[第5章] 享年28歳
#5-1 茂庭 陽介
日々は流れて俺が死んでから49日。
四十九日法要に同級生達もやってきた。
再会した5人は法要を終えて、草太の予約していた焼肉屋の個室に俺を偲ぶために集まった。
草太と忍が隣り合って座り、向かいに智也と瑛莉華、その隣に真帆が座って肉や野菜を食べながら飲んでいた。
しかし話は早速、俺が高校の時に書いていたノートに及んだ。
「なにこれぇ、キモチ悪い……。しかも、文才もないね」
アメリカに住んでいて通夜と葬式に訪れなかった真帆は、初めてノートを読んで辛辣な言葉を放った。高校生時代は物静かで朗らかだった彼女が1番変わったかもしれない。
「私だったらもっと瑛莉華をセクシーに描写できるよ。リアリティもないしさぁ。高校生の瑛莉華はかわいさの中の色気がイイんだよ、わかってないなぁ」
真帆はハッキリ物を言う女性になっていた。
「やだ、真帆、アタシ、エロかった?」と、瑛莉華が真帆に聞くと「イイ意味でだよ。高校生にしてはね」と、ノートを放り出して2人でキャッキャとはしゃいでいた。
「智也、脂っぽいのダメだよ?脂少ないのにしな?」
瑛莉華は肉を食べようとしている智也の世話を焼いている。その姿を見ていた忍が
「あんたらまた付き合ってんの?」
と、聞いた。
「今、智也、身体
と、瑛莉華は満面の笑みで智也を見ながら曖昧な返答すると、智也も笑顔になって応えた。そんな2人のやりとりを見逃さなかった草太が聞いた。
「瑛莉華、彼氏いたんじゃねぇの?」
「うん、今距離おいてるの。浮気されちゃって。別れると思う」
「で、智也と一緒にいんの?」
「そうだよ。草太も混ざる?3人でスル?」
瑛莉華は小悪魔を発揮して何を“3人でスル”のか、ジム通いか、別の何かか、ふざけたことを言った。草太は赤面し、智也は戸惑った顔をして、真帆はケラケラと笑っていた。
「瑛莉華ってさぁ……。陽介の書いてた事、事実なんじゃないの?」
草太と智也を弄ぶような発言をした瑛莉華に対して忍が言うと、
「まさかぁ。アタシ母乳出ないし、体育倉庫なんて汚い所ではしないよ。アタシ、外でヤルような下品な女じゃないから。それに誰にでもおっぱい見せたりしないし」
瑛莉華は見下すような目つきで忍を見ながら言い返した。
険悪な空気が流れた。
俺はノートに事実と妄想を織り交ぜて書いていた。妄想の中心だった瑛莉華本人はノートの妄想と事実に察しがついているのだろう。
忍が何も言い返せないでいると
「ノートの内容さ、何が本当なの?」
生真面目な草太が言い出した。
「それ知ったところでイイことなくない?ノートの話やめない?」
と、忍が言って、皆が沈黙し肉が焼ける音だけが響いた。
「はい!」と、言って瑛莉華が発言権を求めて手を上げ、みんなの注目を集め箸を置いて話し出した。
「アタシは、かわいくて、スタイル良いのは本当」
何を言い出したのかとみんな手を止めて瑛莉華を見ると、彼女は続けた。
「智也とラブラブだったのも本当。エッチな女の子なのも本当。今でも智也とヤリまくってるのも本当」
そう言ってニッコリと微笑んで、また箸を手に取って何食わぬ顔で肉を頬張りだした。
「多分、今の事は聞かれてないと思うよ?」
智也が瑛莉華に言うと
「忍が今も昔も智也とヤリたいのも本当」
瑛莉華は
「こんなんじゃ、瑛莉華、陽介とヘンタイプレイしてたのも本当っぽいね」
忍は負けずに言い返したが
「亡くなった人悪くは言いたくないけど、アタシは陽介のこと途中からキライだったんだ。ウソばっかりアタシに言ってたからね。アタシと智也別れさせようと必死でさ」
瑛莉華は動じなかった。
俺はショックだった。俺が忍との悪魔の契約に必死になりすぎて、彼女がそれに気がついていることすら気づけなかった。
忍はうつむき、予想外の瑛莉華の姿に草太は
すると今度は真帆が「はい!」と手を上げた。
「私の初恋は瑛莉華、本当。私は女だけど、恋愛対象は女の子なの。それは本当」
