第33話(回想) ―――記憶障害!?

―――pm5:30


大地の母、臼井真知子うすいまちこが仕事を終え、小走りに明和総合病院の

正面玄関を入り、エレベーターで2階にあるナースステーションまで行く。

慌ただしく動き回っている看護婦たちを伺いながら、真知子は近くにいる芳川千亜紀よしかわちあきに声をかけた。

「あの…すみません、天野先生は? 息子の検査結果を聞きに来たんですけど…」

「お名前は?」

「臼井です」

「ああ…ちょっとお待ちくださいね」

ちょうど、その時、天野が真知子の背後から歩いて来る。

「臼井さん?」

「……え」

真知子と千亜紀の視線が天野に向く。

「天野先生」

「検査結果ですよね」

「はい…」

「ちょうど、今、ご連絡をしようかと思っていた所なんですよ。さあ、こちらへ」


天野は真知子を誘導するように歩いて行く。


「あの…大地は?」

「今日、一日検査ばかりでしたからね、疲れたんでしょう。病室でぐっすり

眠っていますよ」

「そうですか…。あの、大地を助けてくれた子は?」

「残念ですが…」

「そうですか……大地に友達がいたなんて初めて知りました」

「そうなんですね…」

「あの…先生、その子のお宅を教えてはもらえないでしょうか? 

一度行ってお詫びとお礼を……」

「個人情報ですので、病院側としては教えられないことになっています」

「……そうですか…」

「それに、その子のお父様にも教えないで欲しいと言われておりまして…」

「え?」

「相手方も大地君が療養して早く回復することを望んでいます。

今は治療を優先することを先に考えましょう」

「はい…ありがとうございます」

軽く頭を下げ俯く真知子の目は潤った涙で濡れていた。


そして、真知子は天野に連れられ第二診察室へと入って行った。


第二診察室へと入った真知子は天野の前に腰を下ろす。。


天野は検査結果をデスクに並べると「これを見る限り数値に異常は

見られませんでした」と真知子に報告する。

「ホッ…」と、真知子が安心していたのも束の間、

「ただ…」

天野が 言いにくそうな表情を浮かべ再び口を開いた。

「…大地君には記憶障害があります」

「え…記憶障害ですか? 記憶喪失ってことですか?」

「いえ…全て忘れているわけではないんです。事故に遭う前の記憶が殆どありません。多分、かなりのショックだったのでしょう…」

「そう…ですか…」

「精神的な部分ですので、今後の治療といたしましても精神科医の先生と一緒に

カウンセリングも含めて進めていく方針です」

「あの…大地の記憶は戻るのでしょうか?」

「全ての記憶はおそらく戻らないでしょう」

「え……」

「でも、日常生活には問題ないと思いますので……あまり、彼を刺激するような

言葉や態度もできれば控えていただきたいと思います」

「…わかりました…。先生…今後とも大地のことを宜しくお願いします」


そう言うと、真知子は腰を上げ退室して行った。




その後、真知子が大地の病室を覗くと、ぐっすり眠る大地の寝顔に安心し、

真知子はそっと病室のドアを閉じ、病院を後にするのだった――――ーー。

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