第73話 処刑

無言で立ち続ける私と街の人々、皆私の話を聞き精一杯悩んでいるのがわかるが誰1人として此処から立ち去る者は居なかった。


この後は教会の幹部達が運ばれてくるまで、このまま待機して怒りを煽り、処刑を……


特に問題も起こらなかったため予想以上に時間が掛からず、到着までもう少し時間が掛かりそうだ。


「……」


念のためマリアを横目で見ると冷たい目で人々を流し見ていた。心を読んだのだろう、その眼は『人ってゴミですね』と語っているような気がした。


「……来たか。」


静かだった広場の一部が騒がしくなる。

衛兵の軽鎧が擦れ音がなり、罪人の到着に気づいた人々が怒りの言葉を吐いた。


「罪状」


私の魔法で大きくなった声は、人々の騒めきにかき消される事なく、広場に居る全員に届いた。


「その者達は我がディカマン家の領地の街で詐欺を働き、その行いがマリア・ディカマンによって露呈しそうになったところ、放火をし証拠の隠滅を図った。」


詐欺というのはマリアから支援金を騙し取ろうとした事だが、


「詐欺って……」

「あの無駄に高い回復魔法が詐欺だったのか?!」


教会を悪だと考えている人々は都合良く解釈してくれる。ついでにマリアの名前を出し、ディカマン家の印象を良くすることも忘れない。


1人1人磔に拘束されていく。


「詐欺という行いで人々を食い物にし、罰せられる事を恐れて放火をした事は卑劣であり、この街に住む人々に対して人とも思っていない行動です。

よって今から指示を出していた者達の処刑を行います。」


「「「おおぉぉぉぉ!!」」」


拘束されていく者達に対して好き勝手に怒りの声をあげていく人々だが、誰1人として石を投げようとはしない、どっかの公爵領と比べて民度が素晴らしいな。


「準備が整ったようなので処刑の方法を発表いたします。」


「ぇっ……?!」


近くにいた衛兵達が何故か慌て出すのを見て、一般的な処刑ではギロチンなどの準備が必要だったことを思い出した。

今回は使わないし問題はないのだが、今の場の状態で処刑まで少し時間がかかるとなれば暴動が起きかねない。


衛兵達には説明をしておくんだったな、狼狽え方が尋常じゃないため申し訳なく感じる。


「処刑は、皆さんにお任せします。」

「「「え?」」」


人々の気持ちが1つになったのがわかる。


「自らの拳で殴っても、錆びた剣で斬りつけようとも、卵を投げつけようとも、馬で引き摺ろうとも、なんでも構いません。

期限は朝日が昇るまで、朝日が昇った時点で私が処刑します。」


視線が集まっていることがわかるが、私は木箱から降りてマリアと共に歩き出す。


「あぁ、そうだ。

街をあまり汚さないようにだけ気をつけてください、復興にかかる時間が少し増えてしまうので。」


最後にそう言って広場から出る。


「広場に居なくて、いいのですか?」

「あぁ、別に問題ないはずだ。」


処刑場である広場は何かキッカケがあれば直ぐにでも爆発する。


「家族を返せ!」


広場から男の声とゴスッという鈍い音が聞こえた。

その音は物音ひとつ無かった広場に響き渡り、1人、また1人と叫び何かを投げつける音が聞こえ始めた。


「……うるさぃ。」

「帰るか、そのまま耳を押さえていろ。」


私はマリアを背負い時間が経つにつれて怒号が大きくなっていく広場から離れた。





ーーーーー


「あぁ、なんという事だ……」


ここはセイクリード教で最も神に近い建築物、神に言葉を届けることのできる唯一の大聖堂。


教皇を筆頭に多くの信者が1日を無事に生きれた事に感謝する祈りを捧げていた。


「教皇様?」

「ディカマン領に派遣していた大司教が命を落とした……」

「なんと……!」


教皇様は多少の違いはあれど神に多大な信仰心を持つ大司教達と聖なる力で結ばれている。

死という異常を察知でき、体調不良すらもわかる、そんな繋がり。


「皆、祈りを続けるように。」


教皇様が立ち上がり信仰心の強い幹部数人の肩に手を当て祈りの間から出る。

もちろん私もその1人、自慢では無い当たり前のことだが信仰心は誰よりも高く、教皇様のサポートでは右に出る者はいないと自負している。


「よくぞ着いて来てくれた。」


教皇様の執務室へ着いた我々教皇様と幹部7名、教皇様が席につき合図したのを確認してから椅子へと座る。

通常なら教皇様と同じ場に座ることなどあり得ない、なのに穏やかな教皇様は話に集中できるようにと我々を椅子に座らせるのだ。


「早速なのだが、ディカマン領で活動していたエドラン大司教が亡くなった。

原因は不明だが、恐らく貴族による凶行だろう。」


神力派のエドラン、研究により神の力を道具に宿らせる事に成功した頭脳系の派閥だが、過去に勘違いした信者に神の力を利用するのは不敬だと言われ、勢力を伸ばせなかった弱小の派閥。


我々の同志であった。


「神の力を宿すほど認められたエドランが亡くなるのは残念だ……

後に大々的に葬儀を行うが今は我々だけでも祈ろう。」


ディカマン領、神の能力の1つを勝手に使っているのにも関わらず神への敬意を持たぬ愚か者が治める地。

エドランは愚か者を処罰する役目を持っていた、そんなエドランが死んだという事はディカマンに敗れてしまったのだろう。


「我々の祈りにより神の元へと向かえただろう。」


そう話した教皇様の瞳には怒りに限りなく近い感情がこもっていた。


「我らが敵を撃つ。」


もちろんです教皇様、我々は神に選ばれた者、同志の仇は必ず……

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