瑛莉華が「真帆、それ、ムリに言わなくていいよ?」と、声をかけたが
「いいの、私にはいい思い出だから」
と、笑顔で返すと
「でも瑛莉華、浮気じゃん。真帆が瑛莉華のこと恋愛対象なら浮気だろ?」
と、智也は瑛莉華と真帆の間に起こったであろうコトを持ち出した。
俺は真帆の性的嗜好を知っていたわけではない。
真帆がLGBTQ+についての論文や記事を読んでいたのを何度か見かけていて、もしかしたらそうなのかしれない、ただ興味があるだけかもしれない、と、確信はなかった。真帆がどういった嗜好であっても、俺には関係ないことだったしそれは彼女の自由なので気にはしていなかった。ただ小さくてかわいらしい彼女に性的に興味はあったので、たまに俺と瑛莉華の妄想に登場させていただけだ。
まさか真帆と瑛莉華が、と、考えただけで妄想に拍車がかかったので単純にネタとして使ってしまった。その点は18歳の未熟な俺の過ちだったのかもしれない。
と、いうかこんなノートを残したことすべてが過ちなのだが。
真帆は智也に向かって謝ったが、瑛莉華は負けない。
「真帆は謝らなくていいよ、アタシと真帆はセックスしてないし。ノートではアタシと真帆と陽介3人でヤったことになってるよ?信じてるの?」
「さすがにそれは……」
「結局、今もアタシとヤってんだからいいじゃん。今日もスルでしょ?」
智也はしおらしくうなずいた。完全に瑛莉華に丸め込まれている。
「智也だけずるーい。私だって今の瑛莉華とヤりたいし」
高校生の頃の面影を一切失った真帆がポツリと言うと
「じゃぁ、今度智也には内緒でしちゃう?」
「じゃぁ私がいろいろシてあげるね」
瑛莉華のどこまで本気かわからない小悪魔な発言でまた瑛莉華と真帆はワイワイとおしゃべりしながら飲み始めた。
忍と草太は小悪魔に変貌した瑛莉華と開放的になった真帆にあっけに取られ、智也は瑛莉華の手のひらで転がされながら真帆に密かなライバル心を燃やしていた。
やはり瑛莉華は勝者だ。
彼女は恵まれた外見に甘んじることなく女に磨きをかけ、愛されることに傲慢になる事もなく、注意深く生きていた。常に満たされていた瑛莉華は欲望に負けて間違った行動などはとっていない、彼女に弱みはない。何故瑛莉華がそのように賢く生きてこられたのはわからない。結局それも外見がイイからなのだろうか。この世は外見がすべてなのだろうか。
個室から出て帰ろうとそれぞれがお手洗いへ行ったりしている時、すぐさま会計を済ませた草太が瑛莉華の手を引いて外へでた。
「俺も本当のこと言うよ。瑛莉華のことスキだったんだ。これは本当」
草太は瑛莉華だけに当時の思いを打ち明けた。
「何となく気がついてたよ」
「そっか。今でももしかしたら忘れてないかも」
「アタシ、智也とエッチしてるし……。彼氏とまだちゃんと別れてないし……」
瑛莉華が困った顔をすると草太は「ごめん、ごめん」と、言って笑って前言を撤回した。
「3人でスル?」
瑛莉華が顔色一つ変えずに平然と言うと、草太が顔を赤らめて目を丸くして絶句していると焼肉屋から他の3人が出てきた。
忍と瑛莉華は険悪なまま、真帆が俺のノートをバッグにしまい、またいつかと別れを告げてその会は解散した。
瑛莉華はその場から去ろうとした草太の手を握り、智也の腕に自分の腕をかけて何かを耳打ちしている。そして3人は歩き出した。
もしや、この3人は。
俺の妄想が本当になってしまうのか?
2人で瑛莉華を?
瑛莉華の豊満な胸に2人が?
俺も俺の四十九日法要に参加すればよかった。
3人が遠ざかって行く、何故だ。
そこに俺も参加させてくれ。
せめてこの後の3人を見せてくれ。
想像しただけでイキそうだ。
さようなら……。
THE END
© 宇田川 キャリー
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