第27話 契約
「あ、貴方は私に何をしろというのですか?」
「特になにもありませんよ。この契約書にサインをしてほしいだけです。セントさん、よく考えてください。この町の長はあなたです。貴方の価値観を町の人々が指示し成り立っている。
しかし、デモゴルゴ教に新しく入信し、新しい価値観を得た町民が長を他の方に変えたいと願うかもしれない。なので、その町民が大半を占めた場合はやはり新たな指導者が必要になるはずですよね?
十項目目につきましてはデモゴルゴ教に入信した振りをして悪さを働くものがいるかもしれません。その者のせいでデモゴルゴ様の間違った知識やイメージがついても困るです。セントさん、その土壌があるからこそ、私がこの項目を追加したと考えてください」
「もし、私がこの契約書にサインをすればイスガン=レスリー・スティカートについては不問にすると言いたいのですか?」
「私はその人物を知りませんが何かお困りの事でも?」
「いやいやいや。私もその者の噂を聞いたことがありましたので……」
半ば自分がイスガンと繋がっていると取れる発言であるが、アルフレドは笑顔で受け流す。今はこの不平等条約を結ぶことが最優先である。セントが契約書にサインをするまであと一歩、アルフレドは笑顔を絶やさずに止めをさす。
「そうですか。イスガンというものは相当悪い事をしていたのでしょうね! まさか仲間がいたりして?」
「――!」
アルフレドの一言でセントの表情が彫刻のように固まる。
「どうしたのですかセントさん? 具合が悪ければ契約は後日でも……その間にギルドに顔を出してきますので!」
「……契約書はそのままで結構」
「えっ?」
「契約書はこのままで結構と言っている!」
「おおっ! 本当ですか? それでは早速、あっイスガンの件は調べないようにしますよ。契約書にも記載しましょうか?」
「結構だ!」
契約書にすかさずにサインする。セントもためらうような仕草を見せたが、アルフレドの満面の笑みを見てすぐにペンを動かす。
十項目の不平等な誓約書は双方のサインを記載されると薄っすらと輝きだし、誓約書から二筋の光が現れるとアルフレドとセントの胸に迎い勢いよく突き刺さる。痛みこそないものの、勢いだけは凄まじい光にアルフレドは驚く。しかし、胸に傷のようなものはなく、手でさすってみるが特に影響はないようである。
いつものセントであれば、アルフレドの驚く反応を笑いを上げながら心配などをしてくるのだろう。しかし、今回に限ってはアルフレドの不平等条約ですっかりと意気消沈しており、脂汗を拭いながら、ただただ青白い顔をしている。
「これで契約成立です。これよりアルフレド様と私は双方の意志で契約を破棄するか、双方のどちらかの命が尽きるまでこの契約を遵守しなくてはなりません。……私は、アルフレド様の教会の指示をしなくてはなりません。用意ができ次第、馬車の用意を致しますので三日程お待ちください。それでは」
セントは力なく頭を下げると、すごすごと部屋を後にする。打ちひしがれた表情のセントは負け惜しみをいうわけでもなく、取り乱すこともなかった。あまりに反応の薄いセントに最後には薄気味悪さを感じるほどであったが、取りあえずは出し抜いたと言えるであろう。
部屋に戻り、ファーから部屋の安全を知らされると、ここで大きく息を吐き椅子へと座り込む。
「とりあえず上手くいったと考えていいかな! あの爺さん本当に油断できない。良い条件で布教活動ができる下地はできたけど、この町の主権をハッキリと取るまでは油断できないな」
アルフレドは鼻歌を歌いながら自室に戻ると、二つのグラスを用意する。ベッドから昨晩くすねておいたオクテの醸造酒とフォレストボアの干し肉をテーブルに載せ、グラスに勢いよくオクテの醸造酒を注ぐ。
「ファーしばらくは二人で活動だ。よろしく頼むよ」
アルフレドの言葉は羽のように軽い。いつもなら無言のファーに気後れするのだが、今日に至っては無言のファーが長年の友人にさえ見える。アルフレドは満面の笑みでグラスを上げると、勢いよく口へと運んだ。
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