14章 魔の巣窟 01
『悪魔』が出てきたと思われる『異界の門』。
その中に吸い込まれた俺が最初に見たものは、荒涼とした無辺の大地であった。
眼前には、草一つ生えていない土と砂と小石だけの平坦な大地がどこまでも続いている。
ところどころにねじくれた姿の木のようなものが立っているが、葉がほとんどついていないため生きた木なのかどうかすら分からない。
空はうっすらと明るいが、全体が紫の色を帯びていて、そのせいで地上のすべてが病的に紫がかって見える。
はるか遠くを見ると灰色の岩のようなものが連なって見えた。もしかしたら山なのかもしれないが、見た感じすべてが垂直の崖のように切り立っている。
「とりあえず普通に呼吸はできるみたいだな。感知できる範囲に気配はなし」
言いながら背後を見る。
俺が吸い込まれた穴は影も形もない。やはり俺がこちらに来てからすぐに閉じてしまったようだ。
俺の周囲には一緒に吸い込まれてきた土や木などが散らばっている。俺はそれらを踏み越えて、先にある異界の大地に足を踏み出した。
「さて、まずはなにをなすべきか……」
言うまでもなく、今俺がせねばならないのは元の世界に戻る方法を探すことだ。
『異界の門』から『悪魔』が出てきたというなら、同じような『門』を探してそれをくぐればいい。
『悪魔』はあちこちに現れていたという話だったから、『異界の門』自体はそれなりの頻度で開いているはずだ。
問題は広さがどれほどあるか分からないこの大地で、偶然に開いた『異界の門』を発見できるかどうかだ。
ただぶらつくだけで運を天に任せたのであれば、発見できる確率は宝くじなみに低いだろう。
しかも当然ながらこの異界には『悪魔』が多数生息しているはずだ。もし奴らと出会ったら当然戦いになる。2~3体なら問題にはならないだろうが、さらに上位の『悪魔』がいる可能性もある。楽観視はできるはずもない。
「とりあえずあの山に向かって歩いてみるか」
とにかくここにじっとしていても意味がない。とはいえ歩くにしても目的は必要だ。目に付くのは遠くにそびえる岩の山だけなので、必然的にそちらに向かって歩を進めることになった。
1時間ばかり歩いただろうか、依然として周囲の景色にはなんの変化もない。
遠くの岩山もそれほど近づいた感もない。
「……ん? あれは……」
その時遠くでなにかが動いた気がした。『気配察知』の範囲外だ。じっと目を凝らすと遠くからなにかが近づいてくるのが見えた。
「やはり『悪魔』か」
当然と言えば当然だが、それはピンク色の奇妙なモンスター、『悪魔』に違いなかった。
人間の胴体の左右から6本の足が生えていて、虫のような動きでこちらに這ってくる。頭は一つだけだが、その大きさは身体に不釣り合いなほど大きい。もちろん不気味なほどの無表情な顔は、今まで見てきた『悪魔』同様である。
そいつはキョロキョロを周囲を見回しながら歩いていたが、俺を見つけると土煙を上げながらこちらに突っ込んで来た。
俺はメイスと盾を『アイテムボックス』から出して構える。その『悪魔』は近くで見るとかなり大きかった。頭部と本体だけで全長5メートルくらいはある。
グ・ガッ!
奇妙な虫型悪魔は10メートルほど手前で急停止すると、金属のこすれ合うような叫び声とともに口を開き、氷の槍を放ってきた。
かなり強力な魔法だが、『不動不倒の城壁』には傷一つつけられない。俺はずんずんと近づいていってその頭にメイスを叩きつけた。頭部が跡形なく爆散し、胴体がベシャッと地面に落ちてすぐに黒い粒子に変わっていく。この程度ならせいぜいCランクだな。下級悪魔というところか。
俺は魔石を拾って『アイテムボックス』に放り込む。すると視界の端にまたなにか動くものが映った。見ると同じ虫型悪魔が2体こちらに向かってくる。さっきの奴と同じ、遠くの岩山の方角からだ。やはりそっちになにかあるのかもしれない。
俺は盾を構えながら、新たな獲物に近づいていった。
岩山の方に歩き続けること3時間ほど。
虫型悪魔の襲撃は8回あった。爆散させた数は30体だ。岩山に近づくにつれて同時に出現する数が増えるようだ。さっきは4体同時に来たが、『誘引』して一体づつ潰すだけなので何の手応えもない。
目標の岩山はかなり近くに迫っている。距離はあと3キロほどだろうか。かなり標高のある山で、見た目は完全に灰色の岩の壁である。
ただその岩にはいくつもの切れ目が入っているようで、一部洞窟の入り口に見えるものもある。しかもその切れ目から虫型悪魔が出てくるのが今見えてしまった。あの山は悪魔の巣なのかもしれない。
さらに虫型悪魔を蹴散らしながら進むこと1時間弱、俺はついに岩山の前まで来た。
目の前には垂直に近い岩の壁がある。見上げると100メートルほど上に巨大な切れ目が口を開けている。さきほどもそこから悪魔がはい出てきていた。
「登るしかないか」
盾とメイスをしまい、俺は岩の突起に足をかけ、わずかな手掛かりに指を這わせた。
今気づいたのだが、こういう時にも『掌握』スキルが発動するらしい。ということはわずかな突起さえあればどこでも登れるということだ。前世のメディア作品の蜘蛛男を思い出して少し笑いが出る。
『気配察知』でまだ近くに『悪魔』がいないことを確認し、ロッククライミングを始める。最初は少しおっかなびっくりだったが、すぐに慣れてすいすいと登り始める。なにしろわずかでも指がかかれば『掌握』で離れることがない。正直腕だけで登れてしまうくらいだ。
わずか数分で100メートルを登り切ってしまった。だがよく考えたら、ラーニなら足場さえあれば数回ジャンプすれば登れてしまうのだ。冒険者としては驚くほどのことでもないだろう。
その切れ目は高さだけで30メートルはありそうだった。横幅も10メートル近い。中に入ってみると切れ目というより巨大な通路である。
俺はメイスと盾を出し、その奥へと進んでいった。
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