第31話 (回想) 彷徨う記憶の中で
何度も夢に出てくる白い霧に包まれた川。景色などない、
あるのは白い霧に包まれたぼやけた空間、そこが川なのかも
わからないが水が流れる せせらぎ音が聞こえる。
僕はその場所を川の付近だと推測する。
白いワンピースに身を包まれた女の子が僕に背中を向けて立っている。
モンチッチのような天然パーマが印象深く、上半身だけ見ると男か女か
わからないが視線を下に向けていくとヒラリとなびく生地から伸びる
キャシャな白い足に僕の頬は赤く染まっていた。
男がそんなフワフワしたワンピースを着るわけない。
それに僕の胸が高鳴る感情は異性へ感じているものに間違いないだろう。
―—そう考えると、女の子だと認識するのが当然の答えだ……。
『大地、バイバイ…』
『あ、ちょっと…君はどこに行くんだ…?』
『大地はこっちに来たらダメだよ』
『え…でも…、僕も君と一緒に…』
僕の足が彼女を追うように進めて行った その時、
『ダメ―。大地は戻りなっ! 』
少女の高くて太い声が僕の耳をピクッと驚かせ歯止めをかける。
『大地はこっちに来たらダメだよ』
その後、少女が静かに言った。
僕は立ち止まって少女の言葉を聞いていた。僕が追いかけると
少女はどんどん遠くに行くような気がしていた。
『じゃあね、大地、バイバーイ(笑)』
少女は僕に背中を向けたまま、ゆっくりと歩いて行く。
僕と少女の距離はどんどん広がり、遠くなっていく少女を
僕はただ立ち止まったまま、呆然と少女の背中を眺めている
だけだった。次第に少女は霧に包まれ僕の視界にさえも
映らなくなっていた。
僕は一人、その場所でキョロキョロと辺りを見渡す。
『大地ー、バイバイ―――』
少女は声だけを残して、霧の中へと消えて行った―――ーーー。
僕は目を閉じたまま天を仰いでいた。
小さくなって響く少女の残声が耳の奥で微かに残っている。
―――――大地、バイバーイーーー
僕は少女の残声が消えるまで耳を澄まして聞いていたーーー。
―--—大地、バイバイ……
少女の残声は遠く、遠くなり、そして霧の中へと消えてなくなっていったーーー。
その日の未明、僕は目を覚ました――――ーーー。
月明かりがカーテンの隙間から差し込んできて僕の部屋に光を灯す。
ふと、横に視線を向けるとベットにうっ伏して眠る年配女性の姿が僕の視線に映る。
『……ん?』誰だろ?
壁に掛けられた時計はまだ午前2時30分――――ーーー。
呆然と虚ろな目をして夢か現実か見分けがつかない僕は再び瞼を閉じ、
2度寝するのだった―――――ーーー。
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