第36話 駄々のこね合い

門番をしていた信者ごとドアを蹴破ると、そこが目的地だったようだ。

そこはまるで教会の礼拝堂のようで……

ステンドグラス越しの月明かりがソエラを照らしていた。


「お、アシュリーもちゃんといるね……

なんでそんな薄着なの? お前の趣味か?」


(なんだこの圧は……? つい数時間前まではただのガキだっただろ……!?)


ソエラは全身に震えを感じながらも、何とか言葉を絞り出す。


「……何をしに来たのでしょうか?」

「アシュリーを助けに来た」


僕は既に事切れた信者をまたいでソエラに近寄る。


「襲ってきた信者は全員殺したよ。残ってるのはお前だけだ」

「全員だと……! 馬鹿な……少なくとも三十人はいたんだぞ……?」

「正確には三十四人だね。

……どうせ大人しくアシュリーを返す気は無いんでしょ? お前が三十五人目だ」


僕がナイフを構えると……ソエラは目をカッと見開き、天を仰いだ。

かと思ったら頭を抱えて背を曲げる。

パニックにでもなったか……?


「おい、どうした?」

「……!……!……!」


僕が声をかけるとソエラは首をグイッとこちらに向けて、

殺意のこもった瞳でこちらを睨む。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!?

いつもいつもいつも!どうして俺のやる事を邪魔する!?

お前みたいな人間がいるから!俺は絶望するはめになった!」


「うるっせ……!」


思わず僕は耳を塞ぐ。

ソエラは顔を赤く染め、目玉が飛び出そうな程にまぶたをカッ、と開いている。

……尋常ではない様子だ。


しかし『お前みたいな人間』ねぇ……

自分にとって邪魔なことをする奴を指してるのかな?


「まともに生きる事を許されなかった! なのにこの世界への復讐すらも踏みにじるというのか!?」


「その復讐が……健気に生きてる女の子を殺すことか?

……お前のやってることは復讐なんかじゃない。

ただの八つ当たりだろうが!」


「黙れ! そして死ね! 消えろ! 立ち去れ!」


ソエラは叫びながらメイスを空に向かって振り回し続けている。

まるで駄々っ子だ。見苦しいな。


「はあー……本当にうるせえなあ! とりあえず黙れよ!」

「命令してるのは俺だ! 貴様こそ黙れ! そして邪魔をするな!」

「……ふっ。今の僕に命令かぁ」


今の僕は……凄く気分が良い。

身体も痛まないし、心は自由だし、透明に……澄んでいる。


正直に言うと、彼らに少し感謝している気持ちもある。

こんな状況にならなきゃ、

僕は今の気分、本当の自由を味わえなかっただろうから。


だからこそ言おう。


「お前はお前で色々あったんだろうなぁ……けど。

僕はそんなの知ったことじゃないんだよ。まあ要するに……

お前の言う事なんかなぁ……聞かねぇよボケがァァァ!!!」


「死ねぇぇぇえ! この身勝手なケダモノがああああああ!!!」


僕はナイフを構えてソエラに突撃する。

クソ野郎のクソみたいな命令を跳ね返す……最高だな!


「『黒爆弾』! 『黒爆弾』! 『黒爆弾』!」

ドゴォン!


いきなりの三連爆撃。

視界全てが爆風と闇色の炎で埋まる。


「……? 居ない? 消し飛んだか?」


ソエラの視界からそれらが消えると同時に、アローンの姿も消えていた。


「上だよソエラ君!」

「なっ……!?」


僕は爆破を飛び越えて……落下の勢いを乗せてソエラに襲いかかる。


キンッ!

「チッ……! 反応の良い奴だな!」


しかし、その攻撃は真正面から受け止められてしまった。

まあいい。ここからようやくコイツと戦える!


「近寄るな!」

ブォン!


二つの武器に押し返された僕は距離を置いて仕切り直す事にした。


「メイスと魔導書の二刀流か……!」

「この俺を舐めるな……どんな場所でも認められてきたこの俺を……!」


間違いなく一番の強敵だ。

でも、そんな事は関係ない。


コイツの計画を台無しにして、さっさとアシュリーを返してもらう。

我儘を貫き通すのはこの僕だ!



なんか気づいたら覚醒パートと種明かしパートが一話分増えていましたが、

次回から一章ラスボス戦です。応援よろしくお願いします。

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