第31話 朝餉
「……壮一は、今年帰ってくるのか?」
「今年は、アメリカで年越しだそうよ。まあ、あの子も頑張っているから」
そうか、と父がぽつりと言葉を落とした。温かい朝食を食べている二人の横で、千歳はその場に立って様子を見ていた。
「千歳は?」
「さあ。あの子ったら、連絡一切よこさないもんだから。生きているのか死んでいるのかさえ」
「いや、あたし生きてる……はず……」
千歳は思わず相槌を打って、聞こえないことに若干イラついた。それに、例え千歳の声が聞こえたとして、千歳が見えたとして、肉体はどこかに保管されているわけで、戻れる保証はないのだ。
「メールがたまに来るんだから、生きているんでしょうけど。あの子ったら、いったい何年帰って来てないのかしら……五年? チビが亡くなったときも、仕事だからって。昔から溜め込む癖がある割に、気ばっかり強くて周りと仲良くできない子だったから、まああの子なりに思うことがあるんでしょうけど」
次に顔を見るときは、結婚相手を連れてくる時かしらね。そんなことを言う母に、父がぎょっとした顔をする。
「やだお父さん変な顔。千歳だってお年頃よ。いつかは結婚するんだからね、いつまでも子どもじゃないんだから」
母の意見に父が渋い顔をする。それを見て、千歳は笑ってしまった。
「いくつになっても、子どもは子どもっていうわけね」
肉体に戻れたら、すぐさま実家に帰ろう。千歳はそう誓った。
***
「ずいぶん楽しそうですね、千歳さん」
部屋に戻ると、死神が眼鏡の奥から誠実な瞳を向けてきた。
「うん」
「無事に、再会できましたか?」
「うん。ありがとう、死神。ここまでついて来てくれて」
いえいえ、と死神がうっすらと微笑む。微笑むと言っても、口の端をほんの少し揺らすだけなのだが、千歳には、それが死神の笑顔だと分かっていた。
「今日はこのまま、一緒に散歩に行こうよ。しばらく、ここにいてもいい? その……年明けまでは居たいな」
「いいですよ。年末年始の仕事は、別の死神に割り振られていますし、今は千歳さんの案件のみですから」
うん、と千歳はうなずいた。
死神がひと段落するまで待ってから、二人で近くを散歩したり、海に行ったり、雪を触ったりしてゆっくりと過ごした。
海で近くの神社へと死神を連れて行くと、死神は木陰に座り込んで死んだように目を閉じていた。
その横で、千歳は真っ白な世界をじっと見ていた。
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