第20話元側近side
「申し訳ありません、父上」
「謝るな」
「私が王太子殿下を止められなかったせいで……」
「お前のせいではない!」
「しかし……」
「殿下が自ら選んだことだ」
「……」
父上の言葉に言い返せなかった。その通りだったからだ。王太子殿下は、
そうして、私は今日、王太子殿下の側近を辞めた。
私だけではない。今まで殿下の側近として切磋琢磨してきた者達は全員だ。全員が殿下の側近を辞退した。
当然の結果だと人はいうだろう。
王太子殿下に先はないと――――
私は幼い頃から王太子殿下を知っていた。
それこそ側近に選ばれる前からずっとだ。
レーモン王太子は、人目を引いた。
いい意味でも悪い意味でも……。
ただ、私が王太子殿下を気になったのは、容姿が優れているからでも、文武に優れているからでもない。
殿下は兎に角、冷めた子供だった。
幼い頃の私はそれが不思議でならなかった。周囲から愛されて大事に育てられているのに、いつも不機嫌そうにしていた。だからだろうか。殿下の側近は、私も含めて皆どこか距離があった。当時の私は、殿下に仕えるという意味をよく理解してなかったのだと思う。ただ「王太子殿下の側近」と周囲に囁かれることに小気味よく感じていたし、いずれは国を治める国王の側近という肩書はそれだけで魅力的に聞こえるものだ。
だから気付かなかった。
両親が複雑な表情をしていた事を。
父上は内心私が王太子殿下に仕える事を快く思っていなかったのだろう。両親にとって本意ではないことに気付いたのは随分後になってからだ。殆ど、王妃殿下の後押しで決まったと言ってもいい。そもそも何故、当時まだ未成年だった私や他の側近の登用を王妃殿下が望まれたのかは今となってはわからない。何しろ、ご学友という形を取ることなく決まった側近達だ。
選ばれた理由は一体何だったのか。
特別優秀というわけではない。かといって出来が悪い部類でもない。はっきりいって「そこそこ優秀な部類」だ。
側近に選ばれたのは「王太子殿下と同年代」だったことも要因の一つだったのだろう。
それともで同年代なら殿下と上手くやることができるだろうと思ったのだろうか。子供の目から見ても殿下は気難しい性格で、何を考えているのか分からないところがあった。今思えばもう少し踏み込むべきだったと思う。
レーモン殿下は王太子ではあるものの、その地位は不安定で盤石では無かった。
きっと殿下は幼いながらにその事を無意識に理解していたのだろう。
自分の周囲が悪意に塗れている事も……。
周囲は確かに殿下を王太子として敬っていた。
でもそれは、どこか腫れものに触るような距離感。「未来の国王」という曖昧な言葉に人々の期待、困惑があった。私達が考える以上に殿下はそのことを感じ取っていたのだろう。
欲に目が眩んだ者。
名誉に目が眩んだ者。
殿下に気に入られて甘い汁を吸おうとする愚か者。
そんな輩達が悪意をもって殿下に近づくことを牽制するのが私達側近の仕事でもあった。
まさか殿下が、
評判の悪い女子生徒だった。
何のために学園に通っているのか分からないような女だった。
私には理解できない。
何故、殿下があんな女に心惹かれたのか。
多分、私がそのことを理解できる日は来ないだろう。
それでも殿下が目を覚ましてくれればいい、そう思った。
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