なんてことないこの日を、繰り返し生きてる
春泥
いつもと変わらない朝。
いつも同じ。
さっさと起きなさいとしまいには怒鳴られ、嫌な気持ちでベッドから出る。
先にキッチンのテーブルに着き、目玉焼きを半分以上平らげている弟は、バカにしたような視線をこちらに向けて味噌汁を啜る。
母が苛々しているのは、単身赴任中の父と何かあったからだ。
離婚は多分しない。パートのお金だけじゃ、子供二人養えないし、わたしの大学進学も怪しくなる。わたしは父親に引き取られたいと思っている。たぶん、弟も同じ。
「誰が毎日あんたたちの面倒を見てると思ってるの」
そんなことを恩着せがましく言われるのが、とても嫌だ。すぐにヒステリーを起こして泣き出す母親なんかと一緒にいたくない。当然じゃない。
こんな日常を、毎日繰り返している。不毛だ。でもいいんだ。
弟が元気に家を出る。木曜日は、部活の朝練があるから。いってらっしゃい、と母が声をかけても、返事もしない。そのとばっちりが、こちらに来る。まったく、いい迷惑。
腹を立てた母が寝室に閉じこもってしまう。わたしは食事を済ませ、自分の食器だけシンクに持っていき、お弁当の包みを掴んで、無言で家を出る。
玄関のドアを開ける前に、振り返って、大声で叫びたい衝動に駆られる。
お母さん、大好きだよ!
生意気盛りの弟だって、本当は抱きしめて愛してるって言いたい。家にちっとも連絡してこない父親に電話をかけたい。
でもそんなことはしない。
こんな何でもない日に、そんな気恥ずかしいことはできない。日常的にハグしたり気安くLove youなんて言える文化だったらよかった、そう思うけど、来世は別に欲しくない。
下駄箱の上の日めくりカレンダーは三月十日を示していて、それがめくられる日は永久に来ない。何故だか知らないがわたしはこの日をずっと、
わたしはいつもと同じように、いってきます、絶対に母の耳には届かないであろう小声でそれだけ言って、家を出る。学校でもどうということのない一日を過ごして、帰って来て、不機嫌な母と生意気な弟とうんざりする時間を共有して、寝て起きたら、また三月十日木曜日の朝を迎える。
それで、ぜんぜんかまわない。
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