第35話 即席パーティー


 近所の住人が何事かとナグモの家を窺っている。気まずさを感じたナグモは小さく舌打ちをしながらアルフレドを家の中へと通す。


「すみません。少しお聞きしたいことがあり伺いました。あまり歓迎されていないのは知っているのですがナグモさんしかお話を伺えないので……」


 ナグモはため息をつくと、諦めがついたようである。アルフレドを奥の部屋へと案内する。


「で、なんの用ですか? 私は蛍にヴァシシをどうにかしてからここに来いと言ったはずですが」


「はい。ヴァシシ討伐にあたり幾つか伺いたい事があります。まず、この集落に神官の方はこちらにいらっしゃいますか?」


「神官のほとんどは殺害された。最後の神官も神教を絶やさぬように布教活動をしてたが、数年前に自害。今は神殿のみが残っており、正式な神官は誰もいない」


「なるほど。んっ? ということは私が使っている建物は……」


「そう。神教の最後の神官が活動していたところだ」


 ナグモの話を聞き、アルフレドはばつが悪そうな表情をうかべる。かつて神教の神官が使っていた事実を知っている者がデモゴルゴ教の布教活動を見れば反感を生み、住民の心は掴めないだろう。


「次にヴァシシの食事や何か特定の物を上げると喜ぶなど何か知っている事はありますか?」


「食事? ヴァシシは何でも食べていた、雑食だと思う。それこそ肉もよく食べていた。人間もその範囲からも漏れていないはずだ。蛍からも聞いているだろうがヴァシシは神教の信仰によって我々を守ってくれたのだ。何か特定の物を対価に守護してくれたわけではない」


「信仰によりヴァシシが従っているというのは誰から聞いたんですか?」


「うーん。改めて考えてみれば誰から聞いたとは覚えてないな。自然と知ったんだ。皆、同じように思っているはずだ」


「ふむふむ。ナグモさんありがとうございました」


 アルフレドは席を立つとナグモに頭を下げる。


「アルフレドさん。貴方が何をしようとしているのか俺には分からないが、一つだけ断言できる。この街の住人の心の傷は深い。例えヴァシジを倒せたとしても誰も貴方にはなびかないぞ」


「その通りです。南部の住人の方にはそれ以上のものが必要です。なのでナグモさんの元に来ました」


 アルフレドは不敵な笑みを浮かべ、ナグモは苦虫を潰したかのような表情を浮かべる。アルフレドはその表情を見て満足するとそのまま扉を後にする。


(何をしようとしているのだ? ヴァシシを倒せばそれはそれで反感を買う。蛍もおかしな奴と組んだものだ)


 ~~~


 準備を整えたアルフレドとファーが街の入り口へと着く。二人の荷物の量はなかなかであり、数日は森に入れる装備だ。そんな二人に手を振る人物が出口近くの岩に腰かけている。同じく旅支度をした蛍である。


 蛍はアルフレドを見つけると笑顔で手を振ってくる。アルフレドが小さく手を振り返すと、蛍のすぐ後ろには不満そうな表情を浮かべたコテツを見つける。蛍の説得に渋々着いてきたと顔に書いてある。


「アルフレドさん。ヴァシジを討伐しにいくんですか?」


「討伐? 情けないのですが私には戦闘能力は一切ありません。横にいるファーはかなりの手練れですが必ず私を守ってくれる……というわけではないのです。ただ、ヴァシジの元には向かいますよ。その装いは……蛍さん、もしかして同行してくれるんですか?」


「もちろん! お兄ちゃんも一緒に来るんだよね?」


「う、うむ。しかしだな蛍。我々はギルドの依頼を受けて――」


「あぁぁぁー。そんなつまらないこと言って。じゃあ、お兄ちゃんはギルドの仕事すればいいでしょ。私はアルフレドさんについてくから」


「ぬぅ」


 口を真一文字に閉じ、腕組をし完全沈黙してしまうコテツ。アルフレドは苦笑いを浮かべながらコテツに助け舟をだす。


「先ほども申し上げた通り、ヴァシシと戦闘をするつもりはありません。コテツさんは私を監視しなくてはならない。なので、私たちがヴァシシに必要以上近づかないようにサポートしていただけませんか?」


「うむ。アルフレド殿すまない。そのようにさせてもらう」


 町の入り口に目的が異なる即席のパーティー。一人は満面の笑みを浮かべ、二人は半笑い、仮面のもう一人の表情はうかがい知れない。四人は最低限の打ち合わせを終えると、ヴァシシのいる森へと入っていった。

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