第50話不穏な影1

「王家に生まれ育ちながら、自分の妃の世話を他の男性に任せるなんて……。一体何を考えているのかしら?」


 ソニア側妃が後宮の端に部屋を移された件で社交界は騒然としており、その噂は遠く離れた公爵領にも聞こえてきています。王太子殿下の心変わりと共に……。


「ただでさえ高位貴族からの評判が最悪だと言うのに。更に醜聞をまき散らしているよ」


新しい愛人ができましたの?」


「今度の相手は男爵令嬢のようだ」


「あらあら」


 夫の話しでは、王太子殿下はどうやら子作りに励んでいらっしゃるようなのです。

 確かに、子供が出来ない場合に側妃を儲けるのは普通です。ええ、間違ってません。ですが、王太子殿下はその『普通』に当てはまりません。ソニア側妃以外に妻を持つことは禁じられていますし、そのことは殿下も知っているはず……。なのに何故……?


「どうやら先に子供を作ってから、その女性を側妃にする心算らしいよ。すぐに行動に移すところが殿下らしいだろ?」


「……そうですわね」


 やっぱり碌でもない別の問題が飛び出してきました。あり得ません!


「相手の女性は理解しているのでしょうか?」


「さぁ?だが、王太子殿下の寵愛を得ている事を隠す様子もない。寧ろ見せつけているようだ。中には婚約を解消してまで殿下の愛人に収まった令嬢までいるくらいだからな。後先を考えていないというか、自分に自信があるというか。兎に角、調子に乗りすぎているよ」


「そうですの……」


 相手は承知しているのでしょうか?

 ソニア側妃という前例がありますからね。もしかすると自分も同じように妃になれると思っているのかもしれません。そんな筈ありませんのに。


「高位貴族は様子見だ」


「反対はしませんでしたの?」


「ある程度、正確な情報を得ているのだろう。殆どが殿下とその愛人たちを珍獣扱いしているよ」


 つまり、王太子殿下達を笑い者にしているということですね。

 そしてそれを殿下達は気付いていらっしゃらないと。

 愛人となった女性達の多くは未婚女性。いくら下位貴族の出身とはいえ、今後の計画設計はできていないようですわ。殿下に捨てられる、あるいは共に落ちぶれるという考えには至らないのでしょうね。ご愁傷様ですわ。

 仮に愛人の中から子供が出来たとして、その子供が「王太子殿下の子供」だと認められると思っているのかしら?

 王太子殿下に子供はできません。それと同時にソニア側妃にも子供はできないのです。そう決められているのですから。当人達に知らされていないのが少々滑稽ですが。


 


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