第19話 記憶探し~告白~
その日から僕と空良の記憶探しが始まったーーー。
僕は自分の中にある過去の記憶を辿り、一つずつ、一つずつ
記憶のピースを埋めていく。きっと、どこかで空良の記憶の中に
僕は交わっている。
ああ……。
昨日、空良と話をしたばかりなのに、僕は早く空良に会いたくて
たまらなくなっていた。早く、放課後が来ないだろうか、、、。
空良とクラスが違うと一日が長く感じる。
そういえば、昔もこんなことかあったような…。
僕は一番後ろの窓際の席から窓越しに映る景色を眺めながら
過去を思い出していた。
空良と初めて会った日のこと。
あれは確か、防災訓練があった日だったっけ…。
……っていうか、僕は目立ちたがり屋の空良のことを
知っていたけど、クラスが違う空良と話をしたのは、
あの防災訓練が初めてだった。
おどおどしている僕を助けてくれたのは空良だったね。
窓にブーメランを投げつけてさ、女の子なのにすごい力がある。
ブーメランに括りつけた紐を思いっきりグイッって引っ張ってさ、
逃げ遅れたと思った僕を救い出してくれた。
でも、それは防災訓練だってさ(笑)。
ほんとに笑っちゃうほど空良の行動はぶっ飛んでいた。
目立ちたがり屋のクセに友達は一人もいなくて、
たまたま通りかかったC組を
窓際の席でぼんやりと窓越しに見える景色を眺めていた。
その席は僕と同じ席だった。たまたま通りいかかった…なんて、嘘だ。
本当はあの防災訓練があった日から僕はドキドキしていた。
そして、空良に惹かれたいたんだ。
だから、空良に会いたくて…空良の事を見たくてC組まで会いに行ったんだ。
あれ? 記憶がどんどん戻っていっている。
そして、僕はあの河川敷で空良が一人ブーメランを飛ばしていることを知り、
わざと通学路でもない土手を通っていた。最初は空良と友達になりたかった。
『僕と友達にならない?』
『―—ならない』
一刀両断!! はっきりしている子だと思った。
それでも僕は空良と一緒にいたくて、
『君も一人だろ? 僕も一人なんだ』
『だから?』
『友達にならない?』
『友達なんてめんどくさいもん必要ないよ』
『そりゃ君は一人でも最強だけどさ…』
『……』
『2人ならもっと最強になれると思わない?』
『卒業まで5か月もないんだよ。今更、友達なんて作ってどうすんだよ』
『どうもしないよ』
きっと、あの時、空良はあきれていただろう……。
それとも僕の事、ひつこい男の子だと思っていた?
違う…空良は
自由奔放に本能のまま動いているのが空良だ。
【友達】なんて言葉は空良にとって必要ない。
だって、【友達】なんて言葉は僕達にとってはそんなもの
最初っから必要なかった。
いつの間にか隣にいるのが当たり前になっていて、
いつの間にか隣にいないと寂しくて、会いたくなって、
同じ景色を見ているだけで幸せだと思った。
気付けば友達以上の感情が溢れて出していた。
そして、空良にもっと近づきたくて、触れ合いたくなって、
でも僕には男としての勇気もなくて、泡のように消えていく
妄想はいつもギリギリのところで思い留まっていた。
中学を卒業すれば別々の高校になる。
空良と一緒にいられる時間を精一杯楽しく過ごすんだ。
今まで何一ついい思い出なんかなかった僕が初めて空良と出会い
僕にも人間らしい感情があるんだということを知った。
空良の存在は僕にとって何よりも大切な宝物だった。
この先、空良が笑顔なら 例え隣に僕がいなくても、
空良の未来が幸せなら 別の場所にいたとしても、
空良が同じ空を見ているだけで僕は幸せだと思うだろう……。
だから僕は自分の想いを空良に伝えなかった……。
―――そして、事故が起きたーーー。
僕は記憶を失い、空良のことも忘れ、まるで抜け殻状態だった。
空っぽになった心は真っ白く濁っていて、空白の時間が何だか
もどかしくモヤモヤしていた。
そして空良の存在を思い出した時―――、
あの日、あの時、自分の想いを空良に伝えなかったこと、
僕は後悔していた。
明日どうなるかわからない人生、好きな人がいるなら
好きな人に「好きだ」と言わなきゃ想いなんて伝わらないし、
実らない。会いたい人がいるなら毎日だって会いに行こう。
いつだって空良はぶっ飛んでいて、自分をごまかしたり、
駆け引きなんかしない、計算高くもなく、白黒ハッキリしていた。
本能のまま突き進んでいた―――ーーー。
それが猿渡空良なら今度は僕が本能のまま空良に会いに行く。
だって、空良に会いたいから―――。
それに僕が教室を抜け出しても誰も気づかない。
だって、僕は空気のように存在感がない臼井大地だから……。
僕は静かに教室を出る。
ほらね、誰一人 僕の方に視線を向けていない。
こんな時、存在感がないのはありがたい。
廊下に出ると僕は足音を立てずに走る。
存在感がないのは生まれつき性分なのか、おもしれぇ(笑)。
足音さえも響かないほど存在感ねぇー(笑)
――― 一年の教室。
一年生の教室前まで来ると、僕はそっと立ち止まり少しだけドアを開け覗いて見た。
一番後ろの窓際の席で窓越しに見える景色を眺める空良が僕の目に映る。
「……」
やっぱ空良…可愛いいいwoo……見ているだけで僕の頬が赤くなる。
「……?」
空良がこっちに視線を向ける。
ドキッ……
僕は手招きで『こっちにおいで』と空良に合図を送ってみた。
空良は突然立ち上がると真っすぐ僕がいる方へと向かって来た。
『え…!? マジで?』
「猿渡、授業中だぞ! どこ行く! 戻りなさい」
そんな担任の言葉を無視して空良は教室を出て来た。
僕は空良の手を取り突っ走る。
ハァ、ハァ、ハァ…
息を切らせ 走り抜けた僕達はいつもの土手に辿り着く。
「大地…?」
空良が唖然とこっちに視線を向けている。
僕は空良の視線に気づいていたが、気づかないフリをしていた。
勝手に教室から空良を連れ出し、勢いで空良をここまで連れて
来てしまった。まったく、こんな大胆な行動が僕にできたのかと、
自分でも驚いている。
まだ心臓がドクンドクン音を立てている。
照れくさくて、恥ずかしくて、それでも僕は空良と一緒にいたくて…
僕はまともに空良の顔を見ることが出来なかった。
でも、最初の言葉を言わなきゃ前には進めない。
……いや、多分、僕は溢れ出してくる想いを…どうしようもなく
止めることができなかったんだと思う。
「空良…」
「……ん?」
「思い出したんだ…」
空良はじっと僕に視線を向けている。
「僕は空良のことが好きだった…。あ、じゃなくて、過去形じゃなくて…
今でも空良のことが…」
しどろもどろになりながら言葉を詰まらせ、僕は一人で慌てふためいていた。
前の空良なら、こんな時、『バカじゃねーの』とか『お前はアホか』とか
一発、突っ込んでくる。――が、空良からは何の反応もない。
僕は横目でチラリと空良の方へと視線を向ける。
空良はじっとこっちを見ていた。
「……」
この状況は…いったい……もしや、僕の告白をスルーしている?
それとも冗談とか嘘だとか思っている?
いや、もしかして記憶を失くして戸惑っているのか???
なら、僕も男だ。ここは真剣に面と向かって言うしかない!!
「空良…僕は空良のことが好きだ。友達じゃなくて、僕は…その…
空良にそれ以上の感情があるんだ。空良を…愛している…」
よし! 言えた!! 僕、よく頑張ったあああ……
―――で、空良の答えは? YES? NO? さあどっちだ!?
「……―—ん?」
「……愛?」
「… … …」
照れることもなく、バカにするような言葉を投げかけることもなく、
空良の表情は…そう、記憶を失っているというより…それは、まるで
生れて間もない真っ白い心を持った子供が初めて言葉を覚えるような
そんな表情をしていた。
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