第26話 信念と
「ワイワイガヤガヤ……」
街に戻ってくると、いつも通りな、日常の喧騒が耳に入ってくる。
さっきまでの異常な環境が嘘みたいだ。
空を見上げると真上に太陽が光り輝いていた。
「ちょうどお昼時だけど……今はいいかな……」
……あの経験をした後に平然と食事ができる程図太くはない。
「魔物を殺した後とかは割と大丈夫なのにな……」
やはり本能で人間を特別視しているのだろうか。
そんな事を思いながら僕は街をトボトボと歩き、ファルスさんの屋敷に急いだ。
*
「……そろそろ屋敷が見えてきたけど……結構遠かったんだな」
前は馬車だったから意識していなかったが、この辺は来たことが無かったな。
「治安も良さそうだな……」
「坊ちゃん。どんな時であろうと油断は禁物ですよ」
「……お前は」
本当にいつの間にか、ジョージとデップが僕の前を塞いでいた。
……僕は彼等に気づけないほど下を向いて歩いていたのか?
「ジョージ……デップ……何しにきたんだよ」
「貴方を止めに来ました」
僕の問いにジョージは答える。
「全部お見通しなのか?」
「ええ、伊達に長くハウンド家に務めてはいませんから」
「……勘弁してくれないかな。今、暴力沙汰はちょっと……避けたいんだよ」
「あんな事があっては、人を傷つけるのに躊躇も生まれるでしょうね」
やっぱり、全部見てたのか。
「僕を気遣うつもりなら、大人しく退いてくれよ」
「いいえ、それはできません。私も仕事ですから」
ジョージはゆっくり、一歩ずつ距離を詰めてくる。
僕は後ろに下がりながら叫んだ。
「なんでそんな風に……動けるんだよ! 二人共本当はこんな仕事馬鹿らしいと思ってるんだろ!?
そっちのデップなんて特にそう思ってるはずだし!」
「えっ!? 俺!?」
「……フゥー」
ジョージは足を止め、息を深く吐いた。
「貴方の言う通り。私も内心この仕事に不満があります。
そもそもアローン坊ちゃんが出ていった原因の半分くらいはリードお嬢様ですし……
貴方を連れ帰ればどんな事になるか容易に想像がつきます」
「だったら……」
「ですが。私にも信念が有ります。
トレーニ様に仕えた十数年間……彼に命じられ、リードお嬢様に仕えた三年間。
私は一度も彼等の命令に背いた事がありません。
いつ、誰が主だろうと忠義を尽くす。それが私の信念です」
まるで、ホルシド教の連中みたいだ。
自分よりも組織や主を平気で優先して。
「それは……自分でそうするって決めたのか?」
「ええ。この道に入った時にそう覚悟しました。
坊ちゃん、いえ、アローン様。
貴方は全てを捨てて家を飛び出したくらいです。
きっと何か胸に秘めた思いがあるのでしょう?」
僕とジョージは違う。違い過ぎる。
僕がそういう奉仕するような生き方だったのは……
単にそうする事しか出来なかっただけだから……
自分で決めた訳じゃなくて、ただ流されていただけ。
「……」
僕は……自由に生きたいって……そう決めたんだ。
だから、こんな所で無抵抗に連れて行かれる訳にはいかなくて……!
「あああ!!」
僕は棍棒を取り出し、ジョージに向かって突きつけた。
「そうだよ! 僕は自由に生きたいんだ!
お前の『忠義』も正直すごいと思うけどさ!
僕はもうそういうのはうんざりなんだよ!」
そうだよ。
暴力沙汰は嫌だとか……そんな一時の迷いに揺り動かされる程
僕の信念は軽くない! それを証明してやる!
「そうでなくては!」
ジョージもまた、警棒を取り出し構えた。
「デップ君。貴方も一緒に戦いましょう。
坊ちゃんは相当に強い人ですから、せめて数で有利は取っておきたい」
「……はい!」
デップは晴れやかな表情でそう答えた。
ジョージの講釈に、彼なりに感じるものがあったのだろう。
彼は両腕を広げるようにして構える。
「自由を勝ち取りたいなら! 全力で来てください!」
「……いくぞ! オラァァ!」
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