身分隠して冒険者やってたら、敵国の皇女とベッドインしてて詰んだ
恋狸
第1話 相棒が敵国の皇女だった件
きっとやってる。みんなやってる。
どの国の王子でも王太子でも、必ず一度はやってる。
多分一番上の兄貴もやってるし、敵国の超絶シスコン皇太子だってきっとやってる。
何をって?
──身分を隠して冒険者をすることを。
温室育ちのぬくぬく坊っちゃんは、必ず一度は冒険という破滅的で、浪漫溢れる危険な職業に憧れる。そして、二度とやんねぇわこんなクソ稼業、と匙を投げに投げまくって、自らへ『冒険者はクソ』と戒めを課す。
多分どの国でも冒険者の扱いがまあまあひでぇのはそのせいだと勝手に俺は思っている。
その点俺は良かった。
大国の四男として産まれたとは良いものの、妾の息子。王子とは思えねぇほど悪辣な環境に身を置いたこともあったし、なかなかにひでぇ扱いを受けてきた。
とは言え衣食住に困らなかった分だけ何倍もマシだ。俺が言っている悪辣だって、市井の者からしたら一般的なんだろう。
あくまで王子として扱われなかった、というだけの話。
それも俺が優秀だと知ってから手のひらを返す輩が多数出現したが。
だからって俺は兄貴たちが好きだし、今更第四王子派とか言っても、お前らで好き勝手やってれば? としか思わんわな。普通にウザいからやめてほしいけど。
まあ、そんなこんなで溜まるわ、溜まる、ストレス。
発散先も限られているし、性欲でも晴らせばええかと花町に行こうとも感染症が怖くて行けない。それに素人童貞になるのは非常に勘弁。
「第四王子ってさ、花町で童貞卒業したらしいよ」
こんな噂流れたら軽く死ねる。
花町で童貞捨てて何が悪いんじゃボケェ!! 先達の英雄たちに謝れよクソが!!
──クソみたいな思いはさておき。
ともかくストレス発散がしたくて、有り余った力を簡単に使える場所はどこかと考えた結果……話は戻るか冒険者になった。
冒険者は簡単に言えば、魔物から民草を守る自治組織……というのは建前で体の良い雑用人だな。
高く売れる素材の魔物は大抵騎士団とか、金持ちの自警団に占領されてるし、唯一残った浪漫である迷宮に至っては死亡率79%だしな。
誰が行くか!!
俺は行ったよ。死にかけた。
冒険者になって即座に迷宮に突っ込んだら余裕で死にかけたよな。
お行儀の良い魔法や剣術なんて通じないし、魔物は待てと言っても待ってくれない。死にかけて、冒険者の先輩に助けて貰って事なきを得た。
ここから俺は死ぬほど頑張った。
頑張ればどうとでもなる才能が俺にはあったし、迷宮に湧く魔物はストレス発散には丁度良かった。
肌がひりつく殺し合い。魔物を屠る感覚は、俺にとって清涼剤のようなものだ。
☆☆☆
──迷宮、48階層。
「ッハ! 雑魚しかいねぇわ!! アンリィィ! そっち頼んだぜェ!」
「分かってるからそんな下品な大声出さないで頂戴」
巨大な牛の魔物……ミノタウロスを一太刀で斬り捨て、相棒にもう一体の処理を任せる。
金髪のボブ、非常に顔立ちの整ったスレンダーな女性は、目にも止まらぬ速度で
あっという間に穴だらけになったミノタウロスは、その命を呆気なく枯らすことになった。
「48階層、思ったより雑魚ィな」
「足元掬われるわよ。私がいないと注意散漫でしょう、アナタ」
「お前がいるから注意散漫なんだよ、俺は。意図的、意図的。ソロだったらもう少し慎重に動くわボケ」
「チッ」
何で舌打ちなんだよ。
不機嫌そうに顔を背けた女性……アンリの表情は計り知れないが、こいつデフォルトで不機嫌だからしゃーない。
──アンリと組み始めたのは、俺が冒険者になって二ヶ月の頃。まァ、死にかけて二ヶ月だな。
ソロも悪くねぇが、限界があることを知った俺は、丁度何も分からず右往左往してたアンリに声を掛けて、ともに迷宮に挑むことにした。
高飛車で口が悪くプライドの高い奴は、どうも浮いていた。コミュニケーションが取れないパーティ程致命的なモノはないからな。
俺は王宮で傲慢チキな口悪野郎は幾らでも見てきた故に、対処の仕方は慣れていた。俺だって口は悪いし。
だが、まあ、アンリの実力は確かで、連携も悪くなかった。迷宮に着くまで文句しか言わなかったアンリでさえ黙るほどに、俺達の相性は死ぬほど良かった。
そこからは簡単だ。
互いに戦いは好きで、実力も確か。
パーティ申請を出した翌日から、週に三回迷宮に潜る日々を過ごしていた。
アンリは家の関係で都合がつかなかったことも多いが、それでも何度も何度も……現在二年が経った今もパーティを組み続け、相棒と認める仲に至った。
辿り着いたSランク冒険者という位置。
俺達は好き放題をしていた。
「もうちっと骨のある奴が来ねぇかね」
「とは言え命大事に、よ。私達は堅実をモットーにここまで来た。ここまで来てバカを晒す真似は勘弁だわ」
「分かってるって。焦りは禁物だしな」
「一先ず今日は帰りましょう」
「だな。……あ、この後時間あるか? 一杯どうだ?」
この誘いにアンリは一度も応えたことがない。
家の都合らしいが、俺は断られること前提で前から聞いている。
だがしかし──
「そうね……。今日くらい良いかしら。行きましょう」
「え、マジ? っしゃぁ! 語り明かそうぜェ! ハッハー!!」
「そんな喜ぶことでもないでしょうに」
「いやいや、昼飯くらいは行くけど夜になって飲むのは初だろ? 酒が入った会話はまた違うもんだぜ」
「そうなの?」
今一ピンと来てないようだ。ここはいっちょ酒の良さを相棒に知らしめるチャンスかもしれねぇな。
……女性冒険者を飲みに誘うと、高頻度で夜のお誘いも含まれる。だがそんな暗黙の了解はボッチなアンリは知らねぇだろうし、俺もそんなつもりはない。
これを機にもっと仲を深めようとするか!!!!
☆☆☆
ヤッちまった。
「お、お前その姿は……」
「あっ、そ、その私、普段は変装の魔道具で髪色と長さを変えてたの……ダメ、だったかしら?」
「い、いや、いいんじゃねぇかな」
何も良くはねぇな。
俺は咄嗟に顔を隠す。この引き攣った笑みと蒼白すぎる顔面を見られたくなかったから。
艷やかな美しい漆黒の長髪。
俺だから。王子だからこそ知っているその素顔。
──こいつ敵国の皇女様じゃねぇか!!!!!
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