第12話ソニアside

 “本当”って言われても私はよく分かんない。だって、私のお父さんはお父さんだけ。


「お母さん、お父さんは?」


「何言ってるの?ソニア?」


「だって、お母さんが言ってた“本当のお父さん”ってルーちゃんのお父さんだよ?私のお父さんじゃないよ」


「バカね。その“ルーちゃんのお父さん”が“ソニアのお父さん”になるの」



 ん?どういうこと?

 “ルーちゃんのお父さん”が“ソニアのお父さん”なんて言われても想像できないよ?意味わかんない。



「ねぇ、お父さんは?」


「ほんと、馬鹿な子ねソニアは。ま、女の子は馬鹿の方が好かれやすいからいいけど……」


「お母さん?」


「なんでもないよ。ソニアでも解るようにいうなら、“前のお父さん”は“偽物”で“今のお父さん”が“本物”だって事よ」


「?」


 よけいに分からなくなった。

 それが顔に出てたのかな?お母さんは呆れたように笑うと「そのうち理解するわ」とだけ言った。



 “新しいお父さん”と一緒に暮らして生活が一変した。


 大きな家。

 広いお庭。

 綺麗な服。

 ピカピカの靴。

 可愛いリボン。


 全部、私のものだって。

 ルーちゃんの持ち物は全部、ソニアのもの。


 夢みたい。


 ルーちゃんが着てる服って“お姫様”みたいに可愛い物ばっかりで「いいな」って思ってたんだ。それが全部手に入った。前に見た綺麗なネックレスは無かったのが残念だけど、“新しいお父さん”が「もっと良い物を買ってやる」って!


 これで私はずっと“お姫様”ね!



 あれ?

 そういえばルーちゃんは?

 最近ずっと見ていない。

 “新しいお父さん”に聞いてみると「親戚の家に行っている」らしい。早く帰ってこないかな?そしたら一緒に遊んであげるのに。





 くるくるくる。くるくる、くるくる。


 回るたびに素敵に“お姫様”は輝き出すの。

 だって、今の“お姫様”は私だから。ルーちゃんじゃないから。

 くるくる回るだけの狭い世界が一変した。


 ヒラヒラの服はルーちゃんより私の方が似合う。


 なのになんでかな?

 今度は男の子達まで私を無視し始めた。


 可愛い私が綺麗な服を着て笑ってあげたのに。



『それ……ルーちゃんの服だよな?』


『ソニア、お前……』


『お袋が言ってたのってこういう事かよ』


『最悪……』



 男の子達だけじゃない。

 街の大人たちが変な目で見てくる。



が後妻に収まったらしい』


『マジかよ。商会は大丈夫なのか?』


お嬢さんルーちゃんが鞄一つで追い出されたらしいぞ』


『なんだよそれ!?それでも親か!元々あの男は入り婿だろ!?何の権利があるんだ!!』


に騙されてるんだろうぜ』


『その酒場女が男の娘を産んでたとはな』


『リックの子じゃなかったのかよ?』


『そうらしいぞ』


『娘は母親に似た容貌だ。どっちが父親でも分からんだろうさ』


『実際のところ、女の方もどっちの子供か判ってねぇんじゃないか?』


『いえてるな』



 男の人達が嘲笑ってる。

 女達が噂話をしてる。



『母娘揃ってなんて卑しい』


お嬢さんルーちゃんの持ち物を盗んで!』


『それだけじゃないよ、あの売女、奥様のドレスや宝飾品をこれ見よがしにつけて出かけてるんだよ!』


『同じ物を着てもね、着てる女が卑しい連中じゃ、価値も下がるってもんさ。そこのところ、あの入り婿殿は理解してんのかね』


『さぁね、奥様やお嬢さんが着てた頃はそりゃあ、品があったよ。あれだけ違うもんかね』


『所詮はイミテーションさ。本物にはなれないって事だね』



 難しい話しばかり。

 よく分かんないけど、私とお母さんを悪く言っているのだけは何となくわかる。それとルーちゃんが“本物のお姫様”で私が‟偽物のお姫様”だって言っている事も。

 なんで? 私はルーちゃんより綺麗でかわいいのに!!

 可愛い私が綺麗な服を着るのは当然の権利でしょ!?

 綺麗な私が“お姫様”でしょ!?なんで皆、怖い顔するの?分からないよ……。






 くるくるくる。


 季節は巡っていく。


 くるくる。


 外に出ると嫌な目を向けてくる。嫌な事を言う人ばかり。お母さんは気にしない。誰が何を言っても相手にしなかった。


『負け犬の遠吠えよ』


 そう言って。

 何の事だろう?


『ソニア、あんたも気にする事ないわ』


 あっけらかんと言う。

 お母さんの言葉が正しいんだろう。

 皆、私やお母さんが羨ましいんだ。


 

 “新しいお父さん”が言うの。

 


『新しい学校に行かないか?』


 新しい学校?


『そうだ』


 その学校はソニアを仲間外れにしない?


『しないさ』


 ソニアを“お姫様”にしてくれる?


『新しい学校はお姫様と王子様しかいないから大丈夫だ』


 王子様?


『ああそうだ。ソニアはお姫様だからな。お姫様には王子様が必要だろう?』


 行く!

 ソニア、その学校に行く!

 行って本物の王子様と結婚するの!




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