ギルド冒険譚:眠れる黒龍の覚醒

「まずは出来ることからやろうか」


 俺はクエストの方針を決めた。


「となると???は置いといて、まずは神父を救うからやるか」


 アストライアは一番単純なものから始めようと提案する。


「救えって言われてもな......具体的にどうすればいいんだ?」


「俺に良い案がある」


 俺はある作戦を思いついていた。それはルナの称号である『冥界の調和者』を利用するという作戦だ。そのためには神父と交友関係を築く必要がある。

 俺はこの作戦をギルドメンバーに共有した。


「ルナが称号持ちだったとはね......今回はその作戦が良さそうね」


「いやいや落ち着きすぎだろ!称号持ちだぞ?称号!トップランカーが持っている称号をギルドメンバーが持っているだなんて......」


 イザベラは冷静だったがヨイチは落ち着いてはいなかった。まぁ、称号持ちなんて滅多にいないから当たり前の反応だろう。今俺も称号持ちだというとヨイチは余計取り乱すと思い言うのをやめた。


「まずルナの称号の効果を発動するために交友関係を築こう」


「交友関係つったってな、どうするんだ?」


 ヨイチは少し落ち着きを取り戻し言った。前のゴブリンは簡単だったが今回はそうはいかないような気がした。


「とりあえず話をしてみるのはどう?」


 イザベラの案の通り俺達は神父と話をした。


「神父さんはいつからここにいるんですか?」


「私の生まれはここの教会なんです。そのため生まれた時から神父になる運命だったのですよ」


「そうなんですね。じゃあ......」


 ルナと神父は会話を続けた。しかし交友関係は築けなかったようだ。そもそも何をもって交友関係が築かれたという判定になるのかもわからない。


「それならゲームするとかどうだ?オセロとか将棋とかさ!」


「オデッサイトにそんなゲームないでしょ。はぁ......これだからバカは」


「今バカって言ったな!バカっていう方がバカなんだぞ」


 ヨイチとイザベラは仲が良さそうに口喧嘩をしている。確かにヨイチの案は実行出来るものではないな。


「アストライア、何か案ないか?」


 俺はアストライアに案を求める。しかしアストライアは首を横に振り言う。


「俺は人と交友関係を築くのがそもそも苦手でな。なんも思いつきやしねぇよ」


 俺も思いつかなかった。その時神父と話をしていたルナが俺達のほうに寄ってきて言う。


「みなさん!どうやらこの教会には地下室があるみたいです!そこには奇跡の泉と呼ばれるものがあったらしいのですが謎の力を封印するために泉の力を使って枯れてしまったらしいんです!神父はその泉を復活させたいみたいです!」


 ルナは交友関係を築けるであろう方法を会話の中から導き出した。


「となるとこの魔石を浄化するのが一番最初にやることになるって訳か、イザベラなんか浄化魔法持ってないのか?」


 ヨイチがイザベラに聞いた。


「私は黒魔道士よ?そんなの覚えてるわけないじゃない!」


「まぁそうだろうな、わかってたけど一応聞いただけだよ」


 浄化魔法は使えないとなるとどうするべきだろうか。おは考え込んだ。


「一応浄化できないことはないが......とてもリスクが大きい。それでも良いなら方法を知ってるぞ」


 アストライアが渋々口を開いた。


「大きなリスクか......一応方法を聞かせてくれ」


 俺は息を飲み込みアストライアに聞いた。


「これはエルフの森でのクエストで得た儀式でどんなものでも浄化出来るんだが、そのかかっている呪いをプレイヤーか帰属物に移すと言うものなんだ。少しの呪いなら大丈夫なんだがこの魔石は見た感じとても強い呪いが封じられている。どんな影響があるのかわからないんだ」


「そんな儀式があるのかよ、流石に危険すぎるな」


 ヨイチは他の方法を探そうとしていた。でも俺はこの呪いを自分が受けることができないかと疑問に思っていた。俺が身につけている魔王の指輪、これにも封印のために呪いがかかっている。封印が強まるかもしれないがこの指輪に呪いを移すことができれば......


