第15話 遠出

僕達は30分程かけて街まで戻ってきていた。


「……こ、怖かった」

「これでも全力よりは抑え目なんだけどね」


背中のアシュリーが小刻みに震えている。

ちょっと悪い事をしたかもしれない。

もし次があったら、もう少しゆっくり運んであげようかな?


「さて、ギルドか病院か……どっちに向かう?」

「先に……ギルド」

「分かったギルドね……」

「ちょ、待って、先に降ろして」

「あ、それもそうだね」


僕はアシュリーを一度降ろし、肩を貸す形にした。

流石におんぶされてるのを知り合いに見られるのはキツイよな。


「こんばんはー! 戻りました!」

「おかえりなさいませ……あれ! アシュリー様大丈夫ですか!?」

「ちょっと不意打ち食らって……」

「想像より危ない仕事でしたね。その分成果はありましたけど」


僕は廃屋での出来事を話し、そこで集めた物を提出した。


「なるほど……怪しい人物の情報に怪しい祭壇……

とりあえず立派に調査を完了させたのでE級に昇格しておきますね」


僕のギルドカードの情報がE級に更新された。

ようやく第一歩って感じだ。


「正直D級くらいのは実力はあると思うから自信持って」

「ありがとう、まあD級もきっと直ぐだよ」


僕達はギルドを後にしようとする。


「あれ……? これは……ちょっと二人共待っていてくれませんか?」


受付嬢は奥の部屋に入っていった。

なんだろう?


「なんだろうね?」

「さあ……?」

「お二人共、おまたせしました」


受付嬢さんが戻ってきた。

その隣には、背の高く、目に力強さを感じる老いた男性が立っている。


「えっと……? そちらは?」

「俺はここのギルドの長をやらせてもらっている

チェーンという者だ。よろしく頼む」

「チェーンさん、それで何か用ですか?」

「ここじゃちょっと話せない事でな……

そっちのお嬢さんには悪いが奥に来て貰えないか?」

「わかりました……アシュリー、立てる?」


僕達はギルド長に連れられて奥の部屋に入っていく。

そこには談話室のような作りになっていた。


「さて……お前ら二人については最年少組って覚えてるから自己紹介はいいぞ」

「セットで覚えられてるんだ……」

「早速だが本題に入るぞ、お前さん達は『ホルシド教』って聞いた事が有るか?」

「……! 聞いた事はあります」

「…………知らない」


ホルシド教……エタブレ原作でのメイン敵組織だ。


「じゃあそっちの嬢ちゃんの為に軽く説明するが……簡単ば言えば邪神ホルシドを復活させて世界を滅ぼすとか支配するとか言ってるイカレ野郎共の集まりだ」


そう、そいつらの企みを止めて平和な世界を守るのがエタブレ本編の話なんだよな。もっとも、原作でのアローンは奴らの駒として動いてたんだけどね。


「まさか……やっぱりあの祭壇は……」


「そう、察しがいいじゃねぇか。お前らが持ち帰ってきた祭壇、

あれはホルシド教の奴らが最近開発したらしい魔道具だ」


「うーん……確かに魔物は増えてましたけど。それと邪神復活になんの関係が?」


「俺に聞かれても困る。ただ、ホルシド教の中には、

邪神なんてどうでも良くて人様に迷惑かけたいだけの愉快犯も多いらしい。

今回の祭壇もそーいう奴らが作ったんだろうな」


「……」


アシュリーはすっかり押し黙っている。

いきなり話が世界規模になればそりゃ驚きだよね。


「まあ、ともかく。お前らはそんな奴らの企みを大事になる前に阻止した。

お手柄って事で……」


チェーンさんが机に大きな袋を二つ置いた。


「これは報奨金だ! 気前よく受け取ってくれよ!」

「わぁ! ありがとうございます!」

「……ありがとうございます」


僕とアシュリーはそれぞれ袋を貰う。

ずっしりとした重さを感じる。中身を確認すると結構な量の金貨が入っていた。


「パーッと使ってくれよな!

ホルシド教を邪魔すりゃあ金になると、宣伝してくれ!」


僕達は袋を腰に下げて部屋を出た。


「じゃあ、さようなら」

「はい、お疲れ様でした」


受付さんに挨拶だけして出ていく。

彼女は僕に挨拶を返すと直ぐに奥に引っ込んで行った。

色々忙しそうだな。



「思ったよりは早く話が終わったけど……どう? 傷は痛む?」

「少し……でも大丈夫」


そう言うものの、顔色が青く、かなり苦しそうに見える。


「ならさっさと病院に行こうか。お金はちょうど貰ったから心配要らないし」

「でも……帰らなきゃ……」

「強情だなぁ……帰りを待ってる人達も君が無理するのは望んでないと思うよ?」


僕がそう言うとアシュリーは顔を伏せて黙った。

納得してくれたって事でいいのかな?



「……それで先生、容態は?」

「結構ザックリ切れちゃってますね。幸い大事な腱や骨は無事だから、4日程安静にしてれば後遺症も無く回復するでしょう」

「ん……」


病院のベットに寝かせられたアシュリーが額に汗を浮かべている。


「しばらくは休暇だね……ゆっくり休んで」

「……待って」


アシュリーが苦しそうに声を挙げる。


「……村の人達に私の事を伝えて欲しい。それと、このお金も。

君くらいしか頼れる人がいない……」


……こんな弱った友達に頼まれて断れる程、非情にはなれないな。

それに、怪我の原因も僕の昇格試験の付き添いだし。


「分かった。村の場所は?

地図とかあれば楽なんだけど」

「村は……森のここ」


そう言って彼女は黄ばんだ地図を取り出し、指さした。


「結構深い所にあるんだね……『毒虫の洞窟』よりずっと奥だ」


それでも僕の「縮地」スキルなら今日中にたどり着けるだろう。


「行ってくるから……安心してお休み」

「ありがとう……それと、門番の人にはアシュリーの友達だって伝えて。

たぶんそうしないと通して貰えない」

「分かった。じゃあ、またお見舞いに来るからね」

「……ん」


病院を出る。



「……さてと、『縮地』!」


病院を出て、街も出たらもう人にぶつかる心配は無い。

アローンは全力で草原を駆け抜けていく。

そしてその様子を顔をしかめて見る者達がいた。


「デップ。坊ちゃんが今どの辺まで走ったか見えましたか?」

「いや〜……もう暗い時間ですし早すぎるしで全然……」


ジョージとデップ。

リードの命令でここ最近はずっとアローンの様子を追っていたのだ。


「無理にでも追いかけましょうか。

坊ちゃんの行動が読めませんからね」

「ええ!? いったいどうやって!?」

「こういう時の為に仕入れてもらっていたのですよ」


ジョージは荷物から四足の靴を取り出した。


「これは『瞬足の靴』履けばアローン坊ちゃんに追いつけるでしょう。

ほら、デップ。急いで履きなさい!」

「つまり自分の足で走るんですか……

うう、こんな事ならダイエットしとけば良かった……」



主人公の本名がアローンなのを忘れていた人は正直に手を挙げなさい。


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