第28話影響6

「そういえば、まだ紹介をしていませんでした。こちらに控えているのは海軍長官のモルド・ゴンザレス殿です」


 海軍長官……それもモルド・ゴンザレスって!思わず椅子から立ち上りそうになってしまいました。

 流石に名前だけは聞いたことがありました。滅多に公式の場には出てこない方ですが、かの人の実力は他国にまで聞こえているほどです。ただ、噂ばかりが一人歩きをしてしまっているような、言わば生きる伝説のような存在となっておられますが。


 敵に情け容赦なし、「冷酷無慈悲な海の悪魔」とさえ呼ばれて恐れられているとか……いないとか。


 ギレム公爵は何をお考えなのです?そんな方を連れてくるなんて!

 長官と親しく話される公爵の姿を見て、私にある仮設が浮かびました。


「――ギレム公爵閣下は玉座をお望みなんですか?」


 私の問いかけにギレム公爵は目を見開きました。意外過ぎるといったご様子の彼に、私の考えは的外れだったと何となく思いました。


「ハハハッ……――なるほど、アリエノール嬢はそう考えましたか」


 彼は笑い出した後、何か考えるように顎に手を当て、そして私を見ました。その瞳が今までとは全く違っているように感じます。思わず身構えてしまう程でしたから。


「貴女は聡い。この一瞬でご自分の間違いを悟ったのですから。貴となら公爵家を盛り立てていけると確信いたしました」


 勝手に話を勧められても困ります。それに私はまだ返事をしていません!


「ご安心を。アリエノール嬢が御実家の後継者になる事は承知しています。勿論、名ばかりではない。名実ともに“ラヌルフ女公爵”になるのだという事も。それを含めて私は貴女に求婚しているのですよ」


「そこまで理解なさっているのなら話は簡単です。私は、ギレム公爵家に嫁ぐ訳には参りません。婿を取らねばなりませんので。それともギレム公爵閣下が我がラヌルフ公爵家に婿入りしてくださるとでも?」


「ハッハッハッ、それは無理というものだ」


「存しております。私も同じですもの。他家に嫁入りは無理なんです」


「いいえ。貴女の場合は無理ではありません。両方こなせば問題ないのですから」


「…………どういう意味でしょう?」


「ラヌルフ女公爵としてギレム公爵家に嫁いで来てくださればいい。貴女は“ラヌルフ女公爵”と“ギレム公爵夫人”の二つの役割をこなせばいいだけです。勿論、私も夫として支えていきますよ。貴女の後ろ盾となりましょう。そうですね、まず私と貴女が結婚することで得られる利点について説明しましょうか」


 そうして始まったギレム公爵の饒舌さに、私は驚くしかなく。この時すでに彼の術中に嵌ってしまっていたのかもしれません。



 数日後、私とギレム公爵は正式に婚約をいたしました。



 



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