双翼の陰陽師〜追放された落ちこぼれ陰陽師の兄妹は追放先で最強になる。僕たちを馬鹿にして追放した鳴海一族は没落しているようだけど、僕たちにはもう関係ないから知らない〜

リヒト

第1話

 思えばこれは、偶然ではなく必然だったのかもしれない。

 だけどこれは、僕の勝手な願望だったとも考えられる。

 そうすれば、あの地獄のような毎日を必死に耐えた事にも、意味があると思えるから。

 そうすれば、鳴海家で過ごした16年間を嫌な思い出と一括りにして一蹴しなくて済むから。

 これは、僕自身の身勝手な願いであり、理想なのかもしれない。

 それでも、意味はきっとあるはずだ。

 なんせ僕は、今こんなにも幸せなのだから。


 ■■■■■


「この役立たずが!!」


 凄い形相をしてこちらを睨む親父の表情を見て、僕は啞然となった。先ほど殴られた頬にはまだ痛みがしっかりと残っており、僕は抵抗したらもっと酷いことをされることを知っている僕は、抵抗するのを辞めた。


 もう何度目だろうか。小さなことで怒鳴られ殴られの毎日、甘やかされた覚えなど全くと言っていいほど無く、僕はいつも傷だらけだった。


 お風呂には1週間に一度しか入れてもらえず、ご飯もたまにしかもらえなかった。これが、僕にとっての日常、文字通りの地獄であった。僕はこの地獄から、何度も逃げ出したいと考えた事が、僕には逃げ出すことができない、ある理由があった。


「こんな簡単な事もできないのかお前達は!」


「「ご、ごめんなさい……」」


「少しは五大陰陽師家の一つ、鳴海家の子供としての自覚を持たんか! このまま追い出してもいいんだぞ!」


 陰陽師。

 それは本当に起源をさかのぼれば縄文時代にまでさかのぼれることさえ出来る歴史ある存在であり、2023年の現代にも残る者たちだ。

 裏の世界。

 表には決して存在を知られていない西洋では悪魔と呼ばれ、中国では妖怪と呼ばれ、日本ではマガツキと呼ばれる人を襲う埒外の怪物と戦い、表に住まうものたちを守るのが陰陽師の仕事だ。

 

 僕たちはそんな陰陽師の中でも名門である鳴海家に生まれた双子なのにも関わらず陰陽術に関する一切の才能を持たぬ落ちこぼれなのだ。 


「「ご、ごめんなさい……」」


「全く! どうしていつもお前たちはこうなんだっ!」


「「ご、ごめんなさい……」」


 どうしてできないのか、それは僕たちも知りたい。どんなに頑張っても、何度挑戦しても結果は変わらず、いつも失敗ばかり。もう何回失敗したかわからない。


「そこで反省しとけ!」


「「ご、ごめんなさい……」」


 親父はそう怒鳴ると、涙を流す僕たちを置いてその場を去った。もう慣れてしまったが、今日も僕たちのご飯は用意されないらしい。


 親父の気配が無くなると、僕は庇うように抱き締めていた僕の妹を放した。彼女の深く怯えた表情を見た僕は、双子とはいえ兄として彼女が安心できるように再びギュッと抱きしめた。彼女の小さな体が小刻みに震えていることに気が付いた。


「ほら、瑞稀、これをお食べ」


「あ、ありがとう、お兄ちゃん」


 僕は、とっておいた最後のクッキーを彼女に渡した。たった一枚しか無かったけれど、彼女の空腹を紛らわせれるならと思い全て彼女に渡した。


 僕がこの環境から逃げ出せなかった最大の理由は、僕の双子の妹である瑞稀がいたからだ。自分1人なら、ホームレスになっても今の生活よりは少しはマシな生活ができるかもしれない、でも瑞稀を僕の選択に付き合わせるわけにはいかないと考えていた。


 だから僕たちは、来るかもわからない誰かの助けが来る事を、静かに祈るしか無かった。内心、そんな都合が良いこと起こるわけが無いと知りながら。

 だけどその日は、僕たちの想像よりもずっと早くやって来た。

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