第23話 初デートはドリームパークシティ
『ねぇ、空良…僕とデートしてください』
『ごめん…お父さんに聞いてみないと外出できない…』
僕はベットに仰向けになり天井の木目を見つめながら、空良の言葉を
思い返していた。
『明日…ここで待ってて。もしも9時に私がいなかったら、その時は
帰っていいから……』
僕はその時、その言葉の意味がよくわからなかった。
なぜ、デートをするのにお父さんの許可がいるのだろう?
もしかして、空良は父親に虐待されているのか…
……それとも拘束されているのだろうか? もしや、それが本当なら一刻も早く
父親から空良を助け出してあげなければ……。
脳裏に飛び交う真実と偽りの狭間で混乱する僕はハッと勢いよく身を起こすが、
空良の家も知らない僕は再び身をベットに預けて横になった。
「……」
結局、僕は空良のことを何も知らなかった…。
そう思うと、何だか僕はまた空良を遠くに感じ目尻に冷たい水滴を感じた。
そして、いつの間にか僕は眠りについていた。
朝、カーテンの隙間から入り込んできた日差しが顔面に反射し僕は目を覚ます。
「―—んーーー朝…?」
え!? 朝!? 何時!?
僕はベットに放置されたままのスマホを手探りで探し出し手に取る。
9時5分――――ーーー。
僕はその時刻に思わず2度見してしまった。夢じゃない、現実の時刻だ。と、我に返る。
やべぇー、遅刻する!!
ドッサッーーー
大慌てでベットから下りた勢いで僕は頭から真っ逆さまに落ちた。
「って――ーーー」
その痛みを頭にモロに受けた僕は両手で頭部を押さえ、しょんぼりと
気持ちが沈んでいた。
「どうせ待ち合わせ場所に行ったって空良はいない……。それに、時間だって
とっくに過ぎてる………」
昨日の夜はなかなか寝つけなかった。腫れぼったい顔…目も赤い…。
僕は鏡に映る自分をぼんやりと眺めていた。
本当に情けない顔だ。存在感なんて最初からないくせに、何を悩む必要がある!?
これじゃまるで…本当に死んだ人みたいな顔をしている。
いつまでもイジイジして、僕は意気地がない男だよ。
…でも、僕には確かめる権利がある!!
僕は素早く着替えると、大急ぎで家を飛び出した。
空良が待ち合わせ場所に来てても、来ていなくても僕は確かめなきゃいけない。
じゃなきゃ、僕と空良には未来なんてない。
いつまでたっても僕は何も変わらないし、前にも進めない。
だけど、僕の内心は空良が待ち合わせ場所に来ていることを信じたいのだ。
土曜日の朝の公園は思うほど行き交う人達は少なく、見渡す僕の視線はすぐに
一点に焦点を押さえた。そして、その先には君がいた―――。
「……!?」
僕の足はゆっくりと君が待つベンチに向かう。風が吹くと長い黒髪が自然に流れ、
ベンチに座る君は花が咲いたようにとても綺麗だったーーー。
「…空良…」
僕の視線に空良が映り、思わず見惚れ、行き先を止めるほど僕は空良の仕草に
惹かれていた。
「……」
「……ん?」
ハッとするほど視線が合うのは僕が空良を見ていたからだと思っていたけど、
本当は空良も僕に気づいていたんだよね。
「……」
そして、再び僕は歩き出し、空良が座るベンチ前まで行き着いた。
「……ごめん…空良…」
「大地、30分も遅刻だよ」
「…ごめん…」
「今、帰ろうと思ってたとこだし…」
「…ごめんって…」
「女の子を30分も待たせるなんて意味わかんなし…」
「ホントにごめん!!」
僕は両手を合わせ何度も謝る。まさか、空良が待ち合わせ場所に来ている
なんて思いもしなかった。最初から空良のことを信じて待ち合わせ場所に
来ればよかったと心底後悔した。
「嘘だよ(笑)」
小悪魔のような空良のイタズラに笑う声が俯く僕の心をほんの少しだけ
癒してくれた。もう、失敗はできない。
そう思いつつ、僕は空良が待ち合わせ場所に来てくれただけで満足していた。
「それで、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「え…?」
ヤバい…デートプラン…何も考えてなかった…。
「……」
「もしかして考えてなかったの?」
「……ごめん。やっぱり僕はつまらない男だね。今日は空良が待ち合わせ場所に
来てくれたことだけで十分だったよ。ありがとう…じゃあね」
そう言って、僕が肩を落として帰ろうと空良に背を向けた時だった。
「!?」
空良の手が僕の行き先を止める。その手は僕の服をギュッと握りしめ離さないようにしがみついていた。僕は照れ顔を隠しながらも、俯く空良の桜色に染まる頬を見て、胸がドキッとしていた。
「空良?」
「大地、デートしよう…」
「え…」
「デートしてみたい…」
「ほんとにいいの?」
空良は静かに頷いた。
「じゃ、デートプランは一緒に考えようか…。動物園? 水族館? 遊園地?
