4章 新たな街へ 04
エウロンの町の城門を出て歩いて1時間ほどの場所にFクラスダンジョンはあった。
トルソンの大岩ダンジョンと同じで、平原にドンと穴の開いた大岩が鎮座しているダンジョンである。
挑戦するパーティの数は多く、今外にいるだけでも5パーティいる。時間が少し遅いことを考えると中には更に多くのパーティがいることだろう。
もっとも俺はEランクなので遠慮するようなものでもない。中に入って一気にボス部屋まで向かった。
モンスターも同じでゴブリンとロックリザードとボアウルフだ。もはや複数出現しても瞬殺である。
ボス部屋の前では、少年少女のパーティが順番待ちをしていた。
俺が順番待ちに加わると、彼らは俺の方をジロジロ見てきた。まあこんなおっさんがソロで来ていたらいやでも興味は持つだろう。途中で出会ったパーティも俺を見て色々な反応をしていたしな。
「おじさん一人でボスと戦うの?」
そう聞いてきたのはそのパーティの少女だ。どうやら好奇心が抑えられなかったらしい。
「ああ、そうだ。ここのと同じボスは何度も戦っているから大丈夫さ」
「一人で倒せるの? パーティじゃないと大変だって聞いたけど」
「普通は大変かもな。俺はEランクだから」
「あ、そうなんだ。冒険者になって長そうだもんね」
「いや、まだなって一ヶ月の新人だよ」
と言ったら、そのパーティ全員が変な顔をした。
そこでボス部屋の扉が開き、ボスに挑戦していたパーティが出てきた。やはり少年少女のパーティだ。嬉しそうにハイタッチをしているから上手く勝てたのだろう。
「あ、じゃあ行くね」
そう言って、少女は仲間と共にボス部屋へ入っていった。
しばらくするとボス部屋の扉が開き、さきほどのパーティが出てきた。全員揃っているのだが、さきほど話しかけてきた少女が足にかなりの怪我をしていて仲間に抱えられている。
見ているとどうもそのまま帰っていくようなのだが……
「君たち、ポーションは持ってないのか?」
ついおせっかいで聞いてしまった。まあ相手が子どもだから、おっさんとしては気になってしまう。
「さっき使い切ってしまったんだ」
と答えたのはリーダーっぽい少年だ。顔には疲れと焦りが見える。
「よければ売ってやるぞ。5級品だから15,000ロムだ」
「いいのか?」
「ああ」
金と交換でポーションを渡してやると、少年はその場で少女の怪我を回復させた。パーティに安堵の雰囲気が広がるのが分かる。
「すまない、恩にきる」
「対等な取引だ。だが礼を言われるのは悪い気はしないな。気を付けて帰ってくれ」
少年たちは礼をするとそのまま去って行った。
「さて、じゃあ行くか」
俺はそれを見届けてから、ボス部屋に入った。
さすがに今回は普通のベアウルフだった。
メイスだと瞬殺確定なので素手で戦ってみたのだが……俺の拳はすでに恐ろしい凶器と化していることが分かった。
なお得られたスキルは『毒耐性』だった。順調に生存性が高まっているのはありがたい限りだ。
ギルドに戻って買取りを済ませると、俺はトレーニング場に向かった。
何人かの冒険者がそれぞれ自分の得物を振ったりしている。どの人間も見た感じランクが高そうなので、やはり高ランク冒険者は当然のように鍛錬しているんだと一人納得する。
いつものようにダークメタル棒を活用して筋力トレーニングをしていると、20代中盤くらいの青年が近づいてきた。さっきまで長剣を振っていた剣士っぽい身なりの冒険者である。
「すまん、アンタどっかで会ったことないか?」
「どうでしょうか。自分はソウシと言います。昨日エウロンに来たばかりですが、その前はトルソンにいました」
「俺はジールだ。思い出した。アンタこの間ゴブリンの大討伐に来てたろ。キング倒してアナトリアに怒られてたよな」
「ああ、そんなこともありましたね。お恥ずかしい限りです」
「ははっ、確かEランクだったよな。キングと正面から殴り合って勝つんだから恥ずかしいなんてことあるかよ」
「いえ、そのせいでお仕事を奪ってしまった相手もいますので……あ、もしかしてあの時のCランクパーティの?」
ハンサムな顔立ちだが、どこか愛嬌があって嫌味のない顔。言われてみれば俺も見たことがある気がする。
「『フォーチュナー』だ。一応俺がリーダーやってる。しかしそうか、エウロンに来たのか。ところで変わった鍛錬してるがその棒はなんだ?」
「これはダークメタルの棒です。身体に負荷をかけるのにちょうどいいので武器屋に譲ってもらったんですよ」
「へえ……ちょっと持たせてもらってもいいか?」
「どうぞ。重いので注意してください」
ジールは棒を受け取ると一瞬だけぐらっと身体を傾けたが、さすがにすぐに立て直して棒を持ちあげた。
その持ち方で彼も『安定』スキルを持っているのが分かる。まあCランクだし、俺が知らないスキルまで大量に保持していることだろう。
「こりゃ面白いな。確かにこれを振り回してりゃいい鍛錬になる。なるほどキングを倒すのも納得だわ」
ジールはダークメタル棒で剣の素振りの動作を始めた。さすがに無駄のない洗練された動きだ。やはり高ランク冒険者はヤバいな。
「おうおう、本当にいいなこれ。俺も武器屋にいって譲ってもらうわ。すまんな、ありがとよ」
ジールは棒を俺に返すと、そのまま離れて自分の鍛錬を再開した。
Cランクのお墨付きなら間違いないだろう。俺は確信を得たことで気分がよくなり、さらに鍛錬に熱を入れた。
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