第16歩 続々・赤い服の女
建築業のIさんから聞いた話。
Iさんは車が大好きで、その日も自慢の愛車で独り街を流して走っていた。
東から西へ映画のセットのような街を訳もなく走り回った。
誰か知った車でも走っていないものかと繁華街に差し掛かった。
その日は人出も多く賑やかな夜で歩道の人たちをチラ見しながら走っていると大きなビルの脇道に、ひっそりと
『赤い服の女』が立っている。
ちょっと行った先でUターンして、ゆっくりと脇道に車を着けた、
近くで赤い服の女を見ていると目が合った。
―ニッコリ
彼女は微笑んできたので一瞬「知り合いか?」と思うほど
「待ち合わせかい?」
尋ねると彼女は左右に首を振る。
「暇だったら一緒にドライブでも」
誘うとコクリと彼女は頷いて助手席に乗り込んできた。
Iさんは楽しい夜になりそうだと喜んではみたが給料日前で少々懐が淋しい状況
『ドライブするしかないな』
腹を決め、まずは彼女のリクエストを聞いてみた。
「焼き場に行きたい」と彼女は答えた。
「焼き場って火葬場かい?行ってどうすんの」
「何か面白いかなって思って・・・」
「もっと他に行きたいところないかなあ・・・」
聞いてみたが、どこでも良いと愛嬌ある笑顔、口数こそ少ないが訳ありらしく
「今日は家に帰りたくない」と彼女は言う。
Iさんは色々、考えてはみたが金欠には逆らえない最悪、家に連れて行こうかと思った。
彼女を乗せてドライブしていると車内に、お香のような、やわらかい良い匂いがしてきた、彼女から、その匂いがしているらしかった。
海沿いの通りを走っていると、ふいに彼女が聞いてきた。
「あれは何?」
指差す方向に空港のライト群が見える。
「行ってみたい」彼女が言うので空港へと向かった。
Iさんの家にも近い方向で丁度良いかも知れない。
空港の裏手には市内の夜景が見える場所があって景色を眺めていると
彼女が
「こっちは何?」裏道を指差す。
じゃあ行ってみようかと車を走らせた、Iさんは裏に行っても
原野と山しか無いことは知っていたが、なんだか自分も行ってみたい気持ちになっていた。
相変わらず彼女からは時折ふんわりと良い匂いがしている。
狭い農道のような道は、あるものの既に街灯もない原野に出た、もう少し進むと山道に入るという所で彼女が
「オシッコ」と言った。
「こんな所で大丈夫?真っ暗だぞ」
聞くと彼女はコックリと頷いて車の外に出た。
Iさんが見ていると彼女は原野の草むらに入って行く。
車のライトがキツイかと思いスモールライトにして彼女が戻るのを待った。
煙草に火を点け5分、10分経っても戻ってこない。
「おかしいなあ」と思いながら倒していたシートを起こし車のライトを点灯した。
「げっ!!」
Iさんは自分の目を疑った。
車をぐるりと囲むように何十匹もの狐がこちらを向いて座っている。
それは神社の左右に鎮座している、お狐さまのポーズだった。
奥の方の草むらにも白く光る目が無数に見えた。
「なんだこれぇっ!」
ここから逃げ出そうと狐にクラクションを鳴らしてみたが、
いくら鳴らしても狐は動こうとしない、彼女も戻らない、
仕方なくギヤをバックにいれ少しずつバックしては彼女を待ち、
バックしては待ちしながら結局大きな通りまで逃げてきた。
暗闇の中で白く光っていた無数の狐の目が、いつまでも頭から離れない。
家に戻ったが眠れず、夜が明ける頃どうしても置いてきた彼女が気になって周辺を車で探し回った。
結局、彼女の姿も狐も見つける事は出来無かった。
只、助手席のシートの下に彼女に買ったジュースの缶が
封も開けずに転がっていた。
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