第17話 特訓

 次の日、後遺症なんかないかと心配していたが、全くの逆だった。


「うーん。久しぶりによく眠れたわー」

「ああ、そうだな」

「私もとてもよく眠れました」


 どうやらイメージは成功だったらしい。


「それにしても昨日はいきなりフィリアの気配が消えたもんだから驚いたんだぞ?」

「…私はずっと部屋にいたのに…」


 …嘘です。ごめんなさい。


「うーん、多分フィリアは隠蔽系のスキルをもってるんでしょうけど、制御できていないのかしら?」

「そう、なのかな?」


 そうやって勘違いしてもらった方が楽だね。


「まあ、その心配も今日で最後よ。さぁ、特訓しましょ!」


 なんとか昨日の特訓を活かさないとね。


「フィリアはベルちゃんを呼んできてくれる?」

「うん」


 私は走ってベルの家まで行き、ドアを叩いた。


「あ、フィリアちゃん!おはよー」

「おはよー。さ、いこ?」

「うん!」


 迎えに来たのは私なのに、何故かこっちが手を引かれながら家に戻った。



「あ、来たわね。それじゃあ裏庭でやりましょうか」

「「はーい」」


 この家の裏庭はだいぶ広い。あと1軒、家がたちそうなくらいだ。


「じゃあこの辺でやりましょうか。まず、魔法を使う前に自分の中にある魔力を把握しないといけないの」


 ありゃ。やっぱりそういうことは必要なのね。


「どうやるんです?」

「目を閉じて、意識を自分の体に向けるのよ」

「んん?…難しいです…」

「まぁベルちゃんは魔法の才能もあるようだし、毎日すればできるようになるわ。で、フィリアはもうできてるみたいね」


 え!?


「…どうして分かったの?」

「前のあなたは魔力が体の中心に固まってる感じだったんだけど、それが上手く全身を循環してるって大体わかるのよ」

「へー」


 よかった。昨日のことを見られてたのかと思った。


「それじゃあフィリアは次のステップね」


 こういう言葉とかも召喚された勇者が広めたらしい。


「何するの?」

「簡単よ。目の前に魔力を集めて魔力球をつくるの。こういう感じにね」


 そういうと、マリアの前に魔力が集まるのを感じた。でも、なにも見えない?


「ふふふっ。この状態だと見えないの」

「じゃあどうするの?」

「魔力を目に集めて見るのよ」


 魔力を目に…あ、もしかして、


「…魔力眼?」

「あら?よく知ってたわね」


 なるほど。あの魔力眼はこうやって使うのね。とりあえずそれは使わないで、言われた通り魔力を集めてみよう。すると、マリアの前に直径15センチほどの球が浮かんでいるのが分かった。


「あ、見えた」

「…っ!凄いわね…普通そんなすぐに出来ないのよ?私だってまだ完璧じゃなくてスキルになってないんだから」

「完璧になったらスキルになるの?」

「ええ、断言は出来ないけど、そう言われてるわ」


 へー。スキルって努力さえすればとれるものなのか。


「ただ、相性もあるみたいでね?相性が悪いと中々取得できないのよ。私の場合は魔力眼かしらね」

「へー」


 私の場合はどうなんだろ?まあ、これ以上スキルを増やしてもって感じするけどねー。


 私は魔力球を作ってみる。イメージはテニスボールかな?


「お、できた」

「うん。上手く出来てるわね。合格よ」

「やったー!」


 …やっぱり体に精神が引っ張られてるかも。


「もう!2人とも私のこと忘れてませんか?!」

「「あ、ごめん」」


 ベルはあれからだいぶ上達したみたい。いまならマリアの言っていたことがわかる。なんか光の筋みたいなのが体中を巡っているのがわかる。


「へー、ベルちゃんも素質がいいわね。よし、ベルちゃんは魔法はここまでにして、別のことをしましょ」

「別のこと?」

「ええ、弓の練習ね」


 そうか、ベルは弓術を持ってるからね。私も持ってるけど今言わない方がいいよね。


「弓はこれを使いなさい」


 そういってマリアが出してきたのは木でできた弓だ。鑑定してみよう。


 狩人の弓:もっとも一般的に狩りに使われている弓。安価で扱い易いが、耐久性が低い。


 く、詳しすぎる。ここまでの情報がでるとは思ってもみなかったよ。


「あ、はい。ありがとうございます」

「矢はここにあるからね。さて、早速打ってみましょうか。そうね…あの木に向かって打ってみて?」


 そういって指さしたのは5mほど離れたところに生えている木だ。


「ええ?!遠すぎますよー!」

「大丈夫だから。ほら、やってみて?」

「…分かりましたー、」


 ベルは少々投げやりになりながら、矢をつがえた。そして、放つ。


 パシュ!スコ!