空良はどこ行きたい?」
「全部、行きたいけど…。大地…実は私、夜の8時までには帰らないといけない
んだ…。お父さんと約束しているの」
「そうなんだ。お父さんが僕達のデートを許してくれたんだもんな。ちゃんと、
時間は守らないとね」
「それでね、私のデータによると、ドリームパークシティって若者の間じゃ
人気ナンバーワンのデートスポットらしい。大地、知ってた?」
「ドリパク?」(ドリームパークシティを略してドリパク)
僕は今時の若者らしく愛称で言ってみたが、「…?」って、『何、言ってんだ、
コイツ…』って感じで空良の反応は薄く…いや…無反応といってもいいだろう。
「名前くらいは…チラッとインターネット広告を目にしたことくらいはあるかな」
僕は話が途切れるのを避け、すぐに言葉を切りかえた。
本当は前にチラッと見たインターネットの広告を思い出したのだ。
さすがだ、僕の記憶力は結構役に立っている。
ドリームパークシティは名称通りの施設で遊園地から水族館や博物館、
プラネタリウム、ショッピングモールや映画館もあってドームになった
外観も可愛いく、その場所だけで一日中満喫できることから若者から
中高年や子連れのファミリーまで幅広く人気があるらしい。
「ここからバスで30分くらいだし…行ってみない?」
「空良が行きたいならいいよ」
「じゃ、決まりね。行こ」
そう言って、空良は無邪気に僕の腕の中に手を入れてきた。
「え…」ドキッ…
僕は照れながらも空良の腕組みを拒むことなく受け入れていた。
ちょっと…そんな揺すったら胸が当たってるんですけど……。
空良はそんなこと気にしていないみたいだ。何だか僕一人、あたふたしている。
こんなんで大丈夫だろうか……。
近くのバス停からバスに乗り、揺られること30分。
後方座席の窓際から巨大な建物が見え、視線が釘付けになり、
目に映る煌びやかな建物に心を奪われていた。
「次はドリームパークシティ前――—」
アナウンスの声に、僕は座席の側壁付近に備え付けられたボタンを押す。
運転席近く上部の天盤に【次、止まります―――】と、表示する。
バスが停車し僕達はバスを降りた。
僕達は1日中ドリームパークシティを満喫するためにフリーパスチケットを
購入した。週末ということもありパークシティ内は人混みで混雑していた。
そして、恋人達や家族連れが泊まりで来園できるようにシティホテルも導入され
大勢の観光客で賑わいを増していた。まるでそこは、言葉で言い現わせれないくらい
とても不思議な夢空間だった。僕の視野に映る全ての物が異空間の中にいるような
未来予想図に描いた未知なる世界が限りなく広がっていたのだ。
店も園内も全て受付はAIスタッフに迎えられ、ウエイトレスや調理スタッフも人間そっくりにできたAIが対応していた。
「ようこそドリームパークシティへ。いらっしゃいませ」
違和感など全然感じさせないほど動作や仕草が人間と同じだ。
華やかなパレードに合わせ、音楽と共に美しく舞いを踊る。だけど、それも皆
全て人間が作り出しいたAIヒューマロイド達。
近未来のデジタル化は着々と実現へ向かっているみたいだった―――ーーー。
「すっごい…」
僕は目の前の光景に圧倒されていた。
「大地、時間ないよ。楽しもうよ」
空良は僕の手を取り駆けて行く。それが当たり前のように空良はその異空間の
世界に柔軟していた。殆ど人間とAIヒューマロイドの区別なんてつきやしない。
僕達は時間が経つのも忘れるくらいその世界に馴染んでいた。絶叫マシーンで
思いっきり叫び、一気に体中に溜まっていた不満を吐き出す。まったり、ゆったり
した観覧車で2人きりなった僕は空良の隣でずっとドキドキしていた。観覧車が頂点まで来ると、今更? と、思うほど僕は高所恐怖症に気付く。空良はそんな僕を
見て、ずっと手を握ってくれていた。不思議だった。空良の手は温かくて、僕は
