と18歳の恋■

この頃から段々病棟の廊下から窓を眺める機会と時間が増えていった。

始めは「まっつん何してるの?」と、だあくんがボクのところに来て他愛もない話しをしていた。

「だぁくん知ってる?◯◯が▲▲で…」とか、「コロナ禍での卒業式はどうだったの?」とか、「同じ金沢市内でも高校まで結構距離あるよね。どうやって行ってたの?」とか。世間はなしというか小話というか。

勿論、男同士だから「あそこに可愛い子いるよ。あの子クラスでカースト高くない?」とかも。


1階の天井は高く、病院の2階に入院していたので地面からはたかだか10mもない。

きっと5メートルちょっと。

が、廊下の窓から見下ろすと、凄い高いところから見下ろしている感覚になる。 

大きな窓ではないが、町を見下ろしている気分。何が俯瞰で行き交う人達を見ていた。

気がついたら毎日ずっと。

夕方の下校時間の近くの高校生の後ろ姿を見たり、隣の保育園から仕事が終わり慌ただしく帰る早番の保育士さんを見たり、ガラガラだったのに、バスに揺られて運ばれる人の通勤通学風隙を眺めたり。

ユーも「ねぇ、ちょっと何してるの?」って言うから、彼女の腕を引っ張って「ちよっとこれ見て」と言おうとすると、反対に「ねぇ、ちょっと腕触らないで」と年頃の彼女に言われたり。 

なのに、明くる日◯◯さんと2人で朝から廊下でボクの特等席にいるものだから、その2人のツーショットが新鮮でお似合いに見えて「◯◯さん、良いですね!こんな可愛い子と2人で話せて」と、僕と話せる人はちゃんとした大人か純粋な人。彼らも無垢だからそんな2人が一緒にいるところを見れて凄い嬉しかった。


が、酸いも甘いも噛み分けて来たであろうその老婆。

晴れてロックオンした意中のだぁ君と束の間の院内デート。

キモい。キショい。目障り。

一緒に彼のヘッドホンでポータブルCDプレーヤーの音楽を聞いたり、2人並んでテレビ見ていたり。

若くない見るからに無理のある異様な2人がそれで良ければそれで良いのだろうけれど、本当に良いのか?それで。

だぁくんも、「内政干渉」と、見るに見かねていた看護師たちも。

何かおかしくないか?

何か間違っていないか?

あれ程、だぁくんは困っていたんだぞ。

この子見れば分かるじゃないか。

高校出たばかりの何も「経験」してきていない子だぞ。

健全な成長を見守るのが大人だぞ。

健全か成長を促すのが大人だぞ。

「なにこれ?」

「問題にならなければそれでよいのか?」

「何だそれ?」


幻滅していたので、だぁくんとはそれから暫く口を聞いていなかった。

祖母輪とと孫の年の差の離れた2人はせこせこ妙な愛を育んでいた。


そんなある日、町を見下ろすいつもの廊下の窓の指定席に椅子を持って腰掛けた。

「あれ?」

隣の洗濯置き場のドアが閉まっている。

いや、正確には閉まりかけているが、微妙に少し空いている。

オカシイ。

消灯時間でもないのに。

消灯時間なら戸締まりで閉めるのだが、消灯までまだ時間はある。

「何故だろう?」

自分の洗濯物も洗濯機から取り入れていなかったか。

扉を開けた。


「ギャー!」 

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