 …なんか気の抜けた音がしたけど、どうやら当たったらしい。


「え!?嘘…当たっちゃった?」

「うん。バッチリと」


 ここまで正確に打てるものなんだね。そういえば、昨日は弓の練習はしなかったな。また今度しとこう。


「分かった?それがベルちゃんのスキル…いえ、祝福ギフトの力よ」


 なるほど。あえてベルにその力の特異性を理解させるのね。


「…はい、分かりました!」


 …ベルには何もかも無駄かもしれない。私とマリアは一緒に頭を抱えたのだった。


「はぁ…フィリア、頼むわよ」

「…うん、なんとかやってみる」


 私とマリアは顔を見合わせ、そんな話をした。

 心配されている当の本人はルンルン気分だ。


「もっとやってみたーい!」

「…じゃあここにある矢を全部あの木に向かって打っておいて。フィリアは魔力大丈夫?」

「うん」


 自分の魔力がまだあるのかっていうのは、大体の感覚でわかる。


「それじゃあ、次は魔法ね。普通は魔法を使う前に魔力制御とかを練習するんだけど、あなたの魔力球を見る限り、それができてるみたいだから飛ばすわよ?」

「うん」

「そうね…1番安全な光の玉を練習しましょうか」


 あ、やっぱりそれって練習に使われる魔法なのね。


「どうやるの?」


 昨日は出来たけどそれが本当の方法かわかんないしね。


「本来なら呪文とかも練習しないといけないんだけど、『無詠唱』をもってるから、明確にイメージすればできるわ」


 結構昨日合ってたのね。私の場合前世の知識からイメージをしたけど、この世界ではどうなんだろ?


「どんなイメージ?」

「太陽のような明るさをイメージしてもいいんだけど、それだと火の玉…ファイヤーボールになっちゃうかもしんないから、月の光とかをイメージするといいかも」


 この世界は地球と同じで太陽と月がある。確かに太陽をイメージしたら火になっちゃいそう。前は蛍光灯をイメージしたけど、言われた通り月をイメージしよう。ほんのり明るく、優しい光…


「…っ!これは…ヒールの光に近い?」

「え?」


 なんかイメージミスった?


 …あ、そうそう。今アンクルとか指輪とかはつけっぱなしにしてる。じゃあなんで魔法が使えるのかというと、その魔法に必要な魔力の約10倍の量をつぎ込むと、魔法がこのままでも使えるって分かったのだ。魔力を消費して鍛えるのにちょうどいいので、そのままにしてる。


「フィリア、どんなイメージをした?」

「ほんのり明るくて、優しい光」

「あーそう捉えたのね…まぁ感じ方は人それぞれだから仕方ないわね」


 確かにそうかもね。


「だめだった?」

「いいえ、むしろこっちの方が難しいのよ?」


 まじか!?やっちまったか?


「うーん…これはフィリアの特訓は考え直さないといけないわね」

「…厳しくないのでお願いします」

「さぁ?それはどうかしら♪」


 なんか楽しそうだな…。


「さあ、もう今日は終わりにしましょうか」

「「はーい」」


 ベルは100本ほどあった矢を全て打ち終わり、全部命中していた。


「やばいね…」

「この力について、もうちょっと自覚して欲しいものなんだけどね…」


 私はベルにちゃんと理解して貰えるように努力しようと誓うのだった。

 その後私たちは私の家のお風呂にはいり、私はベルを家まで送った。


 ーーーーーーー


 私はフィリアのことを甘く見ていたのかもしれない。昨日まで魔力が上手く循環していなかったのに、今日みたらしっかりと循環できていた。


 私と同じで魔法の適性が高いのかと思ったけど…私よりも遥かに高いのかもしれない。


「あの子を死んだことにして、正解だったかもしれないわね…」


 もしあのまま私たちの子供だと紹介していたら、フィリアは大変な思いをしたかもしれない。


「腐りきった貴族に気づかれて、自由を失っていたかもね…」


 少なくとも私、いえ、はそうだった。

 フィリアにはそんな思いをして欲しくない。


「ベルちゃんが力を理解して欲しいと思っていたけど、フィリアもだったとはね…」


 気づいているのかいないのかは分からないけれど、とにかく、力の制御をしっかりと教えないとね。


 私は明日の特訓をより厳しくすると心に誓ったのだった。






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