自然に心が安らいでいた。昼食は洋食レストランで取ることにした。店内もオシャレなインテリアで設計されていて、席案内からオーダーを取って運んで来るまで全て
AIヒューマロイドが一人でこなしていた。かかった時間は約10分程度。
運ばれてきた料理が温かくて美味しかった。シェフが作る料理と大差はなく、味も
どっちかというとAIが作る料理の方が僕の口には合っていた気がする。
コストを削減し効率もいい、まさに無駄のない理想の世界といえる。
初デートは多分、僕の中で一生の思い出になるだろう……。
すっかり空も暗くなってきて、ポツポツと店の明かりが消えている。
ふと、目についた看板には【閉館時間PM8:00】と表示していた。
(そうか…ここも8時までなのか……)
僕は上着のポケットからスマホを取り出し時刻を確認する。
―――pm7:45
やっべぇ…もうこんな時間か…。
『夜の8時までに帰らないといけないんだ…。お父さんと約束しているの』
空良が言った言葉を思い出した。
もしも時間までに帰らないと、空良とも付き合えなくなるかもしれない。
「ねぇ、空良…もう帰らないと…」
「大地、次、あそこ行こー」
空良は指を差し駆けて行った。空良が向かった先にあるのは【プラネタリウム】。
「ちょっと、空良、待って」
僕は空良を追いかける。
思い立ったら即行動する。そういうとこ……なんか全然変わってない。
『クスッ…』
僕は中学時代の淡い日々を思い出していた。
(本当に空良は行動力がある……)
「プラネタリウムはね24時間フル回転していて、無料で入れるんだ」
僕は空良の背中を追いかけるようにプラネタリウムへと入って行った。
「いらっしゃいませ、ようこそプラネタリウムへ」
AIヒューマロイドの制服の名札には
と書かれていた。スリーサイズは上から88、66、85。趣味はスキーと登山。
性格はおっとり系で甘え上手。人格も声も普通の女子高生そのものだった。
「ごゆっくり楽しんでください―――ーーー」
奈々は愛想よく笑って対応する。
一歩入ると、そこは辺り一面 満天の星達がキラキラと広がっていた。
その数…それ数十万粒か…いや、それ以上かもしれない…。
星をこんな近くで…しかも、こんなにたくさん見たのは初めてかもしれない。
「すっごい…」
僕はもの珍しいものを見るみたいに辺りをキョロキョロと見渡す。
「大地、こっちだよ…」
僕は誘導されるまま空良の後をついて行き大ホールへと入って行く。
中央にある座席に僕達は座った。周囲には誰もいなく、僕達だけだった。
暗闇の中、見ているのはこの星達だけ。ムードも満天。
空良の手を握っても大丈夫だろうか……。僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
その時、目の前に流れ星が流れ、その一瞬の出来事に僕は心を奪われ見惚れていた。
映像で映し出しているとはいえ、僕の心は思わずうっといするくらい幸福感に
満たされていた。
「ずっと空良と一緒にいられますように…」と願い、僕はそっと空良の手を
優しく握る。空良から反応はない。
「……」
少しして―――、
コトン…何かが僕の肩にのしかかってきた。
ふと視線を向けると、空良の頭が僕の肩に寄りかかり、空良は無防備な
寝顔を見せ眠っていた。
「なんだ寝てるのか…くすっ」
空良が見せる素の寝顔があまりにも可愛くてポロッと僕の口から笑みが零れた。
僕の視線が空良の艶がある唇に集中していた。僕は身を立て直し、自ら空良の頭を
支えるようにその肩に腕を回していく。
唇までの距離…数センチ。
僕は身を寄せ、空良に優しく口づけをする。
甘い香りが僕の唇に伝わってきて口の中まで広がってきた―――ーーー。
そして約束の時間のことなどすっかり忘れていた僕は幾千粒もの星達に見守られ
幸福のひとときを満喫していたのだった―――――ーーー。
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