第47話 庄野

「ふう、やっと終わりね」

「落ち着けるわね」

 二人は、高速ゲレンデ区間の終わりを示す、黒と白のチェッカーフラッグが振られているところまで来た。


「ちょっと、休憩していきましょうよ」

「ここら辺の名物って、何かしら?」

 庄野の本陣で、茶店に立ち寄る。

 二人が食したのは……、これ。


「小さな俵?中身は何かしら?」

「え?お米?」

 庄野宿の名物といえば、焼米やきごめである。

 焼米とは、昔の保存食、携行食。


 米をモミのまま炒り、臼でついてモミを取り除いたもの。

 そのままでも、ポリポリ食べられるし、お湯をかけて戻せば、昔のインスタント食品である。

 うるち米より、もち米の方が適していて、庄野のものは特においしいとされた。


 握りこぶし大ほどの俵に詰めて、旅人に提供されていたという。

 ミケタマの二人は、そのままいただく。

「ポリポリ。なかなかのお味ね」

「昔の人も、こうやって食べていたのかしら」

 三重県特産の、伊勢茶で、ほっと一息ついた。


 お茶屋を出ると、外は雨が降っていた。

「まあ、白い雨だわよ」

「庄野の白雨はくうね」

 白雨とは、夕立や、にわか雨のこと。


 歌川広重の東海道五拾三次では、夕立に見舞われた旅人が、往来を行き来する姿が、生き生きと描かれていて、広重の最高傑作の一つと言われている。

 近未来に降る白雨は、人工的に降らせたものである。


 実際に色はついていないが、光の加減で、白く見えるようになっている。

 服に付いても染みないし、ゲレンデに落ちた雨は、そのまま雪に変わるという優れものだ。

 広重の絵にちなんで、演出として降らせてあるのだ。


「さあ、行きましょ」

「弥次喜多グループも、なかなか風流じゃない」

「これも一茶さんのアイデアかしら?」

「まっさかーっ。あの人に侘び寂びはわからないわよ」

「それも、そうね」


 白雨の中、颯爽とスキーを滑らせていく、ミケタマ。

 その姿は、実に絵になる。

 もし、広重がこの時代に生きていたら、きっと彼女たちをモデルにして描いたことだろう。

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