第45話伯爵夫人side

 王太子殿下にとって、私という存在は実に楽なのでしょうね。


 人妻で年上。

 責任を取る必要のない相手。

 年上だからこそ、素直に甘える事ができる。

 私も年下の王太子殿下は可愛らしいです。ついつい甘やかしてしまいますわ。


 だって仕方ないです。


 王太子殿下はとっても可愛らしい方なんですもの。


 王族に生まれなければきっと平凡で幸せな人生を送れたことでしょう。

 それか、元婚約者ラヌルフ女公爵と結婚してさえいれば王族として敬意を払われて前途洋々だったでしょうに。選んだ相手がよりにもよってあのような女性とは。身分はこの際、なにもいいません。けれど教養を身につけ自分自身を磨こうともしない相手では。側近も傍から離れ、今、王太子殿下の周囲には碌な人材がおりません。それでも王太子殿下は、ご自分が国王になれると信じていらっしゃる。いいえ、無理もありませんね。国王夫妻の御子は王太子殿下唯一人。殿下がそう思われても仕方ない事です。ただ、国王陛下の御子は殿下だけですが、王位継承権を持っているのは殿下だけではない。きっとその事を理解していないのでしょうね。



「本当に可愛らしい方」


 あのような素直な笑みを私だけに向けて下さって。

 照れた笑みを浮かべてくださって。

 私を愛称で呼んで下さって。


 夜会で私をエスコートする殿下を周囲がどう見るかなんて全く理解してなくて。


 本当に可愛らしく可哀想な殿下。

 ご自分の価値が王太子という立場だという事に何時まで経っても気付かない愚かしさが愛しいですわ。


 ソニア側妃が何時まで経っても懐妊の兆しがない理由に全く気付いてないところも愚直で。


 人の気持ちが全く分からない殿下。

 それ故の鈍感さには感嘆のあまり愛おしさも覚えてしまいますわ。あの感情の動きの激しさときたら。まるで幼い子供のよう。そういえば先日のパーティーで社交界デビューしたての子爵令嬢を随分気にしてらっしゃるようでしたが。


 ふふっ。

 あの令嬢も頬染めて殿下を見てましたしね。

 私が橋渡しをしてあげなくては。

 そうですわね、次の夜会であの子爵令嬢と偶然を装って接触するように画策しておきましょう。


 きっと上手くいきますわ。



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