「その方法でいこう。呪いは俺が受ける」


「正気かよレオ!?」


「ドングリさんの言う通りです。あまりに危険すぎます」


 ヨイチ達は猛反対だった。しかしアストライアは違った。


「......どんな方法を使うんだ、レオ」


 アストライアは慎重に聞いてくる。


「この指輪は古の魔王が自身の力を封印した指輪で呪いがかけられている、さらに呪いをかけるのは大丈夫だろう。これは既に俺の帰属物だから条件は達成している。封印は強まるかもしれないがやるしかない」


「なるほどな......やるか、神父!手伝ってくれ」


 アストライアは床に魔法陣を書き始め、神父に指示をしながら儀式の準備を始めた。魔法陣は教会の床に、古代の文字と奇妙な模様で描かれていた。神聖なエネルギーがその模様を彩り、それぞれの記号がかすかに輝いているように見えた。


「レオ、中央に立ってくれ」


 俺はアストライアの言う通り魔法陣の中央に立った。


「それじゃ、始めるぞ。サーレンド・マリオン!」


 アストライアが呪文を唱えると魔法陣が起動した。魔法陣から青白い光が放たれ、床全体が輝きに包まれた。その光が魔石に宿る呪いのエネルギーを包み込み、魔法陣の模様がエネルギーを引き寄せるように働く。呪いの暗黒エネルギーが魔法陣から引き離され、空中に集まる。そしてエネルギーは指輪へと入っていった。


 ーー呪いが指輪にかかりました。抵抗しますーー


 指輪が呪いに抵抗しているようだ。指輪から暗黒の影が広がり、微かな霧のようなものが指輪を包み込んでいく。


 ーー呪いの解呪に成功しました。封印が一部解放されますーー


 全ての状態異常に抵抗する。


「封印が一部解除された......!?」


 予想外の収穫だった。呪いへの抵抗と同時に封印が一部解除された。そして俺は新たな力を手に入れた。


「成功したみたいだな、レオ」


 アストライアが話しかける。魔法陣は既に消えていた。


「冒険者さん、ありがとうございます!これで奇跡の泉が復活するはずです!奇跡の泉は特別な力があります。お礼に泉の力を受け取ってください。泉の橋へ連れて行きます。ついてきてください」


 俺達は神父に連れられ教会の地下に行き泉の元へ向かった。


 奇跡の泉は、静寂と穏やかな光に包まれていた。泉の水面は透明度が高く、その水はまるで瞳に映る星のような輝きを放っていた。

 泉の周囲には様々な色彩の花が咲き誇り、その香りが空気中に溶け込んでいた。青々とした木々と優雅な植物が泉を取り囲んでいる。

 泉の水はキラキラと光り、微かに優雅な輝きを放っていた。水しぶきによる陽光がその粒子を虹色に輝かせていたかのようだ。

 泉の水は不思議な力を持ち、その周囲には微かな霧が立ち込めているかのような幻想的な光景だった。静寂と神秘がこの奇跡の泉に漂っていた。


「綺麗......」


 イザベラは泉に見惚れて呟いた。


「皆さんのおかげで泉が復活しました。本当にありがとうございます!泉の水をお飲みください」


 俺達は神父の言う通り水を飲んだ。


 ーー奇跡の泉の水を取り込みました。レベルアップに必要な経験値が半減しますーー


「必要経験値半減!?どんな水なんだよこれ」


 ヨイチは声を上げる。他のギルドメンバーも喜んでいる。


 ーー称号古の魔王の息子の効果で奇跡の泉の水の効果を無効化しますーー


「そんな気はしてたけど......」


 俺はとても小さな声で呟く。


「みなさん!神父さんとの交友関係を築くのに成功しました!」


 俺はルナの声を聞きクエストを確認するとクエスト目標があと一つになっていた。


「後は???の討伐か......情報が少なすぎるな」


 そんなことを考えていた時だった。遠くからでも聞こえるような轟音が伝わってきた。その音はまるで地を揺るがすような迫力を持っていた。


 そして、遠くの奥深くから不気味な共鳴音が聞こえる。その共鳴音は響き渡り、まるで天井を突き破るかのような咆哮に変わった。


「我を目覚めさせたのはどいつだ」


 その声は魂に直接語りかけているようだった。俺達は地上へ戻り声の主を確認した。そこには重厚な鱗に覆われ、全身は深い黒に輝いている黒龍が羽ばたいていた。鋭い爪と大きな翼、燃え盛る炎のような瞳はまるで闇夜から抜け出したような、恐るべき威圧感を